スザクが戦闘中錯乱したという報告は、ロイドよりすぐにシュナイゼルに伝えられた。
「一体どうしたんでしょうね。これ、殿下が以前僕に教えてくれた”発作”でしょう。
ブリタニアに来たばっかりの頃ならいざ知らず、ここ数年はそんなものなかったんですよね。」
「うむ…」
ロイドの報告を聞きながらシュナイゼルの脳裏に浮かんだのは、考えられない行動をとったバトレーやジェレミアの姿だった。
「その時、スザクはゼロを追いつめ捕らえる所だったんだね。」
「ええ。これから捕縛すると通信があった矢先ですよ。生身のゼロにヴァリス突きつけて。」
「物騒なことをしたものだね。」
スザクの乱暴な振る舞いに、苦笑を漏らす。
「その時。スザクが発作を起こす前、何か変わったことは?」
「──ありました。ナイトメアの前にね、女の子が現れたんですよ。」
「女の子?」
「そっ。その子が何か言ってランスロットに触れた直後ですよ、スザクくんが悲鳴とも絶叫とも呼べる声を上げたのは。」
「──記録は?」
「ちゃんと録ってありますよぉ。コピーですけどね。オリジナルは破棄しましたから。」
「ロイド、君が優秀で本当に助かるよ。今からそっちに向うから。」
「ええっ!?これからですか?殿下も相当過保護じゃないの?」
ロイドの言葉に笑顔で応えて通信を切る。
やはり、ゼロには何かしら超常の力がある。それが何か解らないが、人心を狂わす何かが……
それを使い、スザクを傷つけたのなら……
「ゼロ。君はブリタニアにとっても、私にとっても敵だという事だ。」
こちらへ到着するのは早くても翌朝だと思っていたロイドは、その夜のうちに最新鋭の航空間でエリア11に現れ、突然の来訪に慌てる職員を尻目に、真直ぐこの特派のトレーラーにやって来た帝国宰相をいささか呆れ顔で迎えた。
「お早いお着きでぇ。スザクくんの所には寄ったんですか。」
「眠っているようだからね。目が覚めるまでそのままにしておくよ。
それよりも例のものは?」
「はいはい。」
背後で困惑した政庁文官が副官のカノンに来訪目的や滞在期間などを問う声が聞こえるが、よく心得ている彼に任せて、ロイドは応接代わりに使っている控え室にシュナイゼルを案内した。
『止めろ。この男に手を出すな。』
ランスロットのファクトスフィアが写した画像を食い入る様に見つめていたシュナイゼルが、緑色の長い髪をなびかせた少女を凝視する。
「彼女かい?」
「ええそうです。この後すぐ……」
ロイドの言葉が終わらぬうちに、スザクの絶叫とともにランスロットが暴走を始めた。
特派の庶務全般を受け持っているセシルは、さすがに深夜になろうというこの時間にはいないため、ロイドがコーヒーサーバーから煮詰まったコーヒーをシュナイゼルに出すと、頓着せずにそれを口に運ぶ。
ロイドも自分のマグカップに注いだそれに口を付けたが、顔をしかめてシュガーポットからどさどさと砂糖を入れた。
ロイドがそんな作業をしている間も、シュナイゼルは苦すぎるコーヒーをすすっており、心ここにあらずといった様子で先ほどの映像を繰り返し見ている。
「この映像を見る限り、彼女はゼロの仲間のようだね。
そして、彼女が手を触れた途端異変が起きた……接触することで、中のパイロットに精神的ダメージを与える方法って何だろうね。」
「さあ。僕にも、とんと見当がつかないです。」
「ふむ…何とも不気味だね。だが…手掛りはつかめたような気がするよ。」
「ほんとうですかァ?」
からかうような口調のロイドに顔を向けると、シュナイゼルはいつものアルカイックスマイルを見せる。
「ああ。この少女の顔を見たことがあるのだよ。勿論資料でだが。」
それは、クロヴィスの腹心であったバトレーのラボにあった「R計画」のマル秘資料の中……
彼女はクロヴィスの虜だった。それを解放したゼロに味方している。もしくは、何か目的があって行動を共にしている……
という事は、彼女からゼロの正体に辿り着くことが可能かもしれない。
「牢屋につながれそうになっている人物を、救済してやらねばならなくなったな……」
シュナイゼルの一人言を、ロイドが耳聡く聞いていた。
「バトレー将軍のことですか。と、なると…クロヴィス殿下もこの子に関わっていたってことですかね。」
「ロイド。あまり、余計な詮索はしない方が身のためだよ。」
「おお。怖い怖い。」
飄々とおどけてみセルロイドに、シュナイゼルはそれ以上何も言わず席を立った。
「それでは、総督に深夜の突然の来訪をお詫びしてこよう。
ああ、それから。コーヒーはいつまでも保温しておかないで淹れたらすぐに飲むことをお勧めするよ。」
「あらら。やっぱり苦すぎちゃいましたぁ?」
ふざけた物言いのロイドに、胃を悪くするよと忠告して、シュナイゼルはカノンを従えて去って行った。
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