9月28日追悼……したくない!
ゼロレクイエム阻止SS
「この、痴れ者がっ!」
先のフジ決戦に於いて敗れたシュナイゼル・黒の騎士団連合軍の戦争犯罪人処刑パレードの最中。
世界唯一皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの玉座か置かれる台車に、トウキョウ決戦で戦死したと伝えられていた黒衣の英雄が駆け昇り皇帝に対峙する。
ルルーシュが懐から抜いた拳銃を、英雄ゼロはその腰にある長剣で目にも留まらぬ早さで弾きとばす。
ゼロは、抜いたその切っ先を、皇帝に向けた。その身を刺し貫くかのように………
このときの皇帝の顔は、怒りでも恐れでもなく別の表情だった。
穏やかな笑み……全てを受け入れ全てを愛す慈愛に満ちた笑顔。
───スザク。これでお前は英雄になるんだ。
世界の敵、皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアから世界を救った英雄。ゼロに───
これから襲ってくるであろう衝撃に耐えるため、体の力を抜く。目を閉じたルルーシュは、予想していた衝撃が来ない事を不審に思った。
その時、
「ほわあぁぁぁぁっ!?」
突然体が宙に浮いたのだ。
正確には、英雄ゼロが、皇帝に向けていた剣を腰に収めると、目の前の男を肩に担ぎ上げたのだ。
パレードの沿道に並ぶ観衆は、唖然としてその光景を見る。
衆目の中、ゼロは皇帝を担ぎ上げたまま台車から飛び降り、脱兎の如く周りを警護する兵やその向こうの観衆をも飛び越え、遥か彼方へ走り去っていった。
「………ゼロが………」
「皇帝ルルーシュを……誘拐した?」
「て、言うか何だあの跳躍は。」
「人間か?」
「鳥か?」
「スーパーマンか?」
「いや。ゼロだ。」
観衆、ブリタニア兵、やんややんやの大騒ぎ。
「皇帝ルルーシュはいなくなった。今のうちに人質を解放するぞ!」
一人の女性の凛とした声が、喧騒を引き裂いて響き渡る。
先の決戦前に行方不明となっていた、ブリタニア帝国第2皇女コーネリア・リ・ブリタニアの号令のもと、反ルルーシュのレジスタンスと我に返った観衆が沿道になだれ込む。
主を失ったブリタニアは散り散りに退散していった。
世界は、独裁者から解放されたのだった。
騒然とするパレード会場を背に聞きながら、ルルーシュは自分を担いで走る騎士に怒鳴りつけていた。
「スザクッ!この馬鹿!とっとと下ろせ!!」
「いやだっ!絶対に下ろさない!ゼロレクイエムは中止だ!!」
「中止!?何を馬鹿な事を言ってる。これは俺とお前の………」
「死ぬ事だけが贖罪の方法じゃない!」
ここで初めて、スザクはルルーシュを下ろした。
「ほら。聞いてよ。あの声………」
パレードの沿道から聞こえる歓声。
その喜びに満ちた声に、ルルーシュは怒らせていた肩の力を抜いた。
「何も君があそこで命を散らさなくても、世界に平和は訪れる。」
「何を言っている。あの歓声は一時的なものだ、次には姿を消した皇帝がいつ戻ってくるのかと不安と恐怖に怯える日々を送る事になる。世界が見ている前で死ぬからこそ、人々は独裁者から解放された事を確認出来るんだ。」
「だーから。その独裁者がもう戻って来ない事を、世界に証明すればいいんでしょ?」
陽気な、だが、ルルーシュにとってはよからぬ予感を感じさせる声が、彼らの背後から聞こえた。
戦慄を憶えながら振り向けば、果たして、ニコニコと笑いながら立つミレイ・アッシュフォードとリヴァル・カルデモンドの姿があった。
「か…会長。リヴァルも。」
皇帝としての威厳もどこへやら、呆然と立ちすくむルルーシュに構わず、リヴァルが仮面の騎士に何かを投げ渡す。
それは彼愛用のバイクのキーだった。
「ありがとうリヴァル。恩に着るよ。」
「あとの事は、このミレイ様にお任せ!」
「はい。よろしくお願いします。」
そう言うと、騎士はその黒い仮面を脱ぎ捨て、その亜麻色の髪を風になびかせて笑いかける。
そして、まだ事態を飲み込めていない主をかっ攫うようにサイドカーに載せると、バイクを急発進させた。
「落ち着き先が決まったら連絡しなさいよーっ!!」
「ハーイ。」
遠くなっていくスザクの返事に、満足の笑みを浮かべると、ミレイは傍らのリヴァルに号令する。
「さあ。世界もぶっ飛ぶ、すごい祭りの開幕よっ!」
「任せて下さい。細工は流々仕上げをご覧じろ。」
リヴァルも陽気な声を上げる。彼らの後ろに控えるテレビクルーがニヤリと笑った。
「スザクッ!お前、一体何をっ!」
