夕食の席に現れたルルーシュとスザクの姿に、神楽耶は嬉しそうに目を細める。
「神楽耶様。ご招待ありがとうございます。」
「浴衣もありがとう。あつらえてくれたの?」
藍染めのそろいの浴衣は、2人にぴったりと合っている。
「ええ。お2人ともよくお似合いですわ。
紬もいくつか仕立てさせていますの。良かったら、そちらもお召しになって。」
「なんだか、いろいろと申し訳ないな。」
ルルーシュが眉を下げると、神楽耶はニコニコと首を振る。
「私が好きでしている事ですから、気になさらないで下さい。」
そう言って、2人を自分の前に座るよう勧める。
2人が、用意された座布団に撓ると食事の膳が運ばれてきた。
「わあ。すごいな、鮎だ。」
スザクは、膳の上の料理に歓喜する。
「こういう料理を見ると、日本に帰ってきたと思うでしょう。」
「うん。」
懐かしそうに膳の上の料理を眺めるスザクを、ルルーシュは目を細めて見守る。
「ルルーシュ様もどうぞ。お箸で大丈夫ですか?」
「ええ。問題ないです。」
そう答えて、箸で器用に冷や奴をつまんでみせる。
「冷酒もご用意しましたのよ。お2人ともいける口でしょ?」
「ルルーシュは強いけれどね……」
「スザクは、付き合い程度だろ。」
「神楽耶は……なんかザルっぽいよね。」
「まあ、失礼ね。私だって、お酒頂けば酔いますのよ。
蔵元から、名酒の大吟醸を取り寄せましたの。まろやかで飲みやすいお酒ですわ。」
そう言って2人に勧める。神楽耶には、ルルーシュが酌をした。
膳の上の料理を一通り口にしたのを見計らって、神楽真耶は座敷の奥側、坪庭に面した障子を開けさせた。
その庭には滝に見立てた水が流れ、小さな小川が出来ている。里山を模した小さな庭に、ふわふわと小さな光が舞っていた。
「ホタル……」
「今日は月が出ていないので光がはっきり見えますでしょう。」
座敷の灯りも落とすと、淡い光が明瞭となり、ふわりふわりと室内まで漂って来る。
「綺麗だなあ。……そこの川で飼っているの?」
「ええ。地下水をくみ上げて、幼虫から育てています。
中にはここで繁殖したものもいるはずですわ。自然に任せておりますから。」
「素晴らしいですね。これだけ多いと、人工の灯りがいらないくらいだ。」
「星の中で食事しているみたいだね。」
膳の上にとまったホタルに指を近づけると、またふわりと舞い上がる。
幻想的な空間を楽しみながら、食事と名酒に舌鼓を打っていたが、やがてスザクの体がゆらりゆらりとして来る。
「どうした……酔ったのか?」
「うん…大分気持ちよくなってきっちゃった……」
頬を上気させてトロンとした目で笑うスザクに、ルルーシュも優しい笑みを向ける 。
「寄りかかっていいぞ。」
「うん……」
ルルーシュの肩にしだれかかるように頭を預けるスザクに、神楽耶は目を細めた。
「意外とだらしないですわね。まだ、お銚子1本くらいしか飲んでいないじゃないですか。スザク。」
そう言う彼女の横には、2合徳利が何本も乗った膳が置かれており、その半分は空いているようだ。
「だから…僕は君みたいなうわばみじゃないから、人並みの量で酔っぱらうんだってば……!」
「まあ。人の事を道具にしたり大蛇にしたり……本当に口の悪い。
こんな人が5年も世界の英雄をしていたなんて、信じられませんわ。」
「信じるも信じないも、事実だろう。」
ろれつの回らない口で言い合う、いとこ同士を、ルルーシュは面白そうに眺めていた。
「もう、下戸には用はありません。ルルーシュ様。2人で楽しく頂きましょう。」
にっこり笑った神楽耶が、空いたばかりのルルーシュの猪口に新しい酒を注ぐ。
確かに大酒飲みだが、神楽耶もかなり酔っているようだ。
ニコニコと機嫌良くしている顔は、大分赤くなってきている。
「ありがとうございます。折角のおいしい酒ですので、ゆっくり楽しみましょう。」
そう言って、酒の肴に用意された揚げ物を勧める。
そのうち、肩に寄りかかっているスザクが静かになったと思うと、頭がずり落ち、ルルーシュの膝の上に落ちてきた。
スザクは完全に体制が崩れ、もぞもぞと足を投げ出すと、手の中の猪口を畳に落とし、ルルーシュの膝枕で寝息を立て始めた。
「まあ。完全に潰れてしまいましたわね。
この人、酔うといつもこうなのですか?」
「はい。酔うと、所構わず寝てしまうのです。
椅子とかソファならまだいいのですが、床に転がったり、バスルームやトイレで寝てしまう事もあって……」
「まあ。」
神楽耶が思わず吹き出す。
「こんなものですから、外に飲みにいくなんて殆どしませんね。」
ルルーシュの話に、楽しそうにくすくす笑う。
「2人をお招きして本当に良かった。こんな可愛らしいスザクを見られるなんて役得というものです。
ルルーシュ様の酔いつぶれたところも見てみたいものですわね。」
目を細める神楽耶に苦笑する。
「それはまた別の機会に……そろそろお開きにしましょう。」
ルルーシュの提案に肩をすくめる。
「そうですわね。この人をこのまま寝かせていると風邪を引かせそうですもの。京都の夜は冷えますのよ。」
「そうですか。」
「盆地ですから、昼夜の寒暖の差が大きいのです。
もっと暑くなって来ると、夜も過ごしやすいでしょうが今時分はまだ冷えますからお気をつけ下さいね。」
「ありがとうございます。療養に来た先で風邪をひいては、本末転倒ですね。」
そう言いながら、ルルーシュはスザクを抱え上げる。
「う…ん……」
小さく息を漏らしてルルーシュの胸にすり寄るスザクに、神楽耶の頬がまた緩んだ。
「安心しきった顔をして……ルルーシュ様、生きていて下さって本当にありがとうございます。
ゼロをしていた頃のスザクは、生き急いでいるようにしか見えなくて……だから、こんなにも早く、世界が安定したのですけれど……側で見ていて辛かったですわ。
もっとゆっくり……と言えない自分が情けなかったです。」
「私も貴女にそう言って頂けてほっとしました。
スザクのために生きる事を許されたようで……」
「スザクのためだなんて……どうか、ルルーシュ様の思う通りに生きて下さいませ。スザクと一緒に……」
「はい。ありがとうございます。」
かつての英雄とその妻であった女性は、顔を見合わせ微笑んだ。
Honey moon - 4/19
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