a captive of prince Interval:a.t.b.2018.4 - 10/12

 長い話を聞き終え、スザクは大きく息を吐きだした。
「つまり。ルルーシュの仇はV.V.で、お2人は皇帝とV.V.の仲間だったのですね。」
「かつての、な。」
「今は2人に協力するつもりはないわ。彼らがどう思っているのかは知らないけれど。」
「はっきり袂を分かったのではないのですか。」
「私の気持ちを、今シャルルに言うつもりはないの。それをしてしまっては、ルルーシュも貴方も護れなくなるもの。」
 アーニャ(マリアンヌ)の言葉に苦笑する。
「…………今、女に護られるなんて情けない。と思ったでしょ。」
 カレンの指摘に、スザクは慌てて否定した。
「あんた、顔に出過ぎなのよ。だから、皇帝やV.V.に利用されるんだわ。」
「スザクは、素直で正直なのよ。そういう点では皇室で生きていくには不向きな性格だと思うけど、この気性が多くの人を引きつけるの。」
 スザクを擁護するマリアンヌに、C.C.は肩をすくめる。
「お前もその一人か。」
「そうよ。私の目を覚まさせてくれた人だもの。」
「え?」
 嬉しそうに笑うアーニャ…、マリアンヌを不思議そうに見る。
「スザク。貴方が教えてくれたのよ。人と人は、強制的に意識を融合させなくても理解し合えるって。」
「僕が?」
「正確には、貴方とシュナイゼルね。
 早くに母親を無くし、大人の中で周りの思惑に合わせ欲や執着というものを持たずに生きてきた彼を、良い方向に変えたのは貴方だわ。そして、生への執着を無くしてしまっている貴方を今日まで生かしているのは、シュナイゼルへの尊敬と信頼。
 生まれも育ちも血の繋がりさえ超えて理解し合える事を、貴方達兄弟は私に教えてくれた。
 だから、嘘のない世界を作ると言いながら、お互いに嘘や騙し合いで繋がっているシャルルとV.V.の理想に疑問が持てたの。」
 微笑む彼女に、スザクも笑いかける。そして、顔を引き締めC.C.に向き合った。
「皇帝とV.V.が行おうとしている“神殺し”の目的は分かりました。
 そして、貴女はこの計画に加わるつもりはないのですね。」
「ああ。コードを手放し、人として死を迎える事が出来ても、意識が他者と同じになってしまっては安息など得られそうもないからな。
 それに……我が子を手駒とする、あいつらのやり方には納得がいかない。」
 不快な顔のC.C.に、スザクも頷く。
「だが、彼らの計画には貴女のコードが不可欠だ。そのために、コードを引き継がせる道具としてルルーシュを宛てがい、今度は、雲隠れした貴女を引きずり出すためのエサとしてルルーシュを生かしている。」
「その通りだ。」
「ルルーシュは今どこに?」
「アッシュフォード学園に戻されているわ。そこで、普通に生活している。
 まるで、自分がゼロだった事なんか忘れしまった顔をして……」
 カレンが、納得がいかないと言わんばかりの渋い顔で、写真の束をテーブルに広げた。
 かなりの数のその被写体は全てルルーシュで、その中で彼は生き生きと楽しそうに学生生活を送っているように見える。
 ルルーシュの笑顔に、スザクの表情は和らいだ。
「楽しそうだな……」
 嬉しそうに、その姿を愛おしむように1つ1つ手に取って見る。
「本当に、この彼がゼロだなんて信じられないよ……幸せそうだ。」
「そう見えるか?」
「ゼロだった事を忘れてしまっているのなら、このままずっと……」
「本当に、この姿があいつの望んだ“幸せ”だと思うか?」
 C.C.の問いかけに、写真から彼女に視線を移す。
「こんな生活……まがい物の嘘っぱちよ!
