共に煌めく青玉の【騎士志願】

「殿下。私を、殿下の騎士にして下さい。」
2年前ブリタニアにやって来た、翡翠の瞳に茶色いフワフワの髪の皇子に願い出れば、当の殿下はきょとんとした顔でジノを見る。
「騎士?」
「そう、騎士です。もっと大人になって、私が誰よりも強い騎士になったら、スザク殿下の騎士に立候補させて欲しいのです。」
切々と訴えるジノのに、スザクは難しい顔をして俯いてしまう。
その様子に、ジノは不安になった。
「殿下。駄目でしょうか……」
「騎士……僕の騎士……」
考え込んでいたスザクは顔を上げると、隣で紅茶を飲んでいるシュナイゼルに困惑した表情を向ける。
「兄さん。”騎士”とは何でしょう。」
スザクの質問に、身構えていたジノは肩すかしを食らって唖然とし、シュナイゼルの後ろに控えるカノンは思わず吹き出し、シュナイゼルは肩をすくめて苦笑する。
スザクがやって来た年のクリスマス以来ほぼ日課となっているお茶会は、ジノの切り出した話題に妙な雰囲気になった。
「そうか。スザクはまだ騎士を知らなかったね。」
スザクは、素直に頷く。
「騎士というのは、ナイトメアのパイロットに与えられる称号で、貴族階級の1つだけれど、ジノが言っているのは、皇族専任騎士の事だよ。」
「専任騎士?」
「皇族だけが持つ事が出来る、自分ひとりのための騎士だ。
専任騎士に選ばれたものは、主となった皇族を護る事に専念し、皇族は、騎士を中心に親衛隊を作る事が出来る。コーネリアとギルフォードの関係がそれに当たる。」
「コーネリア姉上とギルフォード卿のような……」
「シュナイゼル兄さんの騎士は、マルディーニ卿ですか?』
スザクの質問にシュナイゼルとカノンは顔を見合わせ、カノンは楽しそうにくすくすと笑う。
「スザク様。残念ながら、私は騎士ではありませんわ。
シュナイゼル様のお側でサポートさせて頂いておりますが、騎士に任じられてはおりません。」
「そうなんですか。シュナイゼル兄さんが騎士を持っていないなら、僕にも必要ないですね。」
スザクのその言葉に、先ほどから心臓をばくばくさせながら成り行きを見守っていたジノは、一気に奈落に突き落とされた。
がっくりと言う言葉が見えそうな程落ち込んでいるジノに、スザクは、空気を読んでいるのかいないのか分からない(多分読んでいないだろう)笑顔を向け、ジノをさらに暗くさせた。
「ジノ。そう言う事だから…でも、僕はジノには騎士ではなく友達になって欲しいな。」
「友達……?」
ドヨーンとしたジノがのろのろと顔をあげると、天使の如く愛らしい顔でニコニコと語る。
「うん。僕は、ジノとは主従の間柄よりは友達になりたい。”お話し相手”なんかよりも、もっと仲良くなりたいんだ。」
「わ……私が、殿下の友人に?」
「うん。僕の事を”殿下”ではなく名前で呼んでくれる友達がほしい。ジノに友達になって欲しいんだ。」
迷惑かな。と首を傾げるスザクに、ブンブンと首をふって答える。
「とんでもない!すごく…すごーく嬉しいです。私からもお願いします。私の友達になって下さい!」
両手を掴んでブンブン振りながら訴えるジノに、スザクは初めびっくりした顔をしていたが、すぐに満面の笑顔を浮かべる。
「僕も、ジノが友達になってくれれば凄く嬉しいよ。これからもよろしくね。」
その言葉に、ジノは天にも昇る心地だ。
貴族の嫡子とは思えない程だらしない顔のジノを携帯のカメラで写したアーニャが、普段と変わらぬ表情でぼそりと言う。
「……記録……殿下。私も殿下の友達?」
小首をかしげるアーニャに、スザクは、こちらも満面の笑みで
「もちろんさ。」
と答える。
楽しそうに語らう子供達を見守る大人2人も穏やかな表情ではあるが、その目は何とも怪しい。
「殿下。楽しそうに何を企んでいるんですか。」
シュナイゼルを突っ込むカノンの顔も何やら楽しそうである。
「多分、君と同じ事だよ。」
「あら、そうですか。私は、近い将来スザク様が親衛隊をお持ちになるかもしれないと考えていたのですけど。」
「ほら。やはり同じだ。私が見込んだ通り、ジノは騎士に立候補してくれたしね。」
「あら。ジノとアーニャをお話し相手に選んだのは、やっぱりそう言う目的がおありでしたのね。」
「当然じゃないか。」
そして2人は、顔を見合わせにんまりと笑うのだった。

