Honey moon - 5/19

スザクを抱きかかえてきたルルーシュは、夜具を敷いてある部屋まで運ぶと、布団の上に下ろす。 先に敷いてから行ってよかった。
スザクから神楽耶の事を相当な酒豪だと聞かされていたためそうしたのだが、正解だったと安堵する。でなければ、今頃ルルーシュ1人であたふたするところだった。
スザクは、布団に下ろされても全く目を覚ます様子がない。大抵は朝まで眠ってしまうのだが……
「おい。スザク。このまま寝るのか?着物のままでいいのか。着替えるんじゃないのか?」
和服の事がよくわからないためスザクを揺すると、うなり声をあげておっくうそうに瞼をあげた。
「このまま寝てもいいものなのか。寝間着はそこに用意してあるだろう。」
枕元には、浴衣よりももっと柔らかい素材の寝間着が用意してある。
スザクはそれを見る事無く、面倒くさそうに頭を掻いている。
「えー。ああ、大丈夫。浴衣で寝ても……ルルーシュも寝よ?」
甘ったれた声でルルーシュの手を引くのを、声をかける事で止めた。
「目が覚めたんなら、歯磨きくらいしてから寝たらどうだ。」
「えーめんどい。朝起きたらする………」
また目を閉じてしまったスザクに、小さく息を漏らす。すると、いきなり起き上がった。
「おやすみ。ルルーシュ。」
驚くルルーシュの頬にキスすると、スザクは起き上がったのと同じ勢いで布団に倒れ込んだ。
寝息を立てて眠っているスザクに、ルルーシュは目を細める。
「ああ。おやすみ。」
眠るスザクの唇に、自分のものを重ねる。音を立てて離すと、くすぐったそうな笑みを浮かべている。
その笑顔に引き寄せられ、また唇を寄せた。啄むようなキスを繰り返す。こんな風に睦合うのは久しぶりだ。
ルルーシュは次第にスザクとのキスに酔っていた。
何度も繰り返す接吻は、だんだんと唇を離すタイミングが遅くなり、ついにはスザクが空気を求めて開けた隙間から侵入し、口内を弄び始める。
「う……ふっ……うん………」
スザクの口から漏れる声が、さらにルルーシュを煽る。
歯列をなぞり口内の温もりを堪能する。アルコールのせいか、普段より幾分温かい。奥に隠れているのを見つけ出し絡め取ったそのとき……
「あっ………」
突き飛ばされ尻餅をついた姿勢で、ルルーシュは自分の行動が愚かであったと舌打ちする。
目の前に、体を起こし怯えた目で震えるスザクの姿があった。

「あ……ぼ…僕………」
ガチガチと歯の根が合わない……目の前には、ルルーシュが尻餅をついた姿勢で顔をしかめている。
夢うつつで憶えている、ルルーシュの優しい啄むようなバードキス。それが嬉しくて何度も強請った。
だが、いつしかそれは長く深いものになり、スザクは嬉しさから徐々に恐れを感じていた。
押さえつけるような強引な口つけ、息継ぎをしようと開けたところから侵入され口内を蠢くこれは……誰!?
ルルーシュ?ルルーシュなの!?
困惑しているうちに侵入者に絡めとられ、スザクの恐怖心はピークに達した。過去の生々しい記憶が蘇り、必死になって自分に覆い被さってきているものを突き飛ばす。
そう。自分にとって嫌悪するものを排除したのだ……それが……
「ル……ルルーシュ……ご…ごめ………」
謝罪の言葉を告げようと口を動かすが、舌がうまく回らない。
謝らなくてはと焦る気持ちとは別に、何故という疑問が頭の中に渦巻いた。
あの強引なキスは本当にルルーシュのものだったのだろうか……ルルーシュはいつもこんな事をする人だったろうか……
ああ…どうしよう……どうしよう。思いだせない……思いだせないよ。ルルーシュ!
残っているアルコールのせいか、パニック状態が酷くなって行く。感情の高ぶりが押さえられない。涙が溢れてくるのを止められない。
「ルルーシュ……ごめん……ルルーシュを拒絶したんじゃないんだ……ルルーシュ…ごめん……どうしよう……ごめん…ごめん……」
涙の向こうのにじんだ世界で辛そうな表情で自分を見るルルーシュに耐えきれず、彼に背を向け膝を抱えて泣き出してしまった。
声を殺して泣き続けるスザクを、背中から心地よい温もりが包む。
「済まない、スザク。俺が調子に乗ったからだ……お前が謝る事じゃない。俺が悪かった。」
「ル…ルルーシュ。」
顔を上げ後ろを振り返る。大好きな紫紺が愁を含んだ光で自分を見つめていた。
「違う……僕が悪いんだ。ルルーシュが解らないなんて……ルルーシュのキスが思いだせないなんて………」
ルルーシュは、涙ながらに訴えるスザクを自分の方に向けさせ、抱きしめた。
「眠っていて意識のないお前にあんな事したんだ。恐怖心を持って当然だ。お前が悪い事なんかない。」
「ううん。どんな状況だってルルーシュを怖がるなんて……思いだせなくなったんだ……ルルーシュのキスがどんなだったか……」
「スザク……」
「分からなくなるなんて……ルルーシュの事……」
ルルーシュの胸に顔を埋めて泣き出すスザクの髪を、ルルーシュの手が撫でる。
「思いだせなくなったのなら、また教えてやる。だから泣くな。」
顔を上げ見つめるスザクの瞳の涙を吸う。
「……もう一度……教えてくれる……?」
「……いいのか……?」
「うん。もう一度して…?しっかり憶えるから。」
「ああ…もう忘れたりするなよ。」
紫紺が優しく細められ、ゆっくりと近づいて来る。瞳が閉じられ唇に柔らかな感触があった。
ルルーシュの長いまつげが揺れている……スザクは、目を開けたまま口内にルルーシュを招き入れた。
全て瞳に…頭に…体に刻み込むように……
ルルーシュの温かな舌が口内をゆっくりと優しくなぞって行く。
「ふ…う…ん………」
優しい愛撫にとろける。スザクはルルーシュに委ねると瞳を閉じた。
ルルーシュとの長い長い口づけは、涙の味がした。

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