エリア6ブリタニア政庁。庁内に設けられているパーティー会場に現れた2人の皇族に、その場にいる全ての者が恭しく頭を下げる。
「コーネリア殿下。この度は、私どもが至らぬばかりにご出征頂く事になり、誠に申し訳ございません。
殿下の電光石火のごとき作戦により、占拠されていた鉱山を取り戻し、テログループを壊滅に追い込めた事は感謝に堪えません。」
膝をついて礼を述べるフェルナンデス総督に、コーネリアが頷く。
「本日は、ささやかながら心ばかりの御礼の宴を設けさせて頂きました。皆様、どうかごゆるりとお楽しみ下さい。」
皇族の他上級士官を招いたパーティーである。エリアの有力貴族も出席し、“ささやか”という単語が当てはまらない華やかな宴が催されていた。
スザクの騎士候補として出席を許されているジノであったが、会場内の注目の的になっている。
名門ヴァインベルグ家の嫡子で皇族の騎士の座が約束されているとなれば、植民エリアにくすぶっている貴族が色めき立つのも当然で、年頃の娘を連れた貴族が入れ替わり立ち替わり声をかけて来る。
ジノもこういう席には慣れたもので、上手にあしらい見目麗しい娘とはダンスに興じていた。
そんな彼に、スザクもコーネリアも苦笑する。
「全く。あれで、どうやってお前の警護をするというのだ?
主の側を離れて遊び回る騎士など聞いた事がないぞ。」
「僕と彼はまだ主従の間柄ではありませんから……それに、注目を集めてくれているおかげで、僕も煩わしい思いをせずにすんで助かっています。」
スザクの答えに、コーネリアは自分の騎士であるギルフォードをちらりと見ると肩をすくめ、主の様子に彼も苦笑する。
「そんなことを言っている訳にもいかなくなったな。お前に用があるようだぞ。」
そう言うコーネリアの視線の先には、ピンクの愛らしいドレスを纏ったハニーブロンドの巻き毛の少女が、その澄んだ青い瞳を瞬きもせず真直ぐスザク目指して歩いて来る。
その必死の形相にスザクは顔を引きつらせ、コーネリアは含み笑いでその場を離れて行った。
「お久しぶりでございます。スザク殿下。」
「久しぶり、マリエル。一昨年のクリスマス以来かな。
すっかり綺麗になって……見違えたよ。」
「ありがとうございます。私も15歳になりました。
正式に社交デビューしましたのよ。」
「では、レディ。僕と1曲いかがですか。」
「ええ、喜んで。」
スザクが手を差し出せば、総督の娘マリエル・フェルナンデスはやっと表情を和らげ、自分の手を添えた。
手を取り合ってダンスの輪の中に入る。
曲はポルカからワルツに変わった。
少女の腰に手を添え、密着するようにくるりくるりと踊る。
「マリエル。ダンス上手だね。」
そう褒めると、恥ずかしそうに頬を染める。
「殿下のリードがお上手だから……」
その後何か言いたげに口を開くものの、閉じてはまた必死の形相で見つめてくる少女に、耳元で囁くように尋ねる。
「僕に何か言いたい事があるんでしょ?」
「あ……あの……」
「秘密の話?」
スザクの誘導に少女はほっとした顔を浮かべて、小さく頷く。
「私……殿下に折り入ってお話が……庭園で……2人きりになれますか。」
「2人きり……社交デビューしたばかりなのに、大胆だね、」
スザクの言葉に、少女はさらに顔を赤くする。
「意地の悪い事仰らないで……他の者に聞かれたくないのです。」
「ごめん。レディに恥をかかせるわけにはいかないね。
じゃあ。この曲が終わったら抜け出そうか。」
スザクの誘いに少女はびくりとして顔を上げると、小さく息を呑み頷いた。
「ほ……本当に殿下お1人で……ヴァイベルグ卿は………」
「ジノ?彼は彼でずいぶん楽しんでいるようだから、そのままにしておくよ。」
スザクの言葉を受けてマリエルがジノを探せば、自分たちの向かい側の踊りの輪の中で、楽しそうにダンスに興じている。
自分たちのグループとジノ達のグループの輪がすれ違う時、ジノがこちらを見て笑ったような気がして、マリエルはどきりとした。
曲が鳴り止む。
スザクとマリエルは挨拶を交わすとそのまま輪を離れ、庭に続くテラスから外へ出て行った。
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