Honey moon - 6/19

眉月

早朝の冷気でスザクは目を覚ました。
すぐ目の前には、ルルーシュの安らかな寝顔がある。
白く綺麗な肌…長いまつげ…形のいい唇……その艶やかに色づいた口元を見ながら、指で自分の唇をなぞった。
昨夜の、深く長い口づけを思いだすと、体の中心が熱くなって来る。自然と、ルルーシュに覆い被さるように顔を近づけていた。
鼻先がくっつくかというほど近づいたときルルーシュの目が開かれ、慌てて離れようとする頭を押さえつけられたかと思うと、ルルーシュの方から唇を重ねてきた。
「おはよう。スザク。」
「お……おはよ……」
自分がしようとした事を見透かされ、先を越されたように感じ、羞恥で頬が上気する。
そんなスザクに、ルルーシュは首を傾げた。
「どうした。まだ起きるには早いだろう。」
時計を見れば、午前4時30分を指している。
「う…うん。ちょっと寒くて目が覚めちゃって……」
取り繕う言葉にルルーシュは顔を曇らせ、スザクの額に手を当てる。
「………少し顔が赤いな。熱はそんなになさそうだが………」
タンスの上に置かれた救急箱に目をやるルルーシュに、スザクは慌てた。
「だっ大丈夫だよ。京都は朝冷えるから………
そ…そういえば、夕べお風呂入らないで寝たから、わ、沸かそうかな……って………」
しどろもどろのいい訳に、ルルーシュも何か思い当たったのか、そうだなと頷くと立ち上がった。
「ル……ルルーシュ。」
「風呂に湯を張って来る。お前はもう少し寝ていろ。」
そう言ってスザクに布団を掛け、風呂場へと歩いて行く。
「昨日見たが、総檜の立派は風呂だったな。一緒に入れるな。」
そう言い残して去って行くルルーシュの目が細められていた事に息を呑む。
「僕……何か余計なことを言っちゃったかも………」
布団を頭から被り、口走ってしまった言葉を反省する。
顔が自分でも分かるくらい火照っている。鼓動もいつもより早く感じる。
「どうしちゃったんだろう……今まで普通にしてきた事なのに……」
なんだかすごく恥ずかしい。
自分の中に湧いてくる感情に、スザクは戸惑っていた。

檜の芳香漂う浴室。スザクに取って心和む香りだ。
風呂だけでなく、床・壁・天井まで檜に覆われた広い浴室は、男2人が入ってもゆったりできる余裕がある。
優しい木の香と柔らかな湯の感触に、スザクもルルーシュも心身ともに開放感に浸っていた。
「気持ちいいね。」
「ああ。スザク…体は温まったか?」
「うん……」
少しとろんとした表情のスザクに、ルルーシュは安堵の笑みを浮かべる。
「あまり浸かっていると、のぼせるぞ。」
「うん。背中、流しっこしようか。
湯船を出て石鹸を泡立てる。先にスザクがルルーシュの背中を洗い始めた。
しっかりと泡立てた石鹸を手に取り、泡で撫でるように洗い上げる。その方が、肌への刺激が少ないのだと、ルルーシュに教えられた。
「なんか、懐かしいね。子供の頃に戻ったみたいだ……この風呂場のせいかな。」
「そうだな。枢木の家の風呂場に似ているな。」
「初めて一緒に入った時、ルルーシュ日本の風呂が分からなくて、泡だらけにしちゃったんだよね。」
「あの時は、家政婦にさんざん叱られたな。」
「あのあと、結局2人で風呂場全部洗うはめになったっけ……」
昔話に、自然と笑い声が出る。
「替わるぞ。スザク。」
「あ…うん。」
ルルーシュに背中を向ける。また、鼓動が早くなった………
石けんの泡越しに、ルルーシュの手の温もりが背中に感じる。
背骨から肩甲骨を辿る手の動きに、別の感覚が刺激されて思わず漏れそうになる声を飲み込んだ。
「どうした?」
ルルーシュの声に、なんでもないと答える。
「そうか?」
怪訝に思いながらも、ルルーシュは丁寧に体の線をなぞるように手を動かす。
右肩から脇腹にかけて残るやけどの痕……周りの皮膚とほぼ変わらぬ程まで落ち着いたが、その僅かに色の違う部分を撫でる。
「ルルーシュ?」
今までと違う動きに、訝ったスザクが問いかけた。
「まだ残ってるな……痕……」
「それは……しかたないよ。でも、ずいぶん薄くなったでしょ。」
ダモクレス戦、爆発炎上するランスロットから脱出する際に受けた傷……その当時の事を思いだしてルルーシュは眉をひそめた。
酷いやけどだった。それでもスザクは「ルルーシュのギアスのおかげで生きていられるんだよ。」名誉の負傷だと笑っていた。
自然と、スザクを背中から抱き寄せる。
いつの間にか小さくなってしまった背中……5年前…もうすぐ6年になるが、その頃に比べてずいぶんと華奢になった。
ルルーシュと暮らし始めた頃から、線が細くなってきたような気がする。ゼロを引退し、体を鍛える必要がなくなったと、毎日のトレーニングの量も体力を維持する程度に留めている。
そのせいだろうか……それとも、自分がブリタニア皇族の平均的体格になったから余計そう思うのか……
抱き寄せた体をなぞるように、手を滑らせて行く。
スザクの体が震えていた。

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