a captive of prince 154

 

<共闘 chap.5>

「では、私も行くとするか。」

ひとしきり語ると、C.C.も出撃の準備のため出ていった。

ルルーシュは、無線のマイクを握る。

「白兵部隊、出撃。
C.C.と合流し、目標を制圧しろ。」

『おう。任せておけ!』

スピーカーを震わせる陽気な声に、ルルーシュはこめかみをピクリと動かす。

「玉城。くれぐれも発砲はするなよ。
銃器類はあくまでも脅した。」

『分かってるって。隠密作戦なんだろ。』

この玉城さまが、きっちり収容・保護するから、安心しな。

と、かんらからと笑う声に、肩をすくめる。

もともと、ゼロのことを「親友」と呼ぶ馴れ馴れしい男であったが、仮面の下の素顔を知ってからは、自分の方が年長者なのだからと、兄貴風まで吹かすようになっている。

『坊や、心配するな。こいつの扱いには慣れている。』

「ああ。よろしく頼む。」

『ほら、ぐずぐずせずに行くぞ。ソージ大臣』

『なんだとっ。俺様の役職は、そんな軽い名前じゃねぇ!』

無線から漏れてくるじゃれあいを遮り、ロロの凛とした声が響く。

『僕とジェレミアも出ます。』

「ああ。気をつけてな。」

『うん。兄さん。』

きびきびとした弟の声に、口の端を上げると、ルルーシュは、上空に待機している斑鳩に通信をつなげた。

[先行隊の報告を待って、作戦を決行する。」

『承知!』

無線を切ると、ルルーシュは椅子に深く座りなおし、両手を組む。

「頼んだぞ。C.C.、ロロ。」

「───またか……」

目の前に横たわる小さな骸に、熟年の研究者は眉根を寄せる。

傍らに立つ若い女性研究員の表情も暗い。

「ギアス発動時に、心肺機能の停止が……それに耐えられなかったようです。」

「また、それか……」

ギアス嚮団研究部門責任者、アレクサンド・ルロワは深くため息を漏らした。

ギアス能力者を、人工的に作り上げることには成功した。

だが、こういった人工的能力者は、ギアス発同時に循環器もしくは神経系統に異常を起こす者が、高い確率で発生する。

そして、嚮主V.V.が望む「達成者」にまで成長できたものは、未だにいない。

ほとんどが幼いまま、実験中に死亡してしまう。

10年以上成長できたのは、ロロぐらいだ。

この研究は、果たして人類の役に立つのであろうか……皇帝の思し召しとはいえ、自分が行っていることの正当性を疑う日々が、ここ何年も続いている。

「私たちは、いくつの幼い命を犠牲にしてきたのかな……」

やりようもない虚しさが、室内を支配していた。

「そんな研究、やめてしまえ。」

後ろからかけられた声に、その場にいた研究者全員が、うつむけていた顔を上げ、反射的に声の方に顔を向けた。

刹那にもれる小さな悲鳴。

研究室の入り口から、こちらに向けられた無数の銃口。

その中央には、黒い装束に身を固めた緑の髪の少女が立ち、すべてを見すかすような光を放つ金の瞳で見つめている。

ルロワは、震える唇でその人物の名を呼んだ。

「C.C.様。……嚮主さま……」

「そんな名で私を呼んでくれるな。アレク……久しいな。」

微笑む少女の隣に立つ男が1歩進み出ると、声を張り上げた。

「黒の騎士団だ。お前らを保護にきた!
もう、やりたくもない研究なんか、しなくてもいいぜ。
お前らは、俺と黒の騎士団が守ってやる!!」

「おやおや。ずいぶんと強気なものだ。」

クスリと笑うと、C.C.は真剣な表情でルロワに問う。

「どうする。私たちと共に来るか?
それとも、ここで実りのない研究を続けて、朽ち果てるか。」

その言葉に、ルロワの顔がくしゃりとなる。

「お助け下さい。
もう、私たちは疲れてしまいました……」

C.C.は静かに頷く。

「ここに、実験体はいるのか?」

「いいえ。この子だけです…ほかの子供たちは中層階に……」

「そうか……」

そうつぶやくと、C.C.は寝台に横たわる幼児に歩み寄ると、その冷たい頬に手を滑らせる。

「すまない。苦しい思いをさせた……」

そういって、そっと抱き上げる。

子供の表情は、母の腕に抱かれた赤子のように穏やかであった。

 

