共に煌めく青玉の【騎士ー1】※R18 - 11/11

薄暗くがらんとした部屋に引きずり込まれ、そこにあった長椅子に放り投げられると上から伸しかかれ唇を塞がれた。
何度も口内を犯されたため、舌は痺れ唇はヒリヒリと痛む。
ジノに抱きすくめられたバラ園からさほど離れていない庭の外れ、回廊からは死角に当たる小屋に引きずられるように連れて来られた。
庭園の手入れをする庭番の作業小屋兼待機場所なのだろう。湿った土の臭いが室内に籠っている。
大声で助けを呼ぶ訳にもいかず、ジノの言いなりだ。
だが、スザクはこんな無体を強いられても、ジノに対し怒りも恐怖も感じてはいなかった。自分の感情に任せて劣情を押し付ける友を、何とか冷静にしたいと考えていた。
「ジノ、落ち着いて……話をっ………」
何か話そうとするとすぐにキスで声を奪われる。
引き離そうとする手は、容易く捕らえられ、頭上でひとくくりに大きな手で押さえつけられた。
年齢は1歳上だが、ジノとスザクでは大人と子供ほどの対格差がある。軍で一緒の時には頼もしいそれが、今はとても恨めしい。
ジノはキスでスザクの口を塞ぎながら、空いた手で彼の衣服を乱し始めた。
首から外したネクタイで手首を拘束すると、シャツのボタンを外しだす。
「ジノっ!」
たまらず、スザクが悲鳴を上げた。
露になった首筋に吸い付く。吸われた場所がチリッと痛んだ。
「つっ………」
思わず漏れた声に、ジノの目が細められる。
「ジノ…待って……やめっ………」
制止の声はまたしてもジノに奪われた。
スザクから拒絶の言葉が出されるのが怖かった。だから、何か言おうとする度、夢中で口を塞ぐのだ。
乱したシャツに手を差し入れ胸をまさぐる。何度も夢に見たスザクの素肌の感触を楽しみながら、指先で胸の突起を弄び始めた。
押しつぶしたり転がしているうちに、それは徐々に硬さを持ってくる。
「ふっ……う……んんっ……」
スザクが眉根を寄せて声を漏らす様に、ジノの瞳は欲に染まって行く。ツンと上を向いたそれをつねった。
途端、スザクの背が大きく跳ね、首を左右に振って逃れようともがく。その肩をつかんで抑え込むと、耳元で囁いた。
「スザク……」
「ひゃっ……」
悲鳴を上げ体を震わせるのに、ジノの目がますます細められる。
「ここがイイのか……?」
耳の後ろを舐めれば、体を強ばらせる。
「やっ……ジ…ジノ……やっあっ……ああっ。」
胸の尖りを刺激すれば、声をあげた。
スザクは自分があげた声に驚いた様子で、目を見開くと次には羞恥で頬を染める。
スザクの戸惑いは、ジノの劣情をさらに駆り立てた。
「スザク……もっと…もっと声を聞かせて………」
「だっ駄目だ……こ…こんなところ……誰かに………」
聞かれたり見られたりしたら………!
ナンバーズ出の皇子が手篭めにされようが、皇室はびくともしないだろうが、仮にも皇族に手を出したジノは只では済まされない。
ジノひとりの事で処断されれば御の字で、下手をすれば例え侯爵家であっても爵位剥奪という事にもなりかねない。
スザクは、ジノが与える快楽に漏れそうになる声を必死に堪えた。
欲情を吐き出す事に夢中のジノは、スザクの思いに気がつかない。
すっかりはだけさせたシャツの下から現れた、陽にさらされる事のない少し黄みがかった白い肌に息を呑む。
小さな明かり取りの窓から射し込む陽光に、少し汗ばんだ素肌が輝いて見える。首筋につけた自分の刻印が、艶かしさを強調し欲を誘った。
誘われるまま胸に顔を寄せ、小さな突起を口に含み転がした。
スザクが背をのけぞらせて反応するのを悦び、片方も指で愛撫する。
「う……うう…んっ……」
スザクが嬌声をあげたのは一度きり。ジノがどんなに愛撫を重ねようと、彼が望む甘い声は聞かさなかった。
ギュッと目を閉じ、口を結んで耐えている。もう、どこを触れても反応するほど熱を持った体でも、快楽に身を任せようとはしなかった。
生理的な涙がまつげを濡らし、口を閉じてじっと耐えている姿は痛々しくもある。
「スザク…声を出せばいいのに……そうすればずっと楽になるだろう。」
呼びかけに首を振るスザクの腰に手をやる。スザクが驚愕に目をむいた。
「ここも熱を持って来ている……楽にしてやるよ。」
布越しに触れられ、スザクは大きく跳ねた。
膝を割り中に入ると、前を寛がせ、緩く立ち上がっている熱を取り出してみせる。
「スザクの……キレイだな……形も……かわいい……」
クスリと笑うジノに、スザクの顔がカッと赤くなる。が、ジノの次の行動を予想し、初めて恐怖の色が現れた。
「や……やだっ……ジノ……やめて……っ。」
訴えるスザクに構わず、ジノはその指の腹を使って優しく撫で上げる。
「ふぁっ……んん……っ。ハァッ……ん。」
必死に耐えるスザクの漏らす音にも艶が出て来た。
ジノの興奮は一気に高まり、スザクの全てを暴きだそうとついに彼のズボンをに手をかける。その瞬間、スザクが身をよじった。
ジノの脇腹を激しい衝撃と痛みが襲い、もんどりうって椅子から転げ落ちた。
痛みに耐えて立ち上がれば、いつの間に拘束を解いたのか、体を起こしたスザクが服の前を掻き合わせている。
その手は、小刻みに震えていた。
ジノは、水をかぶったように一気に興奮が冷め、自分の行為に青ざめた。
「あっ………」
「少しは頭が冷えたか?」
涙が浮かぶ瞳で見据えられ、目をそらす。
先ほどまで喘ぎ声を殺していたとは思えぬ静かだが低い声に、スザクの怒りのほどが伺える。ジノは、何も言えずにいた。
乱された軍服を直しながら、スザクは言葉を続ける。
「2人一緒に出て行って、誰かに見られては困る。
ジノが先に行ってくれ。」
「だが……スザクをひとりに……」
「……僕は……まだ、ここから出られない………」
赤い顔で俯くスザクに、ジノは顔をしかめた。
「すまない。だが、私は……」
「大丈夫だから……」
「でも……」
うろたえるジノに、スザクが一喝した。
「俺の事は放っておいていいから、ジノは早く帰れっ!」
ビクンと肩を振るわせ、ジノは逃げ出すように小屋から出て行った。
耳をそばだて、ジノの走り去る足音以外聞こえない事に安堵する。
火照った体を持て余しながら、スザクは毒づいた。
「何をやっていたんだ……僕は……!」
ジノが騎士にこだわる理由を深く考えなかった。
まさか、彼が自分に恋情を抱いていたとは……気がつかなかった…いや、薄々とは分かっていたかもしれない。
自分に近づくものにジノが向けるあの暗い瞳……その意味が分からず見過ごしていた。
そこまで思い詰めていた彼に、自分は何を言った?
彼の気持ちも考えず、その方がジノのためだと騎士叙任の撤回など……
酷い事をした……あんな風に突き放すべきではなかったかもしれない。だが、スザクも一杯一杯だったのだ。
全てを明け渡す訳にもいかず、落ち着かせて宥める事も出来なかった。
スザクは大きくため息をついた。
不思議だ……あんな事をされても自分は彼への呵責の念に捕われている。怒りも嫌悪感も湧かない。
そもそも、男に触れられて悦んでいる自分に驚いていた。
「男色…の気はないんだけどな……ジノもそうだと思っていたんだけど……」
子供の頃見初めたと言っていた……という事は、真性なのだろうか。
「何を馬鹿な……」
自分の考えを否定し、自嘲する。
ただ、はっきりしているのは、こんな事をされても彼を嫌いになる事はないという事だ。そうは言っても……
「……どうしよう……」
ジノとこれからどう接したらいいのか。困惑するばかりだ。

