ニッポンの皇子さま その18

「どういうことなのか、説明してください。」

スザクと共に士官学校の視察を終えたルルーシュは、居城であるアリエス宮に戻らず、シュナイゼルの執務室があるイルヴァル宮へと車を向かわせた。
戸惑うスザクと慌てるジェレミアの忠告を無視し、止めようとする官吏を睨みつけ相手がひるんだ隙に執務中にもかかわらずシュナイゼルに食ってかかったのだ。
「どういう事とは……?ルルーシュ。」
いきなり乱入してきた弟を意に介す様子もなく、デスクの上に山積みにされた種類の束をを処理しながら、シュナイゼルは質問に質問で答える。
自分の事を全く気にしていない様子の兄に苛立ち、ルルーシュはさらに声を荒げた。
「スザクの事です。スザクが、日本の軍人だというのは本当なのですか?
そのことを何故、僕に教えてくれなかったのです!?」
噛みつく弟に、帝国宰相はいったん手を止め、彼をまっすぐに見る。
「執務中の宰相の仕事を止めるほどの質問とは思えないがね。
彼が軍人かどうかは本人に確認するのが一番正確だろう。むしろ、どこからその情報を得たのか、私が聞きたいくらいだ。」
いささか不機嫌そうにそう答えると、シュナイゼルはスザクに視線を移す。
スザクは、苦笑いを浮かべながらもシュナイゼルを涼やかに見返した。
「留学に際して日本から提出された『枢木スザクに関する身上書』には、日本陸軍士官学校在籍とはなっていたけれどね。現役の軍人とは初耳だよ。」
「身上書に間違いはありません。提出時点では……」
スザクの答えに、シュナイゼルは「ほお。」とつぶやき目を細める。
「では。こちらに渡る直前に入隊した…ということか。」
その問いかけに、スザクは小さく頷く。
「どういうことなのか。説明してもらえるだろうか。」
「返答次第では、僕の待遇が変わるという事でしょうか。
だとすると、自分の一存で答えるわけにはいきません。」
室内に緊張が走る。
シュナイゼルは、小さく息を吐いた。
「では、一つだけ尋ねるので答えて欲しい。」
「はい。」
「君の留学に軍は関与しているのか。」
「日本軍の総責任者は内閣総理大臣である枢木ゲンブです。」
スザクの言葉に、シュナイゼルばかりか、彼の副官として在室しているカノンと第五皇妃の騎士であるジェレミアの表情にも緊張が走った。
軍に関わりの強い者たちの表情が変わったことを意識しながらも、スザクは言葉を続ける。
「父からは、日本を代表していると自覚を持って行動しろと言われてきました。軍籍を隠す意図はありませんでしたが、このことが不信を買ったのなら、それは僕の失態でしょう。」
申し訳ありません。と頭を下げる国賓に、その場に居合わせた誰もがため息を漏らした。
「ルルーシュ。彼が軍人だとは誰から聞いたのかな。」
「ナイトオブスリーです。」
「───そうか。」
シュナイゼルの口元が一瞬吊り上がった。
「カノン。今日の予定の一部を変更したいのだが……」
「承知いたしました」
カノンの心得ているという返事に、シュナイゼルは、くつりと笑う。
そして、ルルーシュたちに離宮に戻るよう促した。
「今日の公務は終わったのだろう。今日何があったのかは、また改めてゆっくり聞きたいね。」
穏やかだが、腹の底から冷え冷えとする響きのシュナイゼルの声に、ルルーシュは顔をこわばらせて「分かりました。」と答える。
「枢木卿も。どうもこちらの情報共有の不行き届きがあったようで、不快な思いをさせて申し訳なかった。」
ルルーシュに比べると幾分柔らかな響きの謝罪にスザクは「いいえ。」と答えた。
「君の入隊のタイミングと留学の関連性については、総責任者である君の御父上に伺うことにするよ。」
と笑うシュナイゼルに、アリエス宮の住人たちの背筋が凍った。

「あんなに怒った兄上を見るのは初めてかも……」
離宮に戻る車中、ルルーシュは青い顔でつぶやく。そんな彼に、おもり役として随行してきたジェレミアはため息を漏らした。
気まずい空気が漂う中、スザクだけは妙に機嫌がよかった。

「シュナイゼル殿下のあんな顔を見れたのは、ちょっと面白かったかな。」

首相の息子として海千山千の政治家たちを見てきたスザクの、素直な感想だった。

「シュナイゼル宰相もまだまだ青いよね。」

その言葉に戦慄を覚えるルルーシュとジェレミアなのだった。

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