「やあ、みんな。元気にしてましたか?」

「ロロお兄ちゃん!」

突如侵入してきたナイトメアから姿を現す既知の存在に、子供たちは安堵の表情を浮かべる。

その刹那、彼らの時間が止められた。

「ジェレミアっ!」

胸の苦痛に顔をゆがめ、ロロが叫ぶ。

「うむ!」

ジェレミアが右腕を高く差し上げる。

その背後から現れたナイトメア数機が子供たちを掬い上げ、用意したコンテナ内に下ろした。

全て収容し終えると、すかさず扉を閉める。

「あれっ?」

「ロロお兄ちゃん!?」

見知らぬ空間にいることに戸惑う子供たちの耳に、楽し気な音楽が飛び込んできた。

「ようこそ。良い子の皆さん。」

軽やかな女性の声に、その方向を見れば、黒い髪に見慣れない装束の少女が微笑んでいる。

その表情は、色の濃いバイザーによって伺い知ることができない。

「誰っ!?」

子供の数人が、片目を赤く染めた。

「警戒しなくても大丈夫ですよ。
なにも、怖いことはありません。
私と一緒に遊びましょう。
それとも、おやつの方がいいかしら。」

そういって、少女が動くと、そこには様々な菓子の置かれたテーブルと、その奥に、ありとあらゆる遊具がある。

警戒をあらわにしていた子供たちの表情が、見る間にほぐれ、我先にと菓子や遊具に手を伸ばしだした。

「慌てなくても大丈夫ですよ。
お菓子も玩具もたくさんありますからね。」

子供たちと神楽耶を乗せたコンテナを、2台の月下が揺らさぬように持ち上げる。

「そのまま、静かに運んでください。」

『ああ。任せておけ。』

移動していくナイトメアを見送り、ジェレミアがロロに話しかけた。

「お前は、ルルーシュ様の援護に行け。
私は、ここでコーネリア殿下を捜索する。」

「うん。わかった。」

ロロがヴィンセントを動かそうとしたその時、物陰から数人の男たちが飛び出してくる。

「ジェレミア卿!」

男たちの先頭に立つ、片眼鏡の大柄な男が声を上げた。

「バトレー!貴様、まだこんなところにいたのか。」

それは、ジェレミアの調整をするためにペンドラゴンから送られた、バトレー将軍とその配下であった。

ジェレミアの問いかけに、バトレーは当然だと頷く。

「コーネリア殿下をお救いせずに、おめおめと逃げ出せるわけがなかろう。」

「殿下が、囚われているところを知っているのか。」

「およその見当はついている。
無為に過ごしていたわけではない。」

語気を強めて言う男に、ジェレミアは口の端を上げる。

「よし。案内してもらおうか。
我らで、姫様をお救いするのだ。」

男らと駆け出していくジェレミアを見送り、ロロもまた新たな戦場へと赴くのだった。

 

「ゼロっ。科学者全員収容したぜ!」

「よくやった。」

玉城の報告に、ルルーシュは口の端を吊り上げる。

ロロからも、子供たちの保護が完了したと報告が来ている。

「条件はオールクリアだ。
作戦を決行する!総員配置に着けっ!!」

通信の向こう側から、雄たけびが轟く。

「さあ、V.V.。貴様を引きずり出してやる。」

ルルーシュは、相手をよびだすモニターを見つめ、不敵に笑うのだった。

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