a captive of prince interval:Beg earnestly

「式根島基地より入電。島南西部より黒の騎士団が来襲。
 現在応戦中。副総督はご無事です。
 スザク殿下が、副総督の命によりランスロットで参戦している模様。」
 オペレーターが齎した報告に、アヴァロンの艦橋は一気に緊張した。
「島までは、あとどれくらいで到着の予定だったかな。」
 シュナイゼルの問いに、艦長が直立不動で答える。
「はっ。あと20分で到着する予定です。」
「20分……少し急ごう。」
「はっ!エンジン出力を上げろ!」
 艦長の指示が次々と復唱される。
 その数分後、シュナイゼルの元に特派主任からスザクの危機を伝える通信が飛び込んで来た。
「スザクが……敵の罠に落ちた……」
『敵はランスロットをおびき出し、砂地に忍ばせておいた装置で動力系を無効にしたようです。』
 セシルの、動揺しながらも的確な報告に、眉をひそめる。
「ナイトメアを動けなくしたのか……ロイド、そんな事が可能なのかい?」
『恐らく……
 ナイトメアの駆動系に使われているサクラダイト…ユグドラシルドライブとの有機結合を行っているその部分に干渉し、ナイトメアという理想を正面から否定して退ける装置……ゲフィオンディスターバー……
 理論だけだと思っていたこれを、完成した人間がいる……』
 問いに対する答えというより、一人言のようにつぶやく。
「全く沈黙してしまっているのか。ランスロットは。」
 科学者の動揺に相手をしていられないと、シュナイゼルは質問を変えた。
『いえ。第一駆動系以外は生きているようです。』
 その答えに、ほっとした表情を浮かべる。
「スザクと話がしたいのだが。」
 シュナイゼルの要求に、通信相手のセシルから戸惑いが伝わる。
『あ…その、殿下は……』
 ややあって、意を決したかのような息づかいが漏れたあと、静かだが明瞭な声で事実が伝えられた。
『ゼロが、スザク殿下との対話を要求し、ユーフェミア様のご判断で外に出られました。』
「では、スザクはコクピットにいないのだね。」
『はい。話し合いに応じなければ、周りを取り囲んでいるナイトメアで一斉射撃すると……』
「なるほど……それで、ユフィが命令したのかな。外に出るようにと……」
『──はい。』
 セシルの返事に、ため機とともに肘掛けの上の手を握る。
 ユーフェミアの悪い癖だ。コーネリアが甘やかせて育てたせいか、独善的な行動が多い。平時であればさほど気にもならないが、このような有事にスザクの意思の確認もないまま、命令という形で押し付けられてしまえば……それに従うしかない。
 外に出れば、それだけスザクの身に危険が増えるとは考えなかったのだろうか。
 弟ならばそんな要求に応じず、救援が来るのをコクピットの中で待つはずだと解るだけに口惜しい。
 副総督補佐に就任した直後に交わした通信を、シュナイゼルは思い返していた。

「スザク。不可抗力とはいえ自ら皇族である事を公表してしまったのは、お前にとってマイナスなのではないかい。
これで、お前が反抗勢力の的になるのは避けられないよ。」
「……覚悟の上です。それに、ブリタニアの中でずっと護られてばかりでは……僕が、彼らの怒りや憎しみのはけ口になれば、他の皇族や貴族への攻撃も減るのではないかと……」
「何を馬鹿なことを言っているんだ!」
 常とは違う兄の怒鳴り声に、スザクは驚いてシュナイゼルを見つめる。が、ややあって儚げな笑みを浮かべた。
「兄さん。お願いがあります。もし、僕が敵の手に落ちる事があったら……」
──毅然とした態度で、テロリストに向って下さい。───
 それはきっと、ホテルジャック事件でのコーネリアの対応が、本国で論議を呼んだ事を気にしての事だろう。
 妹であるユーフェミアの命を惜しんだばかりに、テロリストの制圧もままならぬばかりか、黒の騎士団という新興勢力を増長させる結果になった事を批判する者は少なくなかった。
 エリア総督コーネリアと宰相であるシュナイゼルでは、負う責任の重大さは比べるまでもない。

 スザク───
 シュナイゼルは額を預けていた手から離すと、式根島司令部に通信回線を繋げるよう指示した。

「──イエス マイ ロード。」
 スザクの低く静かな声がコンダクトフロアに響く。
「さすが、宰相閣下ご自慢の弟君。命令に対し従順でいらっしゃる……」
 基地司令ファイエルはくつりと笑った。
「司令。殿下にお伝えした命令は、宰相閣下からお預かりした内容とは違うのでは。
ランスロットの動力が回復したら、速やかに退避をと仰られていたはずです。」
 尋ねる副官にそうであったかと、とぼけた顔をする。
「殿下であれば、動けると分かればそうされるであろう。」
 含みのある笑みに、副官の表情が曇る。
「退避に遅れ、爆発に巻き込まれる不幸な事故はよくある話さ。」
 ファイエルの胸元には、階級を表す勲章の他に、純血派の象徴である紅い羽根が飾られていた。

『ランスロット、全駆動系回復しました。』
 セシルの弾んだ声が、アヴァロンの艦橋に響く。
 だが、ランスロットが脱出したという報告は上がってこない。
「クルーミー少尉。ランスロットはまだ離脱していないのか。」
『それが……動く様子がなくて……こちらからの呼びかけにも応答が……メインの通信パネルを切られているようで……』
「ロイヤルプライベートをっ!」
 叫びにも似た命令に、艦橋の全員が息を呑んだ。
「イ…イエス ユア ハイネス!」
「スザク…スザク。聞こえるか。スザク。」
 通信回線を開いたという報告に、すぐ呼びかける。ジャミングがかけられているせいで、ノイズが酷い。
『兄さん。』
 スザクの声に、ほっと胸を撫で下ろす。
「スザク…囮役ご苦労だった。装置を破壊したから、もう干渉は受けないはずだ。早くそこから脱出しなさい。」
 その呼びかけに返って来た声に、戦慄が走る。
『なにを…もう……いらないといいうのか。……だから死ねと…!!』
 艦橋内に響き渡るテロリストの声に、誰もが絶句した。
 スザクに、正しく伝わっていない──!
「早くそこから逃げるんだ。死んでしまうよ!これから地上に向けハドロン砲を打込む手はずになっているっ。お願いだスザク。気がついておくれ。スザクっ……愛してるよ……スザク……」
 シュナイゼルはもうなりふり構っていなかった。必死に地上にいる弟に叫んでいた。
『兄さん……僕はもう……最期に……声が……よかった。』
『……れっ!……スザクを惑わすなっ!』
 魔人の叫び声とともに、通信が切られた。
 呆然とするシュナイゼルをその場の全員が見守る。
「───わが君……」
 クロヴィス暗殺を防げなかった責で牢につながれるところを、シュナイゼルの配下になる事で放免された将軍が、気遣わしげに名を呼ぶ。
「ハドロン砲発射準備完了しました。発射ポイントまであと20秒。」
 オペレーターの報告が無情に響く。

 シュナイゼルは、瞑目すると右手を振り下ろした。
「───ハドロン砲……発射……」
 シュナイゼルの指示が復唱される。
 大きな振動が、艦橋にまで伝わった。
 炎が…赤い大きな火の塊が地上へ駆け下りていくのを、シュナイゼルは唇を噛み締めて見つめた。

───スザク!
 どうか生きていて………

 シュナイゼルはクッと頭を上げ、祈るように天上を見上げた。

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