共に煌めく青玉の【騎士ー1】※R18 - 10/11

「そう言えば、ジノは宮廷に何か用があったんじゃないの?」
司令部からここまではずいぶん距離がある。スザクの問いにジノは首を振った。
「いや。用がすんだら早く帰って来いと言われると、かえって帰りたくなくなって……時間つぶしだ。」
「そうか。お父上はまだ……」
「あの人はオデュッセウス様のシンパだから。私が第一皇子殿下の下にいないのが気に入らないだけだ。
息子が他に3人もいるのだから、私ひとりくらい自由にさせてもらってもいいと思うんだがな。」
「なあ…ジノ。叙任の事なんだが……」
「いつでもいいぞ。なんなら今すぐこの場でも。」
言葉を遮るジノに、スザクは眉根を寄せる。
「撤回させてもらってもいいだろうか。」
「なん……だって?」
弾かれたように背もたれから体を起こし、スザクを見る。
大好きなエメラルドグリーンの瞳が寂しげな…でも、強い意志を宿した光で輝いていた。
「ヴァインベルグ候のご心配はもっともだ。
僕のように皇位継承権もないどころか、いつこの身分を剥奪されるか分からない名ばかりの皇子の騎士なんて……君の将来を考えれば汚点にしかならない。」
「何を言い出すんだ。お前の立場が盤石ではない事は承知の上だ。
それに、シュナイゼル様だって………」
「ああ。騎士の事も宰相就任も全て僕のためだって分かっている。
分かっているから……余計申し訳ないんだ。君にも、兄上にも……」
いつ、皇帝の気まぐれで養子縁組を解消されエリア11へ返されるか分からないスザクの立場を少しでも優位にするため、シュナイゼルは騎士を持たせるとうそぶいて来た。ジノが先般の模擬戦で好成績を残した事は、スザクを排除しようとする者達への牽制にもなった。
そして、自身が宰相となる事で、もしもスザクが皇子としての身分を失ってもその後ろ盾となる事が充分可能となったのだ。
「私が騎士になりたいと言ったのは、誰かに言われたからではない。私が心からそう願ったんだ。スザク・エル・ブリタニアの騎士になりたいと!」
「───ありがとう。ジノは、僕の話し相手もオデュッセウス兄上に働きかけて立候補してくれたんだってね。シュナイゼル兄さんから聞いたよ。」
「ああ、そうだ。あの日……アリエスの離宮で初めてスザクを見た……」
「アリエス……?」
「そうだ。何故だか知らないが、マルディーニ卿を始め大勢の大人に取り囲まれながら、怯える事無くどうどう渡り合っていた。」
「あ………」
それは、スザクがシュナイゼルの元に引き取られて日も浅い頃の事だ。突然、皇子として多くの者にかしづかれる立場になった事に戸惑い混乱し、ルルーシュとナナリーの生家だというあの城に逃げ込み途方に暮れていた。迎えに来たカノン達相手に、帰りたくないとだだをこねて大太刀回りをした挙げ句、叩きのめされて連れ戻された記憶がある。
「あの時に決めたんだ。私は、あの皇子をずっと護っていくのだと。」
「ボロボロにされた僕に同情して?」
苦笑まじりに尋ねるスザクに、ジノは驚いて声をあげる。
「同情!?なんでそんなものを……あの時のお前は確かに泥と痣だらけだったけれど、同情しなければならないほど哀れではなかったぞ。」
今度は、スザクの方が驚いてジノを見つめる。
「あの時からずっと、私はお前の側にいたいと思っている。
側でずっとスザクを護って生きて行きたいんだ。」
「ジノ………」
「だから、頼む。」
私を、騎士にしないなんて言わないでくれ。
「ありがとう。」
微笑むスザクにジノの顔が明るくなる。が、その願いは聞き届けられなかった。
「そう言ってもらえただけで、僕は満足だ。やっぱり君を騎士には出来ない。ずっと側に…と思ってくれているなら、どうかこれからも友人として………」
次の言葉は出なかった。否、出せなかった。
ジノによって塞がれてしまったから。
「うっ……ん……んっー!」
何が起きたのか分からなかった。いきなりジノの手が伸びて来たかと思うと、頭を抱え込まれ唇に温かく柔らかいものが押し当てられた。
すぐに、それがジノの唇だと分かり離そうともがくが、後頭部からしっかりと押さえつけられ、外す事は愚か腕を掴まれ、体ごとジノに引き寄せられてしまった。
何とか声を出そうとして開けた隙間から滑り込んで来たものに口内を貪られる。
「ふっ…うん……はっ…ん………」
何度も繰り返し、角度を変えて重ねられる口づけに、スザクは頭が芯からぼうっとし、抵抗も弱々しくなっていった。
大人しくなったスザクの口内をさんざん貪って、ジノはようやく解放した。
酸素を求めて息継ぎを繰り返すスザクに、ジノは長年秘めて来た想いをぶつけた。
「スザクッ好きだ!」
まだ苦しげに、腕の中でくたりとしている体を強く抱きしめる。
「友人として……ではない事は分かるだろう?
もうずっと……きっと初めて見た時から好きだった。その頃は、ただスザクに近づきたくて、ずっと側にいたくて……騎士になればそれが叶うと思っていた。
だが、その気持ちの正体に気がついた時にはもう、スザクに邪な想いを抱くようになっていた。ずっと、こういう事がしたかった!
好きだ……スザクの事が好きで好きでたまらないっ………!」
「ジノ……僕は、男だ……君と、同性だ………」
「分かってるっ!だから、ずっと言わずに我慢して来たんだ。
こんな事を考える自分が、頭がおかしいんじゃないかとも思った。……いや、本当はもうおかしくなっているのかもしれない。
スザクの事を考えると、いても立ってもいられない。だから……せめて騎士として、ずっと側にいたかったんだ。それをっ!
友情なんかでごまかせない。私は……スザクが欲しいんだっ!」
ジノの碧眼が青く煌めく。スザクは、その蒼い煌めきに呑まれていた。

3

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です