長テーブルの上にずらりと並んだ焼き菓子や生菓子、フルーツ等を眺めて、神楽耶は嬉しそうに微笑む。
「どれもこれも美味しそうで目移りします。」
でも───
「ここは、捕虜返還の交渉の場でございますわよね。」
すぐに真顔に戻り、ブリタニア側の中央に座る帝国宰相に相対する。
「勿論。おっしゃる通りですよ。皇さん、」
「では、返還に当たっての条件を伺いましょう。」
ゼロが、本題を切り出す。
「条件は………」
白の皇子と呼ばれる神聖ブリタニア帝国第2皇子は、その、ギリシャ彫像のような整った顔で、得意のアルカイックな微笑みでゼロと神楽耶を交互に見ると、微笑みをさらに深くする。
「既にクリアされている。紅月カレン嬢はすぐにでも引き渡せますよ。」
息を詰め、シュナイゼルの出す条件を待っていた神楽耶は、気が抜けたように背もたれに体を預けた。
「条件はクリアしている……?」
ゼロは、意味が分からず反復する。
「そう。こちらの条件は、ゼロと皇神楽耶殿の2人が交渉のテーブルにつくこと。
今、この時点で我々の条件は飲まれたということになるね。」
「つまりは……私達をここに呼び出したかったということですか。」
半ば呆れた様子で問えば、3人の皇族が真面目な顔でうなずいた。
ゼロと皇族達のやり取りを神楽耶は目を丸くして聞いていたが、やがて、プッと吹き出し、コロコロと声を出して笑い出した。
「ブリタニアの皇子殿下が私達とお茶会だなんて……っ。」
笑いが止まらない様子の彼女に、スザクは真剣な表情で話しかける。
「冗談や酔狂でこんなことはしないよ。」
その言葉に、笑い声がぴたりと止んだ。
彼女もまた真顔で声の主を見る。その表情には明らかな不快感が浮かんでいた。
「冗談ではないというなら、何なのです。」
「言ったろう。もう一度、会って話がしたいと……」
「そう。敢えて条件を出すとすれば、我々と胸襟を開いて話し合うということかな。」
相変わらずの笑みをたたえて語るシュナイゼルに、神楽耶の感情が不快から怒りへと変貌していく。
彼女の大きな瞳は、感情の高ぶりに比例して厳しさを増していった。声色も、穏やかで明るいものから低く厳しく変わっていく。
「貴方がたは、私達をからかっていらっしゃるの?
捕虜返還をえさに、こんなふざけたお茶会に呼び出して、誰が心を開いて話し合えるというのです。
第一、立場が真逆の私達が何を話し合うのです?日本を解放するという話以外は、応じるつもりございませんわよ。」
「勿論。そのことも話題の一つに考えていますよ。」
「えっ………」
怒りに任せてまくしたてた神楽耶は、帝国宰相のその申し出に思わず絶句した。
今、この男はなんと言った?
ブリタニアという大国の舵取りを任されている宰相が、武力を持って奪い取った領土を解放すると言わなかったか?
耳を疑った。
「───本気……ですの?」
目の前の宰相は真顔でうなづいている。
「信じられません。」
シュナイゼルを見据えたまま押し黙ってしまった神楽耶に代わり、ゼロが疑問を投げかける。
「それは、皇帝の意思ですか?」
その質問に、シュナイゼルは唇の端をつり上げた。
「陛下にそのようはお考えはない。
───いや。あの人にとって俗世のことなど、もはや関心のないことなのだよ。」
「俗世?」
神楽耶が厳しい声で聞き返す。
シュナイゼルは、眉尻を下げ困った顔をすることで応えた、
「あの人は、もう何年も前からブリタニアはおろかこの世界に起きている事象にも関心がないのです。」
「おっしゃることがよく理解出来ないのですが。」
「ええ。」
そうだろうと、シュナイゼルが頷く。
「実は、こう話している私ですら未だ解明出来ていないのです。
ですが、少なくとも8年前から皇帝は、計画して来たそれを実行に移したと考えられるのです。」
「8年前───」
「そう。私の弟妹の母親が殺され、その翌年に日本がエリア11になった頃からです。」
神楽耶には、シュナイゼルが何を言おうとしているのか全く想像がつかなかった。
だが、それは、自分にもブリタニアの皇子となった従兄、そして、自分の隣にいるこの男にも大きく関わることだというのは理解出来る。
自然と、視線が彼の方へ動いた。
それに習うように、シュナイゼルもゼロに向き直る。
「ゼロ。私は、私の知る限りの事実を話そうと考えている。」
一同の視線が仮面の男に集中する。全員、彼がなんと答えるのか固唾をのんで見守った。
「───分かりました。
貴方がそこまでいうのであれば、覚悟があってのことでしょう。
ならば私も───」
そう言ってゼロは仮面の後頭部に手をかけた。
カチリと軽い音が響く。
「この仮面を外して、話し合いに応じましょう。」
a captive of prince 第20章:対話 - 2/7
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