a captive of prince Interval:a.t.b.2018.4 - 9/12

「生きるため……?」
 アーニャの言葉を反覆する。
「とにかく座って。順を追って説明するから。……そうでしょ?C.C.」
 彼らの間にあるテーブルに、侍従から受け取ったティーカップを並べながらカレンが促す。
 緑の髪の少女C.C.は、面倒くさそうな顔で頷いた。
「私がルルーシュと出会ったのは、あのシンジュクだった。」
「───シンジュク事変…の日?」
「軍の発表では奪われた物は毒ガスとなっていたが、実は、その中身は私だ。私が何故クロヴィスの虜になっていたのかは知っているのだろう。」
「ああ……」
 亡きクロヴィスが、皇帝の弱みを握るために取り入ろうと、目をつけたのがC.C.だった。
「“R計画”。亡き総督クロヴィス兄上が、本国に内緒で進めていた研究の検体が君だ。君は、何世紀にも渡って生き続けている……今のその姿のままで。」
 C.C.は軽く目を伏せ、小さく笑う。すぐにスザクを正面から見据えた。
「その通り。私は、お前がよく知る者のと同じだ。」
 その答えに、息を呑む。
「例え殺されても生き返る。クロヴィスは、死ぬ事のない私の遺伝子を解明し、生体実験を行おうとしていた。
 その情報がどこでどう歪められたのか、私を閉じ込めていたカプセルを、政庁から奪ったのがこいつらだ。」
 そう言ってカレンに視線を送る。カレンは、顔をしかめた。
「ルルーシュはその時の混乱に巻き込まれ、カプセルの中から私を解放してしまった。
 秘密を護るため、クロヴィスの親衛隊はあいつをテロリストの一味として抹殺しようとしたのだ。」
 C.C.は、鋭い視線で睨みつけるようにスザクを見る。
 言外に、これがブリタニアという国のやり方だろうと、支配階級にいるスザクを非難している。
 スザクは、黙ってそれを甘受した。
「大勢の軍人に取り囲まれ、生命を脅かされそうとしている時、人は何を思う?
 ルルーシュもそうだ。あいつは、ただ生き延びるために私の手を取ったのさ。
 あいつを『ゼロ』へと駆り立てたのは、むしろお前だ。スザク。」
「───僕?」
「ジェレミアが、皇族殺害の罪を着せようとしていた男。刑部賢吾は、お前とは親戚筋だそうだな。」
「ま……まさか。」
 スザクの顔が強ばる。
「あの男からお前の情報を得るために、ルルーシュは危ない橋を渡ったのさ。ただ身を護るためだけに得た力を使って。」
 魔女がくつりと笑った。
 アーニャは呆れた声をあげた。
「もう、C.C.ったら。スザク一人のせいにする気?
 あの子は、力を得たその日のうちにクロヴィスを殺害しているのよ。ルルーシュは、自らの意志で手を血に染めたの。誰かのせいではないわ。」
「ふん。こいつが、私の事を諸悪の根源のような事を言ったから、その意趣返しだ。
 原因と結果の因果関係を深く考えず、結果だけを見て結論づけようとする、
こいつの考えの浅はかさと愚かさを教えてやったまでの事。
 まあ。擁護派のお前には気に触ったようだな。」
「当たり前よ。私達は、誰かを糾弾するためにここに集まった訳じゃないのよ。」
「勿論その通りだ。だから、こいつの目を覚まさせてやったんだ。
 偏った情報と思い込みは、真実からどれほど乖離してしまうのか。」
「何よ、偉そうに。たった今、悪口を言われた仕返しだっていったじゃない。」
 言い争う魔女と騎士の間で、真紅の戦士が肩をわななかせる。
「あんた達いい加減にしなさいよっ!話がいつまでも本筋にいかないでしょっ。」
 カレンの怒鳴り声に、喧騒中の2人は顔を見合わせ肩をすくめる。
「スザク、ごめんなさい。ちゃんと説明するから。」
 2人を黙らせ、カレンが取り繕うが、当のスザクは顔を俯かせて考え込んでいる様子だ。
「スザク……?」
 黙りこくっている彼をカレンは覗き込む。
 すると、突然顔を上げC.C.に視線を合わせた。
「C.C.殿。貴女の仰る通りです。僕は、自分の事情と他人から聞かされた話だけで、勝手に思い込んでいた。
 ギアスこそ悪だと……その力さえなければ、ルルーシュは反逆者とならず死ぬ事もなかったのだと。
 彼が何故それを欲したのか、考えようとはしなかった……」
「分かれば良い。」
「貴女は、偏った情報とおっしゃいましたね。僕が知る事実は、それが全てではないと?」
「ああそうだ。お前はギアスについて何を知っている。」
「───ルルーシュが持つ特殊な力で、他人の意志をねじ曲げ意のままに命じる事が出来るもの……と。」
「───それだけか?」
「はい。」
 神妙な顔で頷く彼に、C.C.は呆れた顔をした。
「コード…と言う言葉を聞いた事はあるか?」
「いいえ。」
 自分の記憶を辿ってそう答えれば、3人の少女は顔を見合わせ頷く。
「大体予想がついていた事だがな………」
「都合の悪い事は全く知らせず、都合の良い情報だけで他人を惑わせ動かす。V.V.の常套手段ね。」
 アーニャの口から出た名前に、スザクは目を見開いて彼女を見た。
「アーニャ。君、V.V.のこと……」
「知っているわ。私はね……」
 目を細める少女を凝視する。
 どこか。いつもと違う……外見は自分がよく知るアーニャ・アールストレイムであるが、印象がまるで他人なのだ。
「君は……誰だ?」
 問い質すスザクに、少女は笑みを深くする。
「今はマリアンヌ。ルルーシュとナナリーのお母さんよ。」

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