 だって、ルルーシュの側にナナリーがいないのよ。」
 吐き捨てるようなカレンの言葉にはっとして、写真を見つめる。
 そこには勿論ナナリーはいない。今は、ブリタニアで生家とは違う離宮に暮らしている。
 だが、それでもルルーシュは笑っていた。確かに違和感がある。彼の傍らには、ナナリーではない別の人間が写っていた。
 大人しそうな顔の、線の細い少年だ。髪も瞳の色も彼の妹そっくりの少年は、どことなく頼りなげな印象だ。
「この人物は……?」
「さあな。シャルルが用意した監視役だろう。あいつと同居している。」
「監視?でも、この2人はとてもそのような関係には……」
「まるで、本当の兄弟にしか見えないでしょ。」
「ルルーシュは…本当にこの人物を自分の兄弟だと……」
「信じているだろうな。写真からも、こいつに対し愛情を注いでいるのが見て取れる。」
「何故そんな事が……」
「恐らくギアス。」 
 ヒュッと息が漏れる。
「だ、誰の。」
「ギアスはコード保持者によって与えられる。誰でも…と言う訳ではない。その資質を持つ者にだ。」
「貴女が、過去に契約した人物……?」
「違うな。今生きている契約者はルルーシュだけだ。」
「では………」
「私でなければV.V.しかいないだろ。あいつは、誰の側にいる。」
「───ブリタニア皇帝……陛下もギアス能力者………」
 驚愕に体を強ばらせるスザクに、マリアンヌが言う。
「シャルルの能力は人の記憶の改竄。ルルーシュはきっと、ゼロだった事も自分にナナリーという妹がいた事ばかりか皇族だった記憶すら消されて、全く違う記憶を刷り込まれている。」
「記憶の改竄……」
 反覆するスザクの顔は、蒼白だ。
「嘘の記憶を与えられ、ただ生かされている彼が本当に幸せだと言える?もしそうだと考えるのなら、それはエゴだわ。」
「───そうですね。」
 頷くスザクの手に、手が添えられる。
「スザク。シャルルのギアスは貴方にも使われている。しかも、かなりの回数。」
 真剣に話すマリアンヌに、息を呑んだ。
「なっ……いっ一体、いつ………」
「思い当たる事はない?シャルルと会った後、前後の記憶に食い違いがでたことは?」
「子供の頃から何度も皇宮に召されていますが………
 いつも、気がつくと自分の部屋で……」
 蒼い顔で、額に手をやる。
「あなたがブリタニアに連れて来られた最大の理由。
 シャルルが欲したのは、貴方の中に眠る、血の力。」
「血の力?」
「貴方は、コードの守護者の血統なの。」
「守護者?」
「お前には、コードやギアスを受け継ぐ『王の器』はない。
 だが、その『王』を護るための力を秘めている。
 神根島の遺跡が『枢木』のものであった事からも間違いない。
 覚えがあるはずだ。あの遺跡に近づいた時、お前の身に何が起きた。」
「あ……っ。」
 スザクの顔色はさらに蒼白くなり、両腕で体を抱え込むようにして、ガタガタと震えだした。
「スザク?」
 カレンが気遣わしげに彼を覗き込み、マリアンヌはC.C.を睨みつける。
「言ったでしょ。シャルルとV.V.に、遺跡や黄昏の間に関する記憶のストッパーがかけられているって。」
「その事を考えたり思い出すだけで恐怖を感じるようになっているのか。」
「あそこは駄目だ……近づいては……人が関わるものではない。」
 呟くように語るスザクの声は低く明瞭で……だが、明らかにそれは彼そのものの声とは異質な印象を受ける。
 スザクの手がC.C.に差し伸べられ彼女はその手を取った。
 伏せている顔が上げられた。翡翠の瞳が澄んだ光を放っている。
 C.C.は目を見開きそれを見つめると、やがて小さく笑った。
 それを合図とするように、スザクの目も細められ、少女の手からスザクのそれが滑り落ちた。
「スザクッ!」
 3人の少女が見守る中、彼はソファに昏倒してしまった。
「C.C.……一体何が……」
「奴の中の血が目覚めたのだよ。あの2人が余計な事をしたおかげでな。」
 唖然とするカレンとマリアンヌを他所に、彼女はくつりと笑う。
「王の力は絶やしてはならぬそうだ。人の理から外れた存在だからこそ、人の中にあるべきだとさ。」

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