a captive of prince 第19章:革命 - 1/12

 エリア11新総督、ナナリー・ヴィ・ブリタニアは確かにこれまでの総督とは明らかに違っている。
 歴代総督の中で最年少であるにもかかわらず、いや、だからこそ、これまで誰も着手した事のない施策を次々に行っている。
 行政特区事業の失敗にも関わらず相変わらずナンバーズに歩み寄った政策方針は揺らぎもせず、公聴会を開くなど、彼らに対する差別や偏見それに伴う賃金や待遇面の改善に力を入れている。
 その一例として、名誉ブリタニア人及びナンバーズの雇用に積極的な企業への贅権納付の優遇措置があり、彼らの生活向上を目指した政策推進中である。
 そして────

 副総督スザク・エル・ブリタニアは、PC画面の向こうから自分を睨みつける白皙の青年に、眉尻を下げた。
 スザクを困らせているその相手は、彼の態度にその表情をますます険しくさせていく。
 その厳しい表情でさえ美しく見えてしまう事にスザクは感嘆の息を漏らすのだが、それが更なる怒りを呼んだらしい。
『どういう事だ。スザク!』
「どういうことって………」
 青年…ルルーシュの怒りの原因を承知していながら、スザクは敢えて分からないという顔をしてみせる。
『何故、総督自ら立てこもり犯の説得に出向かなければならないんだ。』
「それが総督の判断で、彼女の強い意志だったから。」
『俺が聞いているのは、何故ナナリーを止めなかったかだ。
 反乱分子の掃討は、副総督で駐留軍の責任者であるお前の仕事だろう。』
「そうだね。だが、今回のは単なるテロ行為とは違う。
 ナナリーもその事を重く考えていた。
 ただ制圧してしまうのは簡単だ。だが、そうしてしまえば彼女のこれまでの苦労が水泡に帰してしまう。」
 分かるだろうというスザクに、ルルーシュは忌々しげな顔をする。
 

 彼の機嫌を損ねている事件……それは真備島という小さな島で起きた。
 旧日本軍人によるブリタニア人人質立てこもり事件。
 その首謀者の名は三木光洋……旧日本軍大佐であるこの人物は、敗戦後、名誉ブリタニア人となり彼の部下であった者達と軍民屯田政策によって開墾した元々無人島であったこの島での永住を政庁へ陳情していた。
 しかし、この島の周辺に埋蔵するメタンハイドレードの利権を狙うブリタニア企業の所有となり立ち退きを迫られた。
 思いあまっての行動であると想像がつくだけに、ナナリーは武力介入には消極的だった。
「攻撃の前に────説得を…………!」
「説得?投降の呼びかけは警察隊が何度も行っているのです。
 それに応じないからこその軍派遣要請なのではないですか。」
 呆れた様にナナリーの言葉を否定するローマイヤに次いで、総督の要請で駐留軍を監督するギルフォードも淡々と軍の派兵準備が整っている事を告げる。
 2人の言葉に顔を俯かせ両の手を握り込む彼女に、スザクは言った。
「ここでの決定権は君にある。総督であるナナリーが説得を望むなら、制圧する前に説得を試みよう。」
 その言葉に、制圧が当然と考えていた2人は目をむき、ナナリーは歓喜の声を上げる。
「ありがとうございます。」
 嬉しそうな彼女に反し、他の者の表情は浮かない。
「しかし───説得と言っても………誰がする?」
 同席しているジノがうーんと首をひねれば、彼の同僚であるアーニャも携帯画面を見ながら頷く。
「軍人では、相手は脅しとしかとらない。」
「ナンバーズの代表に説得させましたが、それも効果はなかったのです。」
 これだけ言ってもまだ分からないのかと、ローマイヤは嘆息まじりにやはり武力制圧しかない事を繰り返した。
「わっ私が参りますっ!!」
 常にない強い語気で言い放ったナナリーに、さしものローマイヤも息を呑み、彼女を支援する者達は顔を見合わせ薄く笑うのだった。

「結果、犠牲者も出ず丸く収まったからいいじゃないか。」
 あっけらかんとして言うスザクを、ルルーシュは射殺さんばかりに睨んだ。
 それすらも、スザクにとっては懐かしさを感じさせる表情だ。
『丸腰のナナリーを、敵の矢面に立たせて何を………っ!
 旧日本軍人なら、元首相の息子であるお前のほうが適任だろう。』
 怒りに任せて言い放ち、ルルーシュは、はっとして口をつぐむ。
 画面の“副総督”に寂しさや切なさといった感情を見つけたからだ。
「彼らは“敵”ではないよ。だが、彼らにとって僕は……
 国を奪った敵の息子になり、その地位を確たるものとするため多くの同胞達の屍を積み上げ、ついに皇位継承権まで得た………
 彼らを支配する側に立ってしまった僕が前面に立つわけにはいかないんだ。チョウフの時のようにはいかないよ。」
『だから、ナナリーを利用したのか。』
「利用?」
『そうだろう。ナナリーが奴らを説得、投降させるまでをエリアばかりか本国にまで中継していたのだから。』
 噛み付くルルーシュに、スザクはしたり顔をしてみせる。
「マスメディアを利用した政治工作は、黒の騎士団の常套手段だろう?それを採用させてもらっただけさ。
 あの中継で、ナナリーに対する評価は大きく変わった。エリアも本国でも。
 もう誰も、彼女をお飾り総督とは呼ばなくなる。」
『まさか───っ。ナナリーも承知の上だったのか………!』
「ああ。とても清々しく毅然とした公正ぶりを全ての臣民に示せた。ナナリー、頑張っていただろう?」
 上目遣いで微笑むと、ルルーシュは慌てて目をそらし、妹を褒められた事に頬をうっすらと上気させていた。

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