「お父様!」
少女が父親に駆け寄り、その胸にすがりつく。
父親は、愛しい娘をその力の限り抱きしめた。
「マリエル……! お前まで巻き込まれるとは………」
「済まない。我々の不手際だ。」
コーネリアに頭を下げられ、エリア6総督マルコ・フェルナンデスは恐縮して首を振る。
「娘もこうして無事なのです。むしろお役に立て光栄です。」
皇女と父親の会話から、この騒動が仕組まれた事であると察したマリエルが説明を求めた。
「今回のテロの黒幕をあぶり出すために、このパーティーを催したのだよ。」
「首謀者と思われる人物が殺されてしまったからな。
スザクの首に賞金をかけてまで狙っていたものを、ここで諦めるはずがないと思ってな。
ならば、狙いやすい場所をお膳立てしてやる事にしたのだ。
まさか、スザクをマリエルを使っておびき出させるとまでは考えが及ばなかった。怖い想いをさせて申し訳なかった。」
重ねて謝るコーネリアに、少女は何度も首を振る。
「僕が、1人になっておびき出すつもりだったんだ。本当にごめんね。」
「宰相閣下のご提案で、スザク様ご本人の強いご要望でもあったからな。まさか、私の命まで狙われていたとは……不覚であった。」
「総督。マリエル嬢はとても勇敢で聡明な方です。おかげで命拾いしました。」
「スザク殿下……」
スザクの言葉に、少女は恥ずかしそうに頬を染める。
「マリエル。あの時髪飾りを渡してくれてありがとう。
でも、折角の細工が台無しになってしまって………」
少女は、手の中の飾りを見て表情を曇らせる。
美しい細工は所々壊れ、飾りの石もいくつか無くなってしまっている。
だが、顔を上げ気丈に笑顔を見せた。
「いいえ。修理すれば元通りに出来ます。これが殿下のお命を救ったのなら、“名誉の負傷”でございましょう。
「よくぞ申した。マリエル。」
総督は、愛娘を抱きしめて褒めた。
「では、せめてその修理をさせて欲しい。」
スザクの申し出に、コーネリアも頷く。
「そうだな。最高の細工職人に直させよう。」
「そんな。恐れ多い……」
「そうさせて。“命の恩人”をそのままにしておけないよ。」
恐縮しきりのマリエルから髪飾りを受け取ると、にこりと微笑む。
「フェルナンデス伯爵。この美しい庭園を血で汚す事になってしまい、申し訳ありません。
まさか、彼がここまで覚悟していたとは………」
「ブロイエン子爵にとっても、ギリギリの選択だったのでしょう。
自分1人が責めを負えば、父親のバロウズ侯爵にもその上の方にも迷惑がかからないと考えたのでしょうな。」
「愚かな事を……だが、これでブロイエン子爵1人の謀と処理せざるを得ないだろう。」
コーネリアがため息をつく。
「誰の差し金か、分かりきっているのに……!」
悔しげに唇を噛むスザクの肩を、慰めるようにコーネリアが叩く。
「ともかく、テロを制圧し、首謀者をとらえるという当初の目的は果たせたのだ。堂々と帰国すれば良い。」
「はい……」
彼らが話している、パーティー会場となったホールの窓の外では、服毒自殺した男の遺体が、シートに覆われた状態で運ばれて行く。
それを見ながら、スザクは釈然としない想いを抱えて呟いた。
「───こんな事で命を断つなんて……馬鹿だ…………」
運び出される男を睨みつけるように見送り、スザクは目を伏せた。
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