いつからだろう……この人をこういう風に“好き”になったのは……
何度も吸ったために赤く充血した唇が、艶やかな声を漏らす。
肌理の細かい肌に吸い付けば、体を震わせて応えてくれる。
指で体の線をなぞると、甘く愛らしい声と共に体が跳ねた。
ゆっくりと丹念に解したそこに、己が呑み込まれて行く……
1つに繋がった喜びに愛しい人の名を呼べば、その人の唇が甘く呼び返してくれた。
ジノ……ジノ……ジノ……
「ジノ・ヴァイベルグ!」
強い口調で名を呼ばれ、目を開ける。
先ほどまで自分の下にあったはずの翡翠が、剣呑とした光を宿して見下ろしている。
「あれ…どうしたんだ……何を怒っているんだ……?」
その頬に手をやれば翡翠が細められ、愛しい唇が自分名のを紡いだ。
「ジノ……!」
「いっ……!いってえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
思い切り手の甲をつねられ、飛び上がる。
一斉に、野太い笑い声がジノに浴びせかけられた。
「いつまでも寝ているかと思えば、寝ぼけやがって……!
とっとと起きろよ!作戦会議が始まるぞっ。」
不機嫌な顔で見下ろしてくる皇子殿下に、ジノ・ヴァインベルグはようやく覚醒した。
「あ…ああ。そうか……」
今、自分はエリア6の反乱鎮圧のための軍務に就いており、野営キャンプのテントの中だと思いだした。
同僚達は既に身支度を済ませている。
慌てて起き上がったジノを見て、スザクはぎょっとして目を丸くしたかと思うと、次の瞬間には人の悪い笑みを浮かべてくる。
「ジ・ノ……。ずいぶんいい夢を見ていたようだねぇ……
このままで姉上の前に出たら、半殺しにあうかもよ。」
指摘されてスザクの視線の先を見、悲鳴を上げた。
「いやー。若さの証拠ですよ。元気が何より。」
年かさの同僚が、笑いながらかばう。
「まあ。確かにこのままじゃ皇女殿下の前には出れねえな。」
「男の生理現象とはいえ、不敬罪でこれもんだぞ。ジノ。」
そう言って、手で首を切られるゼスチャーをしてからかう者もいる。
こんなにからかわれていても、少しも萎えてくれない……焦るジノを見かねて、スザクが声をかけた。
「………手伝ってやろうか?」
「い…い…いいですう。皇子殿下にそんな事させたと知れたら、本当にあの世行きだっ。」
必死に断るものの、どう“手伝って”くれるのか想像してしまう自分に、ますます自己嫌悪になる。そんなジノに構わず手のグローブを外そうと口にくわえるスザクが扇情的に思え、心臓が大きく跳ねた。
「こっ個室で処理してきまーすっ!」
脱兎の如く逃げ出すジノの素早さに、スザクは唖然とし同僚達は大笑いだ。
「スザクの奴。煽ってくれる……」
先ほど頭に浮かんだその先を想像すれば、あっという間に楽になった。
周りを汚していないか確認して、ほっと息を吐く。
学生の頃はまだ、こんなに意識する事はなかった。
だが、軍に入り野営などで同じテントで寝泊まりする機会が増えると、これまで見る事もなかった姿を目にする事も多く、その度にジノは、欲望を抑えるのにかなりの努力を要していた。
「───まいったな……」
いつ、この感情を爆発させるか解らない。
もし、爆発させてしまったら……?スザクはどうするのだろう……
「友達ですらいられなくなるかもな……」
ジノは、深々とため息をついた。
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