a captive of prince 第2章:ペンドラゴン - 2/7

スザクが目を覚ますと、そこはペンドラゴン皇宮ではなかった。
肌に馴染むリネンの肌触り、見慣れた天蓋…自室の寝台の上だと分かった時、耳元で名を呼ばれた。
「スザク。気がついたかい。」
「シュナイゼル…兄さん……」
まだ、ぼおっとする頭で、自分を覗き込む人の名を呼べば、安堵の笑みを浮かべる。
「──僕、どうして……」
「皇帝陛下に謁見の後、倒れたそうだよ。ヴァルトシュタイン卿が送り届けてくれた。」
「そうですか……また。いつも、ヴァルトシュタイン卿にはご迷惑をおかけして……」
「うむ。卿には、私からよくお礼を言っておいたからね。」
「ありがとうございます。兄上にも、ご心配をおかけしてしまって…」
「スザク。」
言葉を遮られ、シュナイゼルを見れば少し怒った顔をしている。訳が分からず見つめていると、兄は表情を和らげ
「今、ここには私とお前しかいないよ。」
と、強請るような響きで語る。
そんなシュナイゼルに、スザクも柔らかな笑顔を浮かべる。
「兄さん。」
改めて呼びかけると、シュナイゼルは嬉しそうに微笑むのだった。
「陛下との謁見はどうだったのかな。」
「相変わらずです。あの方は。
第三皇子であるクロヴィス兄さんが殺されたというのに、怒る訳でも、兄さんの死をいたむ様子も無く、むしろ殺害犯を面白がっていました。」
「あの方らしいと言えば、らしいね。」
シュナイゼルもため息をつく。
「謁見の後、具合が悪くなってしまって。しばらく控えの間で休んでいたのですが……」
「そのまま倒れてしまったようだね。きっと疲れが出たのだろう。一度に色々あったからね。」
「はあ…。体力には自信があったのですが…どうもあの方の前だと緊張してしまって。」
「あの方を前に平然としていられるのは、ビスマルクくらいだろうね。」
シュナイゼルの言葉に、二人は顔を見あわせると小さく笑った。
「1つ、エリア11から報告が届いたよ。」
「エリア11…!何の知らせですか!?」
期待を込めた表情に、シュナイゼルは困った顔をし、言いよどんだ。
「朗報と言えば朗報になるのだろうけど…ね。クロヴィス殺害の犯人を捕らえたそうだよ。」
「本当ですか!?」
がばっと跳ね起きたスザクではあったが、目眩を覚えて頭を抱えてしまった。
「急に起き上がるからだよ。もう少し横になっていなさい。」
「……すみません。」
素直に横になるスザクに、エリア11からの報告を続ける。
「犯人とされる人物は、名誉軍人だそうだよ。」
「名誉……。」
スザクの表情が曇る。
「殺害に使われたとする拳銃から、その人物の指紋が検出されたそうだ。」
「その人物は、犯行を認めているのでしょうか。」
「なかなか口を割らないが、必ず自白させると言っていた。」
「そう…ですか。」
そうつぶやくと、目を伏せた。
「彼は、スケープゴートに使われたようだね。だが……」
「解っています。総督暗殺で混乱しているエリアを鎮めるには、この事件を解決しなければならない。しかも早急に…ジェレミア卿の判断は間違っていません。
実行犯からの犯行声明も出ていない今の状況では、真犯人が名乗り出るはずもないでしょうから……」
そう語るスザクではあったが、言葉には悔しさがにじみ出ている。
いつでも、こういう時に生贄にされるのはナンバーズだ。ブリタニア側からすれば「こういう時のために飼っている」と言う事だろう。
同胞が、底辺に追いやられ苦しんでいるというのに、自分はその支配階級となって平穏に暮らしている…申し訳ない気持ちと、自分を取り込んだ皇帝への憎しみにスザクは唇を噛んだ。
「スザク。思い詰めては体に悪いよ。少し眠った方がいい。」
「でも。兄さん、僕は……」
言い募るスザクの両目を手で覆い、シュナイゼルは、なだめる様に言い聞かせる。
「これから先の事は、ジェレミア卿に任せよう。さあ。おやすみ。」
「兄さん……それでも…僕は……」
こんな犠牲は、認めたくない。
その言葉はついに発する事なく、スザクは再び眠りに落ちた。

静かな寝息を立てて眠る弟を見守る兄の耳に、ドアが静かに開かれる音が届く。
「スザク様。お休みになられたようですわね。」
「ああ。さっき打った鎮静剤が効いたようだね。」
静かに近づいてくる副官に、シュナイゼルは答えた。
「これで何度目でしょう。ペンドラゴンに上がったスザク様が送り届けられるのは。」
「さあ……あの方の前では酷く緊張してしまうそうだよ。」
「仕方ありませんわ。初めての謁見であれほどの無体を強いられてては……。」
いつもは穏やかなカノンの表情に、明らかな嫌悪の色が浮かぶ。
集められた上位皇位継承者の前、必死に父の名誉を守ろうと泣き叫んで抵抗する子どもを無理矢理抱き上げ、彼の抱える罪を暴き晒し者にしたあげく、それを賛美し、養子にすると告げる皇帝。
日本国首相の嫡子としての矜持を打ち砕かれ、心の傷をも抉られて放心状態のスザクを痛々しく見たのはまだ記憶に新しい。
「可哀想に。僅かの間に、こんなにやつれてしまって。」
髪を優しく撫でられるスザクの目の下には、うっすらと隈が出ている。
「無理もありません。エリアに着くなり戦闘に巻き込まれ、兄上を殺され、バトレー将軍の更迭でエリアの事を全てスザク様が決めなくてはならなかったのですから……
きっと、ろくに休む事も出来なかったでしょう。」
「ああ、そうだろうね。だから、せめて今だけはゆっくり寝かせてあげよう。」
「またエリアに戻れば、スザク様、きっとお辛い事ばかりでしょうね。」
「そうだね。出来ればあのエリアには行かせたくないのだが、特派が常駐している以上、無理な相談だろう。
今更ながら、この子の身体能力の高さが恨めしいよ。」
「適合率94%。スザク様以上にあのナイトメアフレームを動かせる者が現れる事はないでしょうね。」
「そうだね……。」
スザクの髪を撫でながら、シュナイゼルはまた1つため息をついた。

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