a captive of prince 第21章:和解 - 1/5

 会談は次の段階に進んだ。
 ブリタニア皇帝をどのように失脚させるかは、シュナイゼルの手腕に頼ることになるが、神楽耶の関心は、皇帝失脚後のブリタニアにある。
「皇帝を失脚させた後、あなたはブリタニアをどのような国にするおつもりですの。シュナイゼル殿下。」
 神楽耶の問いかけに、シュナイゼルはそのアルカイックな微笑をさらに深め、首を小さく横に振る。
「皇さん。尋ねる相手を間違えていらっしゃいますよ。」
「え?」
 シュナイゼルの言葉の意味が分からず、神楽耶は言葉を失う。
「次の皇帝は私ではない。」
 現宰相の言葉に、神楽耶ばかりかルルーシュと、スザクさえも息を呑んで彼の顔を見る。
「次の皇帝にふさわしいのは、この方だ。」
 そう言ってシュナイゼルは、優雅に片手を上げると、その人物を紹介する。
「オデュッセウス殿下?」
 神楽耶が首を傾げ、ルルーシュは目を見開く。
「あ、兄上っ?」
 だが、この中で一番驚愕の声を上げたのは、スザクだった。
「何を驚くことがある。世間では凡庸な人物であると評価されているが、第一皇子であり、帝王学も修めていらっしゃる。
それに何よりも、陛下とは真逆の政治哲学をお持ちだ。」
「───なるほど……」
 ルルーシュが、得心いったという表情で目を細める。
「あなたは、次の王朝では政治の表舞台には出ないという事ですか。シュナイゼル兄上。」
「それも間違っているよ。ルルーシュ。」
 今度は、オデュッセウスが声を上げる。
「私が皇帝となった暁には、政治は国民に還そうと考えている。
専制君主制はシャルル・ジ・ブリタニアの代で終わりにするつもりだよ。」
 オデュッセウスの思わぬ発言に、シュナイゼル以外の誰もが固唾をのんで、次の言葉を待った。
「貴族制度も廃止を前提に考えている。ゆくゆくは皇室も廃止することになるだろう。
主権在民。国の行く末を決めるのは一人の君主ではない。国民にこそ権利があると、私は考える。」
「民主主義制に、変えると……」
 日本と同じ政治制度にするという第一皇子に、神楽耶は感嘆の声を上げる。
「兄上は、十代のころから一貫して、こう唱えていらっしゃった。
今のブリタニアにおいては、主義者と思われ、第一皇子であっても大変危険な考えだ。
だからこそ、次の皇帝には兄上しかいらっしゃらないと、私は考えているのだよ。」
 微笑を浮かべ、諭すようにスザクとルルーシュに語り掛けるシュナイゼルに、二人は別々の思いで嘆息する。
「随分と大胆なことをおっしゃる。
98代という長きにわたって受け継がれてきたブリタニアの文化を、根底から覆そうと言うのですから。
何事もなければ、あなたが皇太子となって、そのまま受け継ぐはずだった歴史や伝統も破壊するというのですか。」
 批判めいた内容ではあるが、ルルーシュの口調には揶揄するような響きがある。
「現皇帝である父上でさえ、護る気がないものを、何故、私が引き継いでいく義務があるのかな。」
 肩をすくめ苦笑いする長兄に、ルルーシュも微笑する。
「オデュッセウス兄上。私も、他の大多数の者と同様、あなたの事を凡庸な人物であると評価していました。
若輩ゆえの浅慮でした。申し訳ありません。」
 頭を下げる末弟に、オデュッセウスは首を振る。
「いやいや。今でこそ、こんな偉そうなことを言えるが、シュナイゼルという強力な協力者を得ることができたからなのだよ。
粛清を恐れ、皇宮内で目立たぬよう大人しく身を潜めていた、ただの臆病者だ。」
「だが、主義主張は変えることはなかった。
だからこそ、私はあなたを尊敬しているのです。」
 シュナイゼルの言葉に、オデュッセウスが微笑む。互いに笑みを浮かべる兄弟の横から、静かな声が問いかけてきた。
「シュナイゼル兄上は、皇位を兄上にお渡しした後はどうなさるおつもりなのですか。」
 まっすぐに自分を見据える翡翠に、シュナイゼルは穏やかに答えた。
「無事、兄上が99代皇帝となられたら、私は皇籍を奉還しようと考えている。」
「───っ!」
 スザクは、声をあげることもできず、ただ兄を凝視した。
「ただの、シュナイゼルという一人の人間として、新皇帝のお役に立てればと願っています。」
「シュナイゼル……お前…そんなことまで考えていたのかい。」
 オデュッセウスまでもが絶句した。
「本当に、それでよろしいのですか。シュナイゼル兄上。」
 ルルーシュの確認に、シュナイゼルはしっかりと首肯する。
「現政権で宰相であった私が、皇族のままでいては、いらぬ波風を立てる事になるだろう。
それに……そもそも宰相などという肩書は、あの方を牽制するために必要だっただけで、心底やりたかったことではないからね。」
 そう言って、シュナイゼルはスザクに微笑みかける。
「あら。そうだったのですの?」
 神楽耶が小首を傾げてみせる。その口元には何やら含みのある笑みが浮かんでいた。
「大切なものを守るためには、力が必要でしょう。」
 綺麗な笑みを浮かべる敵国の宰相に、目を見開くが、やがて彼女も柔らかな笑みを浮かべた。
「そうですわね。」
 そう言って自分を見つめる従妹の視線に気づいたスザクは、眉根を寄せる。そのまま俯いてしまったかと思うと、「少し退席します。」と呟き、ついと席から立ち上がった。
「うん?」
 ぼそりと言われた言葉を、シュナイゼルが聞き返そうとするが、スザクはそれにかまうことなく、自分たちの背後にある壁に向かって歩き出していた。
 白い壁の縁部分のある一点に手をかけると、その壁の一部分がキイと音を立てて90度回転した。
 可動部分の中心を軸に垂直になった壁に人一人が余裕で入れる空間が出現する。
「まあ。まるで忍者屋敷のようですわ。」
 驚いて声を上げた神楽耶らが見守る中、スザクはその空間の向こう側へと入っていく。
 慌ててあとを追おうとするナイトオブスリーを手で制したスザクの姿が見えなくなると、壁はパタンと音を立てて元の姿に戻った。
「───へそを曲げたかな……」
 嘆息交じりに、シュナイゼルが漏らす。
「………このことは私達だけで内密にしていたからね。」
 突然聞かされて、疎外感を感じてしまったかと、オデュッセウスも息を吐く。
「あの壁の奥は?」
 問いかけるルルーシュに、シュナイゼルは小さく笑う。
「ああ。小部屋になっていてね……この艦をあの子に譲った時に、いくつかこんな仕掛けのある部屋を作ったらしいよ。」
 なぜと問いかける神楽耶に、シュナイゼルは苦笑を浮かべ答えるのだった。
「一人きりになれる空間が欲しかったようです。軍務中の戦艦の中では、誰にも邪魔されずに一人になれる場所がないからと………」
「周りの者に一声かければ済むことなのだが………それすらも煩わしい時があるらしい。」
 また小さく嘆息をもらすシュナイゼルに対し、ルルーシュは小さく頷く。
「───分かります。」
 その言葉に、シュナイゼルは目を細めた。
「しばらくそっとしておくしかないかな。
その間に、私達は私達で確認すべき点を詰めようじゃないか。ゼロ?」
 敢えてそう呼び掛ける次兄に、ルルーシュもまた、目を細め口の端を上げるのだった。

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