胸ポケットの携帯端末がコール音を発した。
通話ボタンを押せば、耳慣れたSPの声が聞こえてくる。
ジノだったら……と、身構えていたスザクは、ほっと息を漏らした。
『殿下?』
「ああ、すまない。大分時間を過ぎてしまっていたな。」
軍司令部前の車寄せに待機させている彼らに伝えた帰車時刻を大幅に過ぎている。
『何か問題でも。』
「いいや。友人と話し込んでいて時間を忘れていた。心配かけて悪かった。」
「いいえ。今からお迎えに参りましょうか。」
「大丈夫だ。いつもの場所にいるから、すぐそちらに戻る。」
『イエス ユア ハイネス。』
通信を切って、また息を吐く。
考えていても仕方ない。ジノによって煽られた熱は大分静まった。
けだるい体を叱咤して椅子から立ち上がる。
忘れ物をしないように辺りを探っていて、マリエルの髪飾りの包みがない事に顔をしかめる。
きっと、バラ園のベンチの上だ。誰かに見つかっていなければ良いが……誰かの手に渡ると後が厄介だ。
「全く……ジノの奴。」
今度会ったら横面をぶん殴って終わりにしよう。
喧嘩の後は、いつもこれでチャラになった。
そう簡単にいけばいいが……と、嘆息しながら小屋を出るのだった。

 

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