a captive of prince Interval:a.t.b.2018.4 - 1/12

 白夜の空に黒煙が立ち上る。地上を焦がす赤や青の光。
 北欧、白ロシア地方…神聖ブリタニア帝国とEUの戦闘は、ブリタニアの圧倒的勝利で終焉を迎えようとしている。
 艦橋の大きなモニターパネルに映し出される戦況に、その中で一番高い席に座る人物は鼻で笑う。
「ポイントA、ポイントD、ポイントE陥落。ポイントFはほぼ壊滅させました。」
「EU軍は本陣を残すのみです。」
「EU軍司令に、降伏勧告を行いますか。」
 艦長がその人物に尋ねる。
「陛下からの指示は?ナイトオブテン。」
 その人物は、隣りに立つ騎士に確認する。
 皇帝の紋を染め抜いたブラッディオレンジのマントを翻し、皇帝の騎士は恭しく頭を下げる。
「殲滅──で、ございます。殿下。」
 騎士は、口の端をつり上げた。
「では、そのように………」
「お待ち下さい。殿下!」
 ナイトオブテンとは反対側に立つナイトオブラウンズが前に進み出る。
「EU軍は既に牙を抜かれたも同然。これ以上の抵抗はないと思われます。
 無駄な殺生よりも、降伏を促し捕虜とするのが得策かと……」
「ナイトオブスリー。君は、誰の騎士だ。」
「はっ?」
 問いかけられ、ジノは声の主を見る。怜悧な光を放つ暗緑の瞳が見下ろしていた。
「君の主は誰かと訊いているのだよ。」
 低く静かな声が、再び問いかける。
「それは………」
「ブリタニア皇帝。シャルル・ジ・ブリタニア陛下でございます。
 我々ナイトオブラウンズは皇帝陛下の剣。陛下のご命令は絶対でございます。」
 言いよどむジノの声を遮るようにナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリーが発言すると、彼の人物は鷹揚に頷いた。
「そう言う事だ、ヴァインベルグ卿。私も、陛下の命を受けてこの戦地に赴いている。主命をおろそかにし、己の一存で動くのは慎もう。」
「し…しかし、抵抗も出来ぬ者をなぶるような………」
「貴公の美学に反するかもしれぬが、これは勅命だ。」
「私の事を申し上げているのではありませんっ。私は殿下の……!」
「私の………?」
 一層低くなった声が、ジノの言葉を遮った。
「………殿下は、本当にこれで宜しいのですか。」
 睨むように見上げる碧眼に、暗緑の瞳が細められる。
「良いも悪いもない。私は、陛下によって生かされている身。
 陛下のお心に沿うよう務めるのは子供の義務だ。」
 淡々と語るその人物を、ジノは信じられないと言わんばかりの表情で見つめる。
「ナイトオブラウンズに出撃を命じる。敵を、完膚なきまでに叩き潰せ。」
 玉座の前に、3人のラウンズが跪く。
「イエス ユア ハイネス。」
「吉報を待っている。」
 そう冷たく笑うと、玉座を降りたその人物はラウンズの間を割るようにして艦橋を去って行った。
「フ…ハハハ………死神皇子殿下はよく解っていらっしゃる。
 弱者は強者の前にひれ伏し、命を差し出すようになっているってな。
 名門のお坊ちゃまとは、出来が違うんだよ。」
 挑戦的な態度で煽ってくる同僚を、ジノは黙って睨みつける。
「ブラッドリー卿は、殿下がお気に入り?」
 睨み合う男達の間で、少女騎士が静かに尋ねる。
「ああ。あの方は、私の趣味に寛容だからな。
 死神配下の吸血鬼……いいコンビじゃねえか。」
「コンビ……?あの方は皇族ですよ。」
 ジノの目が剣呑さを増す。
「これは失言だったな。だが、スザク殿下の元で闘うのはこれで3度目だが、毎回楽しませてくれるから有り難いぜ。」
 高笑いで出て行く男を睨みつける。
「───下衆野郎……!」
「それでも、彼は私達と同じラウンズ。」
「ああ……分かっている。どんなに気にくわない奴でも、仲間だ。」
「行こう。ジノ。私達がスザクのために出来るのは、一緒に闘う事だけ。」
「ああ、そうだな。アーニャ。」
 ジノは、嘆息すると彼女とともに艦橋を去るのだった。

 神聖ブリタニア帝国統治領エリア11。
 かつての日本国に彗星の如く現れた、黒衣に仮面のテロリスト、ゼロ率いる黒の騎士団が引き起こした反乱は、帝国宰相シュナイゼルと、たまたまその地に赴いていた皇帝の騎士ナイトオブラウンズの働きにより1日を待たずに鎮圧された。
 首謀者であるゼロはラウンズによって捕らえられ、皇帝直々の裁きにより捕縛後僅か半月で処刑された。
 エリアで捕らえられたテロリストを本国まで連行し、皇帝が裁くなど異例中の異例であり、皇帝がこのエリアに大きな関心を寄せている事を広く内外に知らしめる事となった。エリア11に隣接し自国併合を目論んでいる中華連邦を牽制するのに効果を発揮した。
 この反乱を誘発する原因となった「行政特区日本」記念式典会場においての虐殺指示発言で拘禁されていた元副総督ユーフェミア・リ・ブリタニアは、離宮へ永久に幽閉される事となり、その処断を不服とした彼女の姉である前総督のコーネリアは、戦闘で受けた傷が癒えると国を出奔し、現在行方不明のままである。
 彼女の騎士であるギルバート・G・P・ギルフォードを中心とした親衛隊グランストンナイツは、新総督カラレス総督の預かりとなり、エリア11で主の帰りを待つ身である。
 そして、前述の式典会場で負傷したスザク・エル・ブリタニアは、ユーフェミアが行おうとした蛮行を阻止した功が認められ、正式にブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの養子である事が公表された。また、混乱の最中発見保護された故第五皇妃マリアンヌの遺児ナナーリー・ヴィ・ブリタニア皇女は皇籍復帰を認められ、その彼女よりも低いもののスザクも皇位継承権を与えられた。
 この破格の扱いに様々な憶測が飛び交う中、スザクは着実に皇族としての足場を固めつつある。
 そして今、スザクは皇帝の命によりこの白ロシア戦線に、航空母艦アヴァロンを駆り、参戦中なのだ。
 入隊前よりその傑出した戦術を高く評価されていた彼であったが、戦女神の異名を持つコーネリアのもと、彼女の側近である将軍達によって教育された事と、兄譲りの戦略で指揮官としての才も評価が高い。
 殲滅戦を得意とするその戦略は情け容赦のないもので、反ブリタニア勢力の間では、艦隊を率いて参戦するようになってから日が浅いというのに、既に“死神”の二つ名をつけられるほどである。
 その戦功に、また1つ星が増える事になる。

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