「さっきも言ったろうっ!ゼロレクイエムは中止だってっ!!」
全速力で走り抜けるバイクで、怒鳴り合いながら会話する。
その前方に大型トレーラーが止まっているのが見える。
「おいっ!スザクッ前!」
ぶつかるぞっ。とルルーシュが顔を引きつらせる。
トレーラーに積まれたコンテナの扉が開かれ、バイクはその中に滑り込んだ。
もう少しでコンテナの壁に激突かという至近距離で、やっと止まった時には、トレーラーは彼らを積んだまま走り出していた。
「どういう事か説明しろ。」
運転席の自分を睨みつける紫暗の瞳に、スザクは肩をすくめる。
「ごめん。やっぱり僕には君を殺すなんて出来ない。
でも、それを計画前に言ったら、君はゼロの役を他の人間にさせて決行してしまうと思ったから、協力を頼んだんだ、」
「ミレイとリヴァルにか。」
「2人だけじゃないよ。ロイドさんにセシルさん咲世子さん。ジェレミア卿にC.C.………コーネリア様。」
「あ……姉上にも……?」
「コーネリア様が、素直に聞いて下さるとは思わなかった。
でも、あのダモクレス戦を見ていて、悪逆皇帝の闘い方に違和感を感じていたんだって……
だから、全てあの方にお話しした。」
「全て…て。」
「僕が知る君の全て。ギアスを手に入れた経緯からユフィを殺さなくてはならなかった理由……ゼロレクイエムの全貌まで……」
「おまえ………」
「コーネリア様からの伝言……『この愚か者が。こんな事で死んで、ユフィが喜ぶと思うのか。贖罪なら、その命尽きるまで世界に貢献しろ。』だって……それは僕の役目だっていったら、やり逃げは許さんて怒鳴られた。」
呆然とするルルーシュに、スザクは苦笑する。
「僕も、コーネリア様の意見に賛成。君が死んで一番悲しむのはきっとユフィだ。だから………」
「………いいのか。それで……」
スザクはゆっくりと頷く。
「彼女は決して仇討ちなんか望まない。そうしたかったのは僕で、そうしなければ僕が生きている意味がないと思っていた。
でも……この3ヶ月君とずっと生活していて気がついたんだ……僕は、このために……ルルーシュのとなりで生きるためにいるんだって………僕に、命尽きるまでの贖罪を望むなら……君がいなきゃ駄目だ。僕を見守ってくれる人がいなきゃ……」
「………泣きながらいう事か?この泣き虫め。」
「だって………っ。」
両目からぼろぼろと涙を流すスザクの頬を撫でると、ルルーシュはフッと微笑んだ。
「俺に死ぬなというのなら、側にいてずっと俺に尽くせ。
騎士なのだろう。俺の。」
「イエス ユア マジェスティ。」
涙を拭い微笑む。
『どうやら、泣き落としが通じたようだな。』
運転席から、魔女の声が響く。
「泣き落としなんて……」
『まあいい。これで私も約束を果たしてもらえるからな。』
「約束?」
「ああ。C.C.に笑顔をやると約束したんだ。」
『永遠に続く明日のためにな。』
その数日後、世界はまさに祭りだった。
皇帝ルルーシュの半生から、その失踪まで。
そして、前皇帝が行っていた悪政を正し、世界を統一した彼が、真に望んでいた事が、テレビで延々と放送され続けた。
「………あの人に任すからこんな事になる。」
ルルーシュがもっている隠れ家の1つで、テレビを見ながら毒づく。
「いいじゃない。ルルーシュは悪逆皇帝ではなく真に正義の皇帝だって、世界が認めたんだから。
ナナリーだって、世界の敵の妹より世界の英雄の妹の方がいいに決まってるし………」
「そこで、ナナリーの事を持ち出すな。卑怯者。」
睨みつけられスザクは肩をすくめる。
「でも、確かにこれは……やり過ぎだよね。」
テレビ画面を見ながら、2人揃ってため息をつく。
『世界の英雄ルルーシュを探せっ!』
テレビ画面のあおり文句が、チカチカと眩しい。
「いつの間にかワールドワイドなかくれんぼになっているぞ……」
「ダミーも何人か用意しているようだな。」
「発見者に出される1億ブリタニアポンドって、誰が出すの?」
『さあ、騎士と一緒に姿を消した皇帝はどこにいるのでしょうか。
発見されるまで、この賞金は日割りで加算されていきます。
この成功報酬は勿論、ルルーシュ皇帝のポケットマネーから出される事を、ブリタニア政府と確認済みです。』
「なにいっ!?」
『ルルーシュ。早く出て来ないと大変よー。』
楽しげなミレイの笑顔がアップで映し出される。
「あの。お祭り女ぁぁぁっ!」
世界唯一皇帝が、騎士と共に世界に還る日も近い。
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