ニッポンの皇子さま その16

 帝立ボワルセル士官学校。ブリタニア軍直営のエリート養成機関である。
 この学校の卒業生には、戦女神の呼び名も高いコーネリア第二皇女殿下、ナイトオブラウンズのノネット・エニアグラム卿がいる。
 歩兵隊の行軍や、市街戦の模擬演習など、皇族検閲用の小部屋で見学したスザクは、感嘆の声を上げる。
「すごいな。幹部候補生だけあって、迫力が違いますね。」
 同行している、マリアンヌの騎士ジェレミアに話しかけると、普段厳しい表情の彼も目尻を下げる。
「ここは軍直轄施設ですから、実戦訓練を多く取り入れています。
 同じ帝立であるコルチェスター学園の士官学部は戦略を重視したプログラムの指揮官養成機関ですので、当校は、実践で功績を上げられる戦士の養成に力を入れているのです。」
 案内役の総務部長(といっても、軍の階級は准将である)が朗々と説明するのにスザクとルルーシュは大きく頷いてみせる。
「シュナイゼル兄上はコルチチェスターの卒業生なんだ。」
 ルルーシュの言葉に、あのしたり顔の宰相の態度がすごく納得のいったスザクだった。
「それでは、他の施設での訓練もご覧頂きましょう。
 いま、丁度対術の訓練をしている所です。」
 

「広いなあ。」
 案内された体育館では、柔道・合気道・空手・テコンドーetc.
 ありとあらゆる体術や格闘技が訓練されている。
 体育館全体を見下ろせるギャラリースペースで、スザクはその規模と訓練内容に感嘆した。
「ほう。」
 ジェレミアが、その中の一カ所に目を細める。
「ナイトオブラウンズが十人組手をやるらしい。」
「ナイトオブラウンズ?」
 皇帝を守護する騎士団の名に、スザクが色めきだった。
「どっどこです!?」
「あそこです。」
 指差す場所を見れば、長身の若者が10人を相手に格闘している。
 実に鋭い動きで、次々と向ってくる相手をなぎ倒し、あっという間に全員を倒してしまった。
「すごいね。5分と経っていないんじゃないかな。」
「ナイトオブスリー。いつにも増して動きが良かったんじゃないのか。」
 尋ねかけるルルーシュにジェレミアも頷く。
「彼は、第三席の騎士なのですか。」
「はい。」
「若いな。ナイトオブラウンズって、もっと壮年の騎士で構成されてるのかと思っていました。」
「ナイトオブラウンズの平均年齢は20代だ。壮年なのはナイトオブワンくらいで、一番若いナイトオブシックスは14歳だ。」
「じゅっ14歳?そんなに若くて、皇帝の騎士なんだ!」
 日本ではとてもあり得ない。軍人になるどころか、就労も許されない年齢だ。
「あの、スリーは2番目に若いラウンズだよ。」
「確か、16歳でしたな。」
「えっ。あの人僕より年下なの!?」
 とっくに成人していると思っていた。再び驚いて下を覗き込むスザクを、ルルーシュとジェレミアは面白そうに見た。
「僕らにしてみれば、スザクが17歳だっていうのが驚きだけどな。」
 14、5歳だと思っていた事は黙っていようと決めたルルーシュだった。
 興味津々で見るスザクに、当のナイトオブラウンズが笑いかける。
 目が合い、姿勢を正すスザクに、ジノ・ヴァインベルグは人懐っこい笑顔で皇族に対する礼をとる。
「ルルーシュ殿下。ようこそボワルセル士官学校へお越し下さいました。」
「ナイトオブスリー。何故、ここに?」
「今日は公休日でして。休みの日はここで学生を相手に鍛錬しているのです。」
 ジノの答えに、3人は感心した。
「さすがナイトオブラウンズ。常に己を高めようとする姿勢は、同じ騎士として見習うべきですな。」
 ジェレミアが目を輝かせて言うのに、ルルーシュが大きく頷く。
「はじめまして枢木卿。ナイトオブスリーの称号を頂いておりますジノ・ヴァインベルグと申します。」
「はじめまして、ヴァインベルグ卿。高い所から失礼します。」
「いいえ。どうぞお気になさらず。先日のお茶会での素晴らしい剣技に大変感銘を受けました。」
 帝国最強と唱われる騎士に褒められ、気恥ずかしさ顔を赤らめる。
「恐れ入ります。ブリタニアの騎士の最高峰におられる方からそのように言って頂けるとは、大変名誉でありがたいです。」
「ところで卿は、剣術以外の武道もお強いとか。」
「とんでもない!護身術としてたしなむ程度で……」
「ご謙遜を。毎朝鍛錬を欠かさないと聞き及んでいますよ。」
 慌てるスザクにジノの目が細められる。
「どうでしょう。私と手合わせ願えませんか。」
 不敵な笑みを向ける騎士に、スザクも真顔で見返すのだった。

「おや。今日はジノの姿が見えないな。」
 ラウンズのためのサロンに現れたノネット・エニアグラムが、いつも携帯を弄っている少女とセットのラウンズが見えない事を訝ると、アーニャは画面から視線を動かす事無く答える。
「今日は休み。」
「うん?そうだったか?」
「本当は別の日だったけれど、今日に変更して士官学校に行っている。」
「士官学校?」
「ルルーシュ殿下と、日本の皇子さまが視察しているから。」
「はあ?」
 事情が分からないと首を傾げる同僚に構わず、少女は溜息を漏らす。
「───遊びは二の次っていったのに……」 
 やっぱり分かっていない。

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