a captive of prince interval:Confession

 ルルーシュは、その夜も遅くまで働いていた。
 ナナリーを寝かしつけた後、翌日となった学園祭の最終チェックと、今後の黒の騎士団活動計画・組織の再編成。
 それに、今懸案中の事案の詰めもしなくてはならない。時間がいくらあっても足りないくらいだ。
 PCにデータの打込みをしていると、部屋の窓をコツコツと叩く音がする。
 不審に思って窓を見たルルーシュは、目を見開いたままフリーズした。窓の外に……ここにいてはいけない人物がいる。
 その人物は、ベランダの手すりに腰掛け、ニコニコと彼を見ている。窓の鍵を開けるように、ゼスチャーで要求してきた。
「スッ……!」
 声に鳴らない音を上げ、PCをスリープモードにする事は忘れず、窓に駆け寄る。
 鍵を開けると、その人物は嬉しそうに中に入ってきた。
「スザクッ。おっお前!」
 思わず大声を上げれば、人差し指をたてて注意される。
「周りに聞こえるよ。」
 そう言ってすぐに窓を閉めた。
「お前、一体どうやって……」
「ご覧の通り。政庁を抜け出してきたんだ。」
 しれっとして話すスザクの服装は、TシャツにGパンというごく一般的な服装だ。
「こういう格好だと、誰も僕だと気づかないからね。普通に、交通機関使って来れたよ。」
「───そう言う話じゃなくて……今何時だと思って……」
「午後11時過ぎ……人を訪問する時間じゃないね。遅くにごめん。」
 ルルーシュは目眩がしてきた……会話がかみ合っていない。
 気を取り直して、スザクの顔を正面から見据える。
「もうとっくに校門は閉まっていただろう。そうなると、防犯システムが稼働して外からの侵入は……」
「セキュリティの見直しを提案した方がいいと思うよ。穴が多すぎる。」
 スザクがクスリと笑う。
「お前…明日の警備のために提出した、防犯システムの配置図……」
「僕の警備用なんだから、僕が見るのは当然でしょ。」
 飄々と答えるスザクに肩をすくめる。
「いつも、こんな風に抜け出して夜遊びしているのか?皇子さま。」
「まさか。こんな風に1人で抜け出したのは、初めてだよ。」
 心外だと言わんばかりの彼に、ルルーシュは目を見開く。
「そんな奴が、わざわざ夜中に俺を尋ねてきたのはどういう訳だ?」
「明日会えるけど、2人きりになるチャンスはないだろうから……」
 そう言って、肩から下げているポーチから手紙の束を取り出した。
「この間話した、ユフィから君たちへの手紙……」
「──これを届けるために?」
 申し訳ないなと目尻を下げる。
「ずいぶん時間が経っちゃったけれど……ユフィ達の気持ちは、この頃と変わらないから。」
 久しぶりに見る、半分血が繋がった妹の筆跡を懐かしそうに見るルルーシュを、スザクもまた優しく見守っていた。
 が、真剣な表情で口を開く。
「ルルーシュ……7年前、君は僕に言ったね。……“ブリタニアをぶっ壊す”と……」
「───ああ。言ったな。」
「その気持ちは、今も変わらない?」
 問いかけてくるスザクに声を失い、凝視する。やや、間を置いてルルーシュは薄く笑った。
「何を突然……そんな事、今の俺にできる訳ないだろう。」
「できたら、やっている?」
 その質問に、ルルーシュは鋭い視線で答えた。
「ああ。やっている。」
 スザクは、そんなルルーシュを目を細めて見ると、目を伏せ小さく息を吐いた。
「だったら───それを、僕にやらせてくれないか。」
「な…に……?」
「僕はブリタニアをぶっ壊す。君とナナリーのため……僕のために。」
「スザク?」
「ルルーシュ。僕は、叶うなら皇籍を捨て名誉ブリタニア人になるつもりだ。
 そして、兄上…シュナイゼル殿下の騎士になる。」
 スザクの告白は、ルルーシュを驚愕させた。
「スザっ……一体何をっ……!」
「シュナイゼル兄さんには話したんだ……断られちゃったけれど。」
 スザクは苦笑する。
「でも、僕の気持ちは変わらない。
ルルーシュ。僕は兄さんと一緒に、このブリタニアを変える。」
「一体どうやって。皇帝を引きずり下ろすつもりか。」
 冗談めかして尋ねるルルーシュに、スザクは真顔でそうだと言う。
「兄さん……シュナイゼル様はもうずっと前からそのための準備を続けている。
 そう…君たちが日本に捨てられ、僕が拾われた時から……」
「───!!」
「僕は、シュナイゼル兄さんか帝位に就くための駒になる。
それが……僕を育ててくれたあの人への恩返しだと思っている。
シャルル・ジ・ブリタニアの時代は早晩終わりが来る。
こんな…破壊と侵略に明け暮れた繁栄がいつまでも続く訳がないんだ。
そのための一石を、このエリア11に投じる。
テロリズムに訴えなくても、日本人が意見を言え、それを尊重できる場を作る。」
「そんな事が……」
「できる!やってみせる。僕は、ブリタニアを中から壊すんだ。」
「───スザク……」
 スザクの真剣なまなざしに、ルルーシュは何も言えなかった。
 ただ、互いを見つめ立ちすくむ。
 その静寂と緊張を、1つのコール音が破った。
 スザクの携帯端末の呼び出し音だ。
「───見つかっちゃった。」
 発信元を確認して苦笑する。ルルーシュも肩をすくめた。
 スザクは、通信を繋げると発信者と話し始めた。
「レナード。ずいぶん早くバレちゃったな。え…今?租界の学園エリアだよ。うん。アッシュフォード……大丈夫だよ。迎えなんて……え…それは……この間素敵なコにあったから……ちょっとは察してくれよ。」
 そう言って、ルルーシュにウインクしてくる。呆れたように笑い返した。
「うん、解った。それじゃあ、ルート260でランデブーしよう。 
ああ、解った。今から出るから……」
 スザクは通信を切ると再び苦笑してみせる。
「それじゃあ。また明日。……さっき話した事は本気だから。」
「ああ。でも、何故……」
「ルルーシュには、僕の覚悟を知っておいて欲しかったんだ。
それから……何があっても、僕はルルーシュの味方だから……」
 忘れないで…と言いおいて、来たとき同様ベランダへ出て行く。
「おっおい!」
 ルルーシュが止める間もなく、スザクは手すりをひらりと飛び越えた。
 慌てて下を見れば、スザクは学校の庭園に設置されている赤外線センサーを躱しながら駆け抜けて行く。
「あいつ……」
 自分が抜け出す時に利用するルートと同じ事に苦笑した。

 スザクの告白が気になり、スリープモードを解除したPCを前に作業の手は止まったままだ。
「スザク……」
 一体何をするつもりなんだ───
 窓の外は雲1つなく、星が鮮やかに瞬いている。
 秋も深まった夜空は冴え冴えとし、月に冷たく見下ろされているような錯覚を憶え、窓のカーテンを引いた。
 言い様のない不安が、ルルーシュを襲っていた。

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