『大尉。貴殿の任務は敵の揺動とかく乱です。
本隊合流後は、速やかな撤退を……宜しいですな。殿下。』
「心得ております。中将。」
『バート少佐。ヴァインベルグ大尉。よろしく頼む。』
『イエス マイ ロード。』
エンドーバーとバート、ジノの会話をコクピットで聞きながら、スザクは苦笑する。
ダールトンに次いでコーネリアの信用厚い、父親とも呼べるほど面倒見の良い人物に気苦労をかける事を申し分けなく思う。
「バート、ジノ。中央突破する。いいか。」
『了解。』
ジノの陽気な顔に次いで、バートの渋い顔がモニターに映る。
『殿下。あまり無茶はなさらないように。それに、今は作戦中です。』
「───構いませんか。少佐?」
上目遣いで顔色をうかがえば、苦笑が帰って来る。
『いいだろう。ただし、絶対に離れるな。我々3機は常に行動を共にする。
殿下、かき回すのは敵です。味方をかき回すのは止めて下さいよ。』
「イエス マイ ロード。僕、そんなに勝手に動いているかなあ。」
『アルフレッドが音を上げたから、私が替わったんですよ。
殿下の動きは、縦横無尽過ぎるって……』
「そうなの?ジノ。」
『さあ。私はずっとつき合っているから、こんなものだと思ってきたからなあ。』
「だ、そうです。そのうち慣れますよ。」
『慣れるまでつき合いたくないですね。』
3人が無駄話を続けていると、本陣から通信が入る。
『作戦決行まで後20秒。……10・9・8・7・6・5・4……』
「…3・2・1…ゴーッ!」
スザクの声を合図に、サザーランド3機が敵防衛戦中央に向って突っ込んで行った。
「敵はたった3機だぞ。何故落とせない!?」
「本当にこれが、ナイトメアの動きなのか?反応が……」
悲鳴にも似た叫びの後、戦略パネルにLOSTの文字が浮かぶ。
鉱山を占拠したテログループの司令部は、たった3機のナイトメアに混乱していた。
既に防衛戦を2つ突破されている。その後ろを本隊と思われる大部隊が押し寄せてきている。
「一体何なんだあの3機は……」
テログループの首領は、自分の傍らの男に目をやった。
男は、モニターに映る機影に唸りを上げた。
「───コーネリアの親衛隊がついている……ということは……」
その時、オープンで通信が入ってきた。
『鉱山を不法占拠している者達に告ぐ。
速やかに投降せよ。この鉱山一帯は既に包囲されている。
逃げ場はない。投降の意志無くば、一斉に攻撃する事になる。』
「私はこのグループのリーダー、ザイール・アブドゥルだ。
貴殿は、ブリタニア軍の者か。」
『──失礼した。ブリタニア軍。コーネリア殿下旗下エンドーバー隊所属。スザク・エル・ブリタニア大尉だ。』
「ブ……ブリタニア………」
ザイールは、その名に息を呑む。と、その隣に立つ男は、弾かれた様に笑いだした。
「まさか。皇子殿下自ら最前線にお出ましとは……!
飛んで火に入る夏の虫とは、貴方の事だ。
全軍に告ぐ!中央のナイトメアを捕らえろ。ブリタニアの皇子だ。賞金首だぞっ!」
地鳴りのような轟音が、鉱山中に轟いた。
『おいおいおい。なんだ、なんだ。奴さん達目の色変えてきたぞ。』
ジノが次々と躍りかかってくるナイトメアを撃ち落としながら、声をうわずらせる。
「さっき、オープンの通信で、聞き捨てならない事を聞いたんだよね。………テロリストの中で、僕の首に賞金かけているらしい。」
向ってくる敵を躱しながら、スザクが落ち着いた声で言う。
『なんだ。そりゃ!』
「こっちが聞きたい。なんで僕がこのエリアで、そんな有名人なんだろう。」
『殿下!躱してばかりいないで、撃ち落とさないと殺されます!』
スザクが躱した相手を撃ち落とし、バートが叫ぶ。
「彼らと闘う意味がない。僕の敵はもっと別にいる。」
『ここは戦場です。殿下!』
スザクのすぐ横で、ナイトメアが一機爆発した。
『お前にその気が無くても、奴らにはお前を討つ理由があるんだから。仏心出したって通じないぞ。』
ジノにまで窘められ、スザクは小さく息を吐いた。
「───仕方ないな………でも、この数、まともに相手してたら身が持たないよ。」
『じき応援が来ます。』
地表より白み始めた黎明の空に、閃光がいくつも煌めいた。
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