a captive of prince Interval:a.t.b.2018.4 - 11/12

「気がついた?」
 一番始めに声を掛けてきたのはアーニャだった。
 カレンは心配そうにしている。C.C.と言えば、涼しげな顔で笑みさえ浮かべていた。
「ああ。……僕は、どの位気を失っていたんだろう……」
「5分ほど。」
「そうか……なんだか、すごく長い夢を見ていたような気がする。」
「気分は?」
 まだ心配そうなカレンから水の入ったコップを受け取り、礼とともに笑顔を見せる。
「大丈夫だよ。」
 その笑顔に、カレンもやっと安心したようだ。
「さて、全ての事情を知ったお前は、これからどうする?」
「決まっている。ルルーシュを解放し、ラグナレクの接続を阻止する。
 C.C.殿。確認したい事があるのだが……」
「C.C.で良い。」
「では…C.C.。ルルーシュの記憶を戻す手だてはあるのかな。」
「ある。神根島で別れる時に、あいつの記憶を預かったからな。
 預かった時と同じ事をすれば返せる。そうすれば、あいつは自らの意志の力でシャルルのギアスを打ち消す事が出来るだろう。」
「意志の力で、ギアスを打ち消す?」
「ああ。あいつの持つ『王の器』ならば、それは可能だ。」
「王の器……」
 黙りこくってしまったスザクに、C.C.はクスリと笑った。彼の考えている事が分かるからだ。
「ユーフェミアにも確かにそれは備わっていたのだろう。
 周りの者をことごとく自分のペースに巻き込むのは、まさにそうだと言えるからな。」
「だから、ルルーシュのギアスを抑え込む事が……
 かけられたギアスを解く事は出来るのですか。」
 その問いに彼女は首を振るしか出来なかった。
「残念ながら、それは不可能だ。」
「そうですか………」
 2人の話が途切れるのを待ちかねたように、カレンが話を戻す。
「C.C.がルルーシュと接触できるチャンスがあれば、記憶を取り戻す事が出来る訳ね。」
「だが、皇帝もそのチャンスを狙っているという事だから、かなりのリスクを覚悟しなくてはならない。」
 スザクの言葉に、カレンは神妙な顔で頷く。
「ところで、黒の騎士団は今どうなっているんだい?」
「生き残ったメンバーは、いくつかのグループに分散して、地下活動しているわ。」
「活動資金は?」
「外部協力者のカンパと、中華に亡命した神楽耶様の皇コンツェルンからの支援が殆ど。シュタットフェルトの金も少しは回しているけれど、後継に指名されたというだけで私には何の実権もないから……」
「なら、今はまだ動く時ではないな。弱体化してしまった組織の立て直しが最優先だ。」
「そのためにも早くゼロを取り戻さないとっ。」
「取り戻した所で、組織が軟弱ではすぐに潰されてしまうよ。
 いくらルルーシュが優秀でも、組織の強化は一朝一夕に出来るものじゃない。」
 リーダーを取り戻す事に固執していたカレンは、スザクに諭され悔しげに唇を噛んだ。
「焦る事はない。ルルーシュの命は保証されているんだから。皇帝によって。」
「組織の強化と言っても、実際にどうしたら……資金を融通してくれていた財閥は、ブリタニアによって解体されてしまったし……」
 困惑するカレンにスザクは目を細める。
「資金の提供者に僕も加わろう。」
「えっ?」
 スザクの提案に、カレンは目を見張る。
「ブリタニアの情報も、可能な限り渡せるはずだ。」
「で、でもあんた…あんただって皇帝に見張られている身じゃないの。それに、あんたにどれだけの資金があるって言うのよ。」
「まあ。大した金額じゃないと思うけど……これでもブリタニアの軍人だからね、月々の給料の他に功績に準じた報賞もあるし……
 僕は皇族だから特に何に使うという訳でもないし。」
「お前の他の兄弟の中には、国民の血税を湯水のように浪費している輩も多いがな。」
 C.C.の嫌味に、スザクは肩をすくめる事で答える。
「連中と一緒にされてはたまらないな。
 手つかずで置いてあるその金は、僕の優秀な秘書が、宰相閣下の副官殿の手ほどきで上手に運用してくれているから。」
 それなりにまとまった金額だと思うよ。と、笑う。
「………因に、あんたの今の階級って………」
「少将…だったかな。」
「将軍クラスの給料って………」
 一体いくらなのよっ。カレンが頭を抱えた。
「私も、余剰資金の融通は可能……」
 今まで沈黙していた少女が口を開いた。
「アーニャも名門貴族の令嬢で、しかもラウンズだものね。」 
 スザクの言葉に、少女騎士はにっこりと頷く。
「ところで……君は今“アーニャ”だよね。」
「そう。」
 アーニャはこくりと頷く。
「マリアンヌとはC.C.の仲介で話し合った。どういう事情で私の中にいるのか聞いた。これから、彼女がしようとしている事も知っている。
───陛下がしている事、これからしようとしている事に、私も賛同できない。だから、この体を使う事に異存はない。目的以外に勝手に使わない事と、私が知らない事はブログに記録するのが条件。」
「記憶の食い違いを防ぐためだ。」
 C.C.の補足に、スザクは頷いた。
「マリアンヌは演技派だから、私らしく振る舞ってくれている。」
 そうでしょ?と確認され、スザクは笑みを浮かべた。
「そうだね。今日まで全く気づかなかったよ。」
 クスクス笑い合う2人に、カレンが咳払いした。
「つまり。2人は黒の騎士団の協力者になってくれる訳?」
「そう。」
「資金協力するのだから、口も出させてもらうよ。」
 目を細めて言うスザクに、カレンの頬がピクピクする。
「大丈夫。君達を配下に置くつもりはないから。」
「あっ当たり前でしょ!」
 睨付ける彼女に、スザクの笑みが深くなる。
「ルルーシュが記憶を取り戻したら、すぐにゼロとして動けるように準備を整えないとね。
 そのための協力は惜しまないよ。」
 鋭い光を放つ翡翠の両眼に、カレンも不敵な笑みを浮かべる。
「お手柔らかにお願いするわ。ブリタニアの死神さん。」
「目的は共通している。今日から仲間だ。」
 各種を交わし、2人は頷き合った。
「ルルーシュを解放し……」
「「ブリタニアをぶっ壊すっ!」」
 かつて、敵として闘った2人が、盟友となった瞬間だった。

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