Lonely soul  - 7/22

リビングの掃除をしていたルルーシュは、食料を買い出しに行った2人が思ったより早く帰って来た事に驚いて手を止めた。
「早かったな。」
「うん。ごめん。ピザの材料しか買えなかった……後で、足りないものを買いに行くよ。」
俯いたまま、目を合わせないように話すスザクに、怪訝な表情を浮かべる。
「あ…ああ。それは構わないが……」
それだけ伝えると、スザクは黙って2階へと上がって行ってしまう。
「お、おいっ。スザク?」
階段の下から呼びかけるルルーシュに答える事無く、自室に入ってしまった。
「………なにがあった。」
じろりと睨みつけるルルーシュに、C.C.は肩をすくめた。

自室に戻ったスザクは、倒れ込むようにベッドに突っ伏した。
ナイトオブゼロ……ルルーシュとの契約の元に与えられた称号……5年前、自分の名と共に埋葬したはずの称号を再び耳にするとは思わなかった。
スザクがナイトオブゼロとして全世界に顔をさらした機会は多くない。だから、自分の顔を覚えている人間がいたとは正直驚きだった。
悪逆皇帝とその唯一の騎士。人類全ての恨みと憎しみを自分たちに集め、その2人が正義によって滅ぼされる事で生きる希望に替える……
5年前、2人で最善と思ってした事が稚拙な事だったのだと思い知らされた。
人の心は、そんな簡単な事で切り替えたりできない……
ゼロにユーフェミアを殺された衝撃と、その後の激しい憎しみは、実は今も心のどこかでくすぶり続けている。
ルルーシュを愛する心の片隅にある、ゼロを許せないと思う気持ちは消せない。
自分でさえこうなのだから、何も知らされずにただ巻き込まれただけの大多数の人々は。今もきっと整理のつかない気持ちを抱えて生きているはずだ。
あの時、あんなに激しく否定し、拒絶するように立ち去るべきではなかった……あの青年の心を傷つける事になってしまったのではないか……
自責の念が、家に近づくにつれて大きくなっていた。
そして…ルルーシュの顔を見た時に、それは堰を切ったようにスザクを襲っていた。
ルルーシュの顔が見れない……口を開けば酷い言葉を投げかけそうで怖かった。
「スザク?」
控えめなノックとともに、ルルーシュの耳障りのいい声が届いた。
返事をしないままでいると
「入るぞ。」
と、声をかけてルルーシュが入って来る。
「C.C.から聞いた。ナイトオブゼロかと言われたそうだな。」
ルルーシュは、ベッドに腰掛けるとそう話しかけて来た。
スザクは無言のまま頷くと、彼の腰にすがりついた。
ルルーシュはそんなスザクの頭に手をやり、そっと髪を撫でてくる。
気持ちいい………
ああ……やっぱりルルーシュが好きだ………
力を抜いて体を彼に預けると、ルルーシュはフッと微笑んだ。
「なあ……スザク。もう隠れ住むのは止めないか?」
「え……っ。」
突然の申し出に、スザクは言葉を失った。
「2人で生活するようになってから考えていたんだ。
このまま亡霊のようにひっそりと生きていくのか。
新たに人生をやり直すのか………」
「やり直すって……そんな事が許されるはずがないじゃないか。」
「何故?」
スザクの反論に、ルルーシュは静かな表情で問いかける。
「今日、ナイトオブゼロかと問われて解ったんだ。
全ての人間が、みんな過去を乗り越えられている訳じゃない……て。
そんな人達をそのままにして、どうして新しい人生なんて……」
「そうやって、これから先もずっと人目を避けて生きて行くつもりなのか?」
「僕は、その覚悟はできている。」
「本当に……?俺が、ここを出て行くと言っても?」
「ルルーシュ!?」
困惑の表情で見つめてくるスザクに、ルルーシュは嘘だよと小さく笑った。
「ルルーシュ、酷いよ。どうして急にそんな事……」
起き上がって文句を言うスザクを、ルルーシュは相変わらず静かに見つめ返してくる。
「急じゃない。ずっと考えていた事だ。ゼロレクイエムを実行する前から……」
その告白に息を呑む。
「ゼロレクイエムが成功し、世界が平和と安定を取り戻せばゼロの役割は無くなる……その頃には、人々の記憶から唯一皇帝の騎士の事など薄れてしまっているだろう。
そうすれば、スザクは仮面を外し別の人生を歩む事ができる。
そのときのフォローをC.C.とロイド達に頼でいた
まさか、そこに俺が存在するとは思わなかったがな。」
苦笑するルルーシュを、スザクは茫然と見つめていた。
自分の事をそこまで考えてくれていたとは思わなかった。
スザク本人は、死ぬまでゼロをやり遂げるつもりだったからだ。
「───ゼロがいらなくなる日が、僕の生きているうちに来ると信じていたの?」
「当たり前だ。俺の計算に間違えがなければな。」
おどけて言う彼に、スザクの顔もほころぶ。
「今のこの世界は、ルルーシュの計算通り?」
「むしろ、計算よりも早く成果が上がっている。
お前や、超合集国が頑張って来た証拠だな。」
その賛辞を、素直に嬉しいと思う。
「確かに、スザクの言う通り全ての者が過去から立ち直れた訳ではない。だが、着実に世界は良い方向に前進している。」
「そうだよ。だから……」
「全ての人類が笑顔を迎えるまでは……なんて、独り善がりなことを言う気か?」
「独り善がり……だなんて……」
「まだ、自分の事が許せないのか?
自分の事が好きになれない?」
「ルルーシュ。」
「俺は、お前の事が好きだよ。
そのかたくななところも、自分にやたら厳しいところも、独善的で思い込みの激しいところも……」
「僕の悪いところばかりだ………」
「……寂しがりやで涙もろくて、他人に優し過ぎてすぐ尽くそうとしてしまうところも……丸ごと全て愛している。」
ルルーシュは、スザクをそっと抱き寄せた。
潤んだ光で自分を見つめる翡翠に、優しく微笑み唇を寄せる。
「俺は、お前とユフィに取り返しのつかない事をしてしまった。
だが、そんな俺の側にお前は今もいてくれるじゃないか。
同じだよ。他の皆も……皆、何かしらの傷を抱えている。
それでも、明日を迎え生きて行く強さも持っている。」
ルルーシュもスザクもそれを信じて、ゼロレクイエムを敢行したのだ。
「明日を生きる人間の中に、俺たちが加わってもいいんじゃないのか。」
「ルルーシュ。」
「一緒に生きよう。皆とともに……」
腕の中で、スザクは小さく頷いた。

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