ニッポンの皇子さま その9

「驚きました。優秀な方だと伺っていましたが、日本語がこれほど堪能だとは……」
「私も、ルルーシュが日本語を学んでいるのは知っていたが、まさかここまで上達しているとは思わなかったよ。」
「発音とか、おかしなところはありませんか?」
 少し恥ずかしいのか、頬を赤らめ尋ねるルルーシュに、スザクが太鼓判を押す。
「素晴らしい日本語ですよ。殿下はいつ頃から日本語を?」
「3年程前から、シュナイゼル兄上にお願いして、家庭教師をつけてもらったのです。」
「3年前から……」
「丁度、第5次サクラダイト紛争の頃だね。」
 3年前、この皇子が日本に興味を持つような事があったかと想いを巡らせているスザクに、シュナイゼルが助け舟を出す。
「ああ…そうか。」
 日本がサクラダイトの産出調整を行った事により、輸出分配量を巡って中華連邦とブリタニア帝国の間で紛争が生じ、それぞれが今にも日本に侵攻しそうになっていた時期である。
 当時、首相に就任したばかりの枢木ゲンブが両国の間に入り、産出調整をしなければならない日本の事情をそれぞれの国の代表に粘り強く訴え、輸出量を両国同等とする事で日本が戦渦に巻き込まれる事を回避したのだ。
 奇しくもそれが、ゲンブの首相としての外交デビューであり、数年前からブリタニアの宰相として国に有利な成果を齎してきたシュナイゼルが、中華と痛み分けという結果しか得られなかった。彼にとっては不名誉な交渉だった。
「ブリタニア宰相としての私に、初めて土をつけた人物だからね。枢木ゲンブ殿は。」
「あの兄上を負かせた人物とは…日本とはどんな国なのか大変興味を持ちました。」
「それで日本語を……」
「言葉だけではなく文化や歴史も……色々勉強しました。」
 ルルーシュとナナリーの母、このアリエスの離宮の主であるマリアンヌ妃が待つという庭園に向いながら話をしている年長者に、1番年下の姫が口を挟む。
「お兄様は凝り性ですから、興味を持たれた事はとことん調べますの。自分が知らない事があると悔しがるのですよ。」
「負けず嫌いなんだ。」
 スザクがそう言いながら顔を覗き込むと、ルルーシュは顔を赤くしてそっぽを向く。
「いい事だと思いますよ。その気持ちが物事を上達させますから。」
 スザクの言葉に、ルルーシュは俯き加減にしていた顔を上げ、嬉しそうに微笑んだ。

 スザクが案内されたのは見事なバラ園を臨むテラスで、そこに、豊かな黒髪の女性と軍服を纏うチェリーブロンドの女性が、中央に据えられた丸テーブルで待っていた。
「奥様。お客人とお子様方をお連れしました。」
 執事の挨拶にご苦労様と答え、黒髪の女性が華やかに微笑む。
「ようこそお越し下さいました。枢木スザク様。私がこの宮の主、第5皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアです。」
「枢木スザクです。これからお世話になります。」
 姫達にしたようにブリタニア式の挨拶をすると、マリアンヌは満足そうに笑顔を向ける。
「シュナイゼル閣下も、わざわざのお運びありがとうございます。」
「いえ。まさかコーネリア達までお邪魔しているとは思いませんでした。大勢で押し掛ける事になってしまい恐縮です。」
「あら。お客様は多い方が楽しいわ。」
「兄上。私も今日こちらを訪れるつもりはなかったのですが……」
 そういいながら軍服姿の女性…コーネリアは自分の隣に腰掛ける妹姫に目をやる。
「私が是非にとお願いしてこちらに参ったのですわ。
 日本の皇子殿下にお目にかかりたくて……」
 そういいながら、ユーフェミアは瞳をキラキラさせてスザクを見る。
「ユーフェミア殿下……」
 “殿下”とまで呼ばれ、スザクは所在無さげな顔をする。
「僕は、正しくは皇子と呼ばれるような身分ではないのです。
 ただ、日本の古くからの血筋を受け継いでいるというだけで……
 日本にはもう皇室はありませんから。
