a captive of prince Interval:a.t.b.2018.4 - 8/12

 首都ネオウエルズ近郊。のどかな田園風景が広がる街道を、1台の黒塗りの車が走り抜ける。
 行き交う車は、その車を確認すると速度落とし、或は道端に停車して通り過ぎるのを待つ。
 車外に出て、小さくなっていく後ろ姿を見送る者さえいた。
「こんな所に皇室の車が走っているなんて……」
「こんなへんぴな場所に何の用だろう。」
 見送る人々は、口を揃え首を傾げる。
「この先は、森やぶどう畑くらいしかないだろうに。」
 離宮群のある高級住宅街からやって来た車は、地元の人間でもあまり行きそうもない場所へと向っている。
 この先に、皇族や貴族が興味を持つような軍施設や研究機関があるとは聞いた事もない。
 皇室のエンブレムをつけた高級車を、ただ茫然として見送っていた。
 車は、街道を外れ山道へと入っていく。
 舗装もされていない道ではあるが、車が楽に通れるだけの広さがある。轍がいくつもある事から、この先に人家がある事は確かだ。
 皇子の希望で地図に示された場所へ連れてきた運転手も、同行しているSPもこの先に何があるのか不安と緊張を抱えていた。
 そして、彼らが仕える皇子であるスザクも、うっそうと茂る木々しか見えぬ光景に緊張した面持ちだ。
 突如、木々のトンネルが切れ、開けた場所に出た。
 森の中に、立派な邸宅が建っている。
 車が門扉の前に行くと、それは自動で開いた。招かれるまま奥の屋敷へと進み、車寄せを回って玄関前に横付けする。
 玄関のポーチには、ホストであるカレン・シュタットフェルトが一人で待っていた。
 スザクが車から出ると、少女は恭しく頭を下げる。
「ようこそ。お待ち申し上げておりました。スザク殿下。」
「お招きありがとうございます。カレンさん。」
 和やかに挨拶を交わす。
 玄関が内側から開き、侍従が2人頭を下げて迎え入れる。
 中からは、楽しげなざわめきと軽やかな音楽が聞こえてくる。
「お前達は車の中で待機していてくれ。」
 後について来ようとしているSPに釘を刺そうとするが、初めて訪問する先……しかも、深い森の中に隠れるようにあるこの屋敷に警戒を持たずにいられるはずも無く、スザクを士官候補生時代から護ってきた彼らは、口にこそ出さないがあからさまに不満げだ。
「は……ですが………」
「何の心配もないよ。何かあればすぐに知らせるから。」
「はあ………」
 渋るSPに、スザクは眉尻を下げる。
「困ったな……」
 何のためにここに来たのか説明する訳にもいかず、カレンと目を合わせるスザクの耳に、聞き慣れた声が飛び込んできた。
「心配ない。殿下は、私がお護りするから。」
 玄関に現れた声の主に、スザクを始め男達は目を見張った。
「アーニャ。どうして君がここに……」
「私も招待客。」
 微笑する彼女は、見慣れたラウンズの制服ではなく、愛らしいドレスを身に着けている。
「ロシアの方は、もう片がついたの?」
「私の役目は終わった。ジノとシュナイゼル様はまだ向こう。
 でも、講和文書に調印するだけのはず。だから、先に帰らせてもらった。」
「彼女は、夕べ遅くにこちらに到着したのですよ。」
「2人は、友人なのですか?」
「ええ。」
「つい最近、仲良くなったの。」
 にこやかに笑い合う2人の少女に、スザクは目を見開くばかりだった。

 ナイトオブラウンズが一緒ならばと、大人しくなったSPを残し、建物に入ったスザクは、パーティー会場と思われる一室に通されたが、そこで唖然とした。
 あれほど賑やかな音が聞こえていたのに、そこには誰もいなかった。人のざわめきも楽団も全て……
「嘘……?」
「そう。貴方をここに呼び寄せるための口実。
 でも、ここがシュタットフェルト家の別荘で、私が後継に指名されたのは本当よ。」
「何故こんな事を。」
「言ったでしょ?ゼロを取り戻し、貴方をブリタニアという檻から助け出すって。
 ブラックリベリオンのすぐ後、私はブリタニアに…シュタットフェルト家に戻ったわ。この国に連れて来られたゼロを助け出すための基盤が欲しかったから。
 でも、私が何も出来ないうちにゼロの処刑が発表された。
 あの時は、ショックで茫然としたわ。」
 そう言ってクスリと笑う。
「すぐにそれは嘘だと分かった。」
「どうして……何を根拠に……」
「その根拠とは……私だ。」
 彼らが座るソファのすぐ前に、背を向けて置かれた独り掛け用の回転チェアーが、クルリと回った。
 大きな背もたれの陰に隠れていた人物が姿を現す。
「き…君は………」
 スザクは、絶句してその人物を見つめる。
 長い緑の髪、妖しく光るキャッツアイ。不敵な笑みを浮かべこちらを見ている少女を、スザクは知っている。
 1度、戦場で対峙した。兄から見せられた資料の中に写真があった。
 恐らく……ゼロの………
「君は……ゼロの………」
「共犯者だ。枢木スザク……いや、スザク・エル・ブリタニア。」
「ゼロの共犯者?」
「正確には、ルルーシュの共犯者だ。私は、あいつに力を与えた。
 ルルーシュと契約したのだ。だから、契約者が死んだのか生きているのかすぐに分かる。」
「契約……力を与えた……?力とは『ギアス』の事か。」
 スザクの目が細められる。キャッツアイも細くなった。
「そうだ。」
 淡々と肯定する彼女に、スザクの顔が歪んだ。
「お前がっ彼を……ルルーシュを魔物に変えたのかっ!」
 立ち上がりつかみかかろうとするのを、アーニャが止める。
 2人の間に両手を広げて立ち塞がる彼女は、真剣な表情で訴えた。
「ギアスが、ルルーシュを変えたのではないわ。
 力を、ルルーシュが望んだのよ。生きるために!」

1

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です