 

「スーザク。」
寮の自室から食堂に向う途中、背後からどっかりと大きな塊にのしかかられ、スザクは歩みを止めた。
同行していた同級生が振り返ると、ペットの大型犬になつかれ、重い暑いと言いながら、諦め顔でため息をつく殿下の姿があった。
このボワルセル士官学校では、既に見慣れた光景である。
「殿下。先に行ってますよ。席とっておきましょうか。」
「うん。悪いなレナード。」
「いいですよ。もう慣れましたし…ジノ、お前もいい加減にしないと殿下に愛想つかされるぞ。」
「ご忠告ありがとうございます先輩。でも、私と殿下の絆はそう簡単に切れませんから。」
「全く。年下のくせに態度のでかい奴だな。」
レナードが呆れていえば、むっつりと立つスザクの肩越しに不敵な笑顔で言い返す。
「あ、それなんですが。来月から私も同級ですので、宜しく。」
「ジノ。また飛び級?」
「そ。これで私もスザクに並んだぞ。」
「ふーん。じゃあ3ヶ月だけの同級生だね。」
「えー。ちょっと待てよ。スザク、最上級生になるのか?」
「半年後の卒業が決まった。」
「嘘だろ。戦術はともかく戦略課程は及第点じゃないか。」
「───何故、人の成績を知っている……ジノ・ヴァインベルグ。」
「そりゃあ。私は強いコネを持っているから。」
「───兄上か、コーネリア姉上だな。」
「その、おふたりだよ。」
楽しそうに答えるジノに対して、スザクは怒りを拳にこめてフルフルしている。
友達になろう宣言から3年…兄の勧めで入学したスザクの後を追ってジノが入学し、その1年後にはアーニャも入学した。
お互い切磋琢磨して飛び級に継ぐ飛び級で、本来4年の教育課程を、スザクは2年半で修了しようとしている。
これには多分に、スザク殿下の兄上、姉上の意向が反映されているのではあるが……
「しかし、半年後となると、私もこれまで以上に気合いを入れないと一緒に卒業できないな。」
「ちょっと、ジノ?僕と一緒に卒業するつもりなの!?」
「当然。でないとスザクを護れないだろ?」
そう言いながらスザクを自分の腕の中にすっぽりと抱え込む。
その囲い逃げ出すと、スザクは呆れた表情でジノを見る。
「ジノ。まだそんな事言ってるの?」
「当たり前だろ。スザク殿下の騎士の座を、私が諦めると思ってたのか。」
「前にも言ったろう。僕に騎士は必要ないって。」
「いーや。側で見て来た限り、スザクには絶対騎士が必要だ。
この学校で、何度命を狙われたと思っているんだ。」
「ジノ!ちょっと……!」
こっちへ来いと、スザクはあわててジノを自室に引っ張っていく。
部屋へ急いで押し込むと内鍵を掛けた。
「何考えているんだ。あんなところで……!」
「事実だろう。」
「事実は、全部”訓練中の事故”だ。」
「では。──真実は、第二皇子ご寵愛のナンバーズ出の弟を、事故に見せかけ亡き者にしようとしている輩がこの士官学校内に複数いる──だ。」
「まだ推測段階だ。証拠も何もない。滅多なことを共用スペースで言わないでくれ。
たまたま、側を誰も通らなかったから良かったものの……」
「レナード先輩はいたじゃないか。」
「彼は、兄上の息のかかった護衛だ。学生の振りをしているが、現役の士官だ。」
スザクの説明に、ジノは口笛を吹く。
「さすがシュナイゼル様。抜かりないな。スザクは聞いていたのか。」
「聞いてない。けど、彼の身のこなしを見ていれば、ただの士官候補生じゃない事位分かるよ。
軍のデータをちょっと探ったら、すぐヒットしたし。問いつめたら白状した。」
「ま。スザクが正体に気づくのもお見通しだろうけどな。あの方は。」
「彼の他にも何人かいるよ。最上学年には3人確認している。
だから、ジノは僕の事よりも自分の事を優先してくれ。」
「そうはいかない。シュナイゼル様が送り込んだ”護衛”の中に、私も入っているからな。」
「──どういう事だ?」
スザクの目が剣呑とする。
「シュナイゼル様と約束したんだ。在学中スザクを護り通せたら、騎士に推薦するって。」
「兄上…なんてことを──ジノ、この際だからはっきり言うよ。
僕は、君の事は絶対騎士にしない。」
