Lonely soul  - 6/22

ネオウエルズ郊外。田園風景の広がるその地域にある小さな町。
首都へ大きな街道で繋がるその町は、かつては宿場町として栄えていた事もあり、のどかだがそれなりの賑わいがある。
その街にある商店の1つから、一組の男女が出て来た。
チーズなど加工食品を扱う店から出て来た2人は、両手に紙袋を抱えている。
「毎度どうも。」
店主の陽気な声に送り出されたスザクは、チーズの入った袋にご満悦のC.C.に話しかける。
「ピザの材料はこれでいいね。次の店に行くよ。」
「私は、必要なものは買ったぞ。他に何を買うんだ。」
「あのねぇ……君と違って僕とルルーシュはピザだけじゃ栄養補給できないの。他に、肉とか野菜とか魚とか買わないと……調味料だって頼まれているんだから。」
「まだ、そんなに買うのか。」
「C.C.………」
早く帰りたいと言わんばかりの彼女に、スザクは前から歩いてくる人物に気がつくのがわずかに遅れた。
「あっ。」
「し…失礼。」
男が肩からかついていたサックが当たり、かけていた色の薄いサングラスが外れて地面に落ち、小さな音を立てた。
「申し訳ない。怪我は?」
落ちたものを拾うために屈んだのを勘違いしたその男が謝ってくるのに、体を起こして答える。
「いいえ。グラスが落ちただけで怪我はないです。」
笑顔を浮かべるスザクを、相手の男は息を呑んで凝視している。
その様子にただならぬもの感じサングラスをかけようとするが、それよりも早く腕を掴まれてしまう。
「あ…あの?」
男の突然の行動に、今度はスザクが相手を見つめる。
睨みつけるような事はしないが、警戒心を隠さずにいた。
男は、スザクより頭1つ分は背が高い。見下ろされる位置にいるのは、それだけでも気分が悪い。
相手は、そんなスザクの心情に気がつく様子も無く、驚いたようにスザクを見つめ続けている。
銀色の長めの髪のその男の瞳の色は、ルルーシュによく似た暗紫で、不躾な人物が、彼と同じパーツを持っている事に嫌悪感が募る。
「なにか?」
語気を強めて声を出せば、やっと相手も我に帰った。
「あ…ああ。」
「用がないなら手を離してくれないか。連れを待たせているんだ。」
そう言って、側のC.C.に視線を送る。
男は、やっとスザクから手を離すと、C.C.を見た。
「君の奥方か?」
「あ…ああ。それが何か……」
「いや。どこかで見た事のある美人だと思ってな……」
「───褒め言葉と、とっておくが……初対面の男にそんなことを言われると、正直不愉快だな。」
そう言い捨ててC.C.の手をとって足を進めるスザクに、男が背後から声をかけてくる。
「ナイトオブゼロか?」
その名に、スザクの足が止まった。
「ス…スザク……」
何年ぶりかで投げつけられた名前に、戦慄する。一気に血の気が引いた。
「な…何を馬鹿な事をっ。人違いにも程があるぞっ!」
スザクの代わりに、C.C.がその男を怒鳴りつけた。
「違うのか。」
「当たり前だ。人の連れ合いを、悪逆皇帝の騎士と一緒にするな。」
2人のやり取りを、行き交う人々が足を止めて見物し始めた。
「何の騒ぎだ。」
「さあ。なんでも悪逆皇帝の騎士がどうとか……」
野次馬が集まりつつあった。
スザクは、C,C,と男の間に割って入った。
「よく間違われて迷惑している。往来でそんな名前で呼ばないでくれ。第一その男は5年前に死んだろう。」
「皇帝が、仰々しい墓碑銘の墓まで作ってやっているのだからな。」
「だが、生きていれば君と同じ年頃じゃないのか。その髪も瞳の色も彼の騎士に似すぎている。」
「だから迷惑しているんだ。人前でサングラスが取れない。」
「ああ。そう言えばよく似ているな。」
彼らを取り囲んでいる野次馬からもそんな声が上がり、スザクは舌打ちした。
「行こう。」
C.C.の手を取り踵を返す。
「君は本当に枢木スザクではないのか?」
男がなおも問いかけてくる。たまりかねて、スザクもついに声を荒げた。
「くどいっ!僕の名前はヴァーミリオン・スパロウ。
れっきとしたブリタニア人だ。ナンバーズ上がりの裏切りの騎士では断じて無い!」
スザクの剣幕に、男もついに肩をすくめ謝罪した。
「それは、たびたび申し訳なかった。」
それには答えず、スザクはC.C.を連れ、足早にその場を去った。
結局、人々の好奇の目にさらされたまま買い物を続ける訳にも行かず、2人はその町を出て行かざるを得なかった。

1

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です