「なっ……!」
ジノの目が見開かれる。
「君とは友達でいたいって何度も言ってるじゃないか。友達を騎士になんて出来ない。」
未だ愕然としているジノを尻目に、スザクはドアのロックを解除した。
「早く食堂へ行こう。夕食を食べ損なってしまうよ。」
そう振り返ったスザクの腕をジノは力任せに引っ張ると、勢いに任せて部屋の壁際のベッドに叩き付ける。
「うっ!」
仰向けに倒れ込み小さく呻いたスザクの肩を掴んで抑え込む。
「どういう事だスザク!友達だから騎士にしないなんて理由で、私が納得すると思っているのかっ!」
怒鳴るジノをスザクは静かな目で見る。
「……昔、ルルーシュに言われたんだ……」
「ルルーシュ様?」
「日本にいた頃、ルルーシュに騎士の事を教えられて……
ルルーシュが皇帝になったら俺が騎士になってやるって言ったら、友達は騎士にしない……て。
その時は、騎士の事もよく知らなくて、何だ、せっかく言ってやったのにと思ったけれど…今は、ルルーシュの気持ちがよく解る。
大事な友人に、自分の為に死ねなんて…言えないよ。」
辛そうに視線をそらすスザクに、ジノは押さえつけていた手を離した。
「スザク…騎士の事を知っていたのか…なのにあの時…」
「あの時は本当に困ったよ。自分が騎士を持つなんて思いもしなかったし…だから知らないフリでごまかせるかと思ったんだけど。」
起き上がったスザクが肩をすくめる。
「だから、友達になろうなんて言ったのか。」
「ジノと友達になりたかったのは本当だよ。騎士よりは友達でいて欲しい。」
「喜んでいいのか、悲しんだ方がいいのか分からないな。」
「悲しむ?」
ジノの言うこととが分からないと小首をかしげる。
「こんな、敵だらけの中で一人きりでいるスザクを護りたいと思っているのに、それをさせてもらえない。」
「友達として護ってくれたらいいんだよ。」
「友達として?それじゃあ護りきれない!
そして、万が一の事があったとき、私に自責と後悔に苛まれろというのか!?」
「ジノ……」
「ルルーシュ様の気持ちがわかると言ったな。だったら私の気持ちも解るだろう。騎士にしないと言われた私の気持ちが……!
それに、スザクは騎士の事を誤解している。騎士は単なる人間の盾じゃない。主従とはそんな簡単な関係じゃないだろ。お互いが、信頼という強い絆で結ばれ、親よりも兄弟寄りも近い存在だ。
コーネリア様とギルフォード卿を見ていれば解るだろう。」
「あっ……」
ジノの言葉にスザクの表情が変わる。
(そうだ。コーネリア姉上とギルフォード卿という良い見本があるというのに、自分はなんて思い違いをしていたんだ。)
友達を騎士にしないと言ったルルーシュ……だが、そのとき彼も僅か10歳だ。騎士を持つ事の意味をどこまで理解していたのか解らない。
いや、聡明な彼の事だ、きっと様々な事を考えて、騎士にふさわしくないからそう言ったのかもしれない。
スザクは、ずっと俯いていた顔をあげた。
「僕は、本当に独りよがりだな。騎士にしないと言われた時の悔しさをよく知っているくせに、君に同じ思いをさせた。
それで、良く友達だなんて言えるよ。ジノ…本当にごめん。」
まっすぐに自分を見て謝罪するスザクに、ジノも頭を振る。
「いや。私こそ。スザクの気持ちも考えずに、自分の思いを押し付けた。
それで騎士候補だなんて笑えるよ。」
二人は顔を見合わせ笑った。
そしてどちらともなく手を差し出し、握手を交わす。
「これからも、良い友達でいてくれ。」
「騎士の件、前向きに考えるよ。」
「本当か!?」
ジノの顔に喜色が浮かぶ。
「ただし……」
そうスザクが言った瞬間。ジノの体はくるりと宙を舞い、次いで腰をしたたかに打ち付けた。
「うーっ!」
投げ飛ばされ、腰をさすりながら起き上がるジノに、スザクは意地の悪い笑みを向ける。
「俺より弱い騎士はごめんだ。」
「スザクっ!」
飛びかかろうとするジノの腕をすり抜け、スザクは外へ出て行こうとする。
「夕食。早くしないと食堂閉まっちゃうよ。」
「うわっ冗談じゃない。晩飯抜きなんて拷問も同じだ。」
二人は慌てて部屋を飛び出していった。

その夜、人気のない寮内の談話室に、ジノとレナードの姿があった。
「そうか。殿下は、騎士の事を前向きに考えると仰ってくれたのか。」
「はい。これで私も、堂々と騎士候補を名乗れます。」
「それは良かったな。騎士候補筆頭くん。」
ニコニコと機嫌良く話していたジノであったが、レナードの含みのある言葉に怪訝な顔をする。
「──筆頭とは…?」
「知らなかったのか。シュナイゼル様がお考えの騎士候補は、何もお前だけじゃないという事さ。」
その時、数人の上級生が入って来た。
「おい、レナード。殿下が騎士を持つ気になったというのは本当か!?」
「ええ。間違いないようですよ。」
そう答えて、ジノに向ってにやりと笑う。
「……もしかして皆さん……」
「そう。我々もスザク様の騎士候補だ。」
「マジで?」
ジノの問いに全員がうなずく。
「おいおい。こりゃあますます楽しくなって来たぞ。」
屈強な男達を前に、ジノは指をぱきぱき鳴らしながら、不敵な笑顔を浮かべるのだった。

「シュナイゼル様。何か面白い事でも書いてあるのですか。」
ファイルを見ながら、何やら楽しげな殿下にカノンが問うと、例の、腹に一物抱えた笑みを向けてくる。
「スザクの騎士候補のリストだよ。
ジノの話だと、スザクもやっと騎士を持つ気になったようだからね。」
シュナイゼルのファイルを後ろから覗いたカノンは、その数の多さに驚いた。
「まあ。こんなに。」
「まだ、続々と立候補して来ているからね。スザクは、どこへ行っても人気者だな。」
嬉しそうに話すシュナイゼルに、カノンは苦笑する。
「スザク様も殿下並みの”人たらし”ですから。
ただし天然ですけど。貴方と違って。」
最後につぶやかれた言葉は、分厚いファイルにご満悦のシュナイゼルの耳には届いていないようだった。

 

「よし。」
スザクが、戦略過程の課題レポートを書き上げた時、自室の外、廊下から賑やかな声とバタバタ走る足音が響いて来た。
何事かとドアを開けると、寮生がはしゃぎながら足早にどこかへ向っている。
会話を聞いたスザクは、頭痛を覚えた。
「ジノ・ヴァインベルグが、談話室で上級生相手に大太刀回りしているらしいぞ。」
「何かの権利を争っているらしい。」
「一体何だ。」
「さあ。騎士がどうだとか……」
「───ジノの奴……!」
「で……殿下…!?」
色で現したら恐らく稲妻の青光り…うっかり触れたら感電死しそうなオーラを発して、顔を引きつらせているスザクがいた。
あまりの恐ろしさに道を譲る生徒の中を、電光石火の如く走り抜ける殿下の姿に、鬼と呼ばれる監督生も廊下を走るなの注意すら出来ずに呆然と見送っていた。

バアーン!!
と、大きな音を立てて、遮音効果のある談話室のドアが開かれる…と言うか、壊されると、先ほどまで大騒ぎをしていた男達も、あっけにとられて、そのままの体勢でフリーズする。
今、まさにジノが、上級生の1人にパンチをお見舞いしようとしているところだった。
「でん……っ」
か、とまで言わせないうちに、スザクの蹴りがジノの顔面を直撃する。
跳躍と回転の勢いで繰り出されるそれの破壊力は並じゃない。
しかし、相手は軍人でしかも士官を目指している人物なのだから、スザクは何の遠慮もなくクリーンヒットさせた
既に180センチを優に超えるジノの体が、軽く吹っ飛ばされる。
派手な音を立てて転がるジノには目もくれず、唖然とする上級生を睨みつける。
その中には、同室でシュナイゼルが差し向けた護衛のレナードの姿もあった。
よく見れば、スザクが把握している護衛ばかりである。
「レナード。この騒ぎは一体何かな。」
口調こそ穏やかだが、明らかに目が据わっているスザクに、現役軍人も思わず後ずさる。
「あ…いや…その…これは……」
「誰が、殿下の騎士候補として名乗りを上げるか、腕比べをしていたんですよ。」
ジノが、蹴られた頬をさすりながら起き上がって説明する。
「騎士候補は、私だけじゃないと知りましたから。」
「──ジノだけじゃない?」
「ここにいる先輩方もシュナイゼル様が選んだ騎士候補だそうです。」
「へぇ……兄上が……」
そう言って、じろりと皆を見回す。
一同、思わず直立不動でスザクの前に並んだ。
シュナイゼルが絡んでいるとなると、候補はこれだけではすまないだろう。
今度離宮に帰ったら、候補者のリストを焼却してやろうと目論みながら、にっこりとそれは愛想よく笑う。
「それで?どうやって決めてたの?」
「そ……それは…」
バレバレだが、腕力勝負…格闘していたとは言えず、口ごもっていると、ジノが苦し紛れに腕相撲…アームレスリングだと言う。
「ふーん。それで、誰が勝ったの?」
ますます笑みを深くするスザクに、その場に戦慄が走る。
軍人らは、黙って士官候補生をズイッと前に引き出した。
「そう。ジノなんだ。じゃ、僕と勝負しようか。言ったよね。
俺より弱い騎士はいらないって……」
うっそりと笑うスザクに、軍人らは合掌した。
「うぎゃーっ!!」
カエルを踏みつぶしたような悲鳴が轟く。
談話室の前には人だかりが出来ていた。
「アームレスリングじゃなかったか。」
「確かに、最初はその体勢だったぞ、」
だが、スザクはすぐにジノの腕を引き倒して、そのまま床に押さえつけると足を絡めて固め技に持ち込んだ。
「これは、柔道の技だよな。」
「腕ひしぎ逆十字……」
ジノが床を叩いて『参った』の合図を出す。
スザクは、技を解いて、ギャラリーの会話に参加した。
「そう。腕ひしぎ逆十字。よく知ってるね。じゃあこれは?」
そう言って今度は足を固める。
「ち…ちょっと…スザク…ロープッロープ!」
「いやだなあ。プロレスじゃないよ。これもれっきとした柔道。」
そう言いながらニコニコ笑う。
「───4の字がため……」
「これ本当に柔道技だったか?」
「さあ。」
「スザク!いい加減にしろっ!」
さすがに怒ったジノが飛びかかるが、スザクは彼の襟を掴んで後ろに倒れると足を高く上げた。
「あ…あーっ!」
悲鳴と共にジノが投げ飛ばされる。
「──ともえ投げ……」
床に倒れているジノの襟首を掴むと、ずるずると引きずって行く。
「で……でんか?」
「教官室に連れて行くのは、ジノだけでいいよね。
それから、ジノを倒したのは僕なんだから、この話はもう終わりだよ。」
ニーッコリと、それはそれは恐ろしい笑みを残して、幼なじみを引きずって行く皇子殿下を、後に残されたもの達は冷や汗を浮かべて見送る。
「あの人に、本当に騎士が必要なんだろうか。」
「さあ……」
「騎士に選ばれたら、相当体力を要求されそうだ。」
「それにしても、殿下楽しそうだったな。」
「ああ。殿下にあんな顔させられるのは、ジノくらいじゃないのか。」
彼らは、ジノしかいないと確認すると、ため息をついた
カシャッと、シャッター音が響く。
「記録。先輩方、いいショットをありがとう。」
「アーニャ。」
レナードが覗くと、引きずられて行く哀れなジノの姿と、楽しそうにジノに技をかけるスザクの笑顔が写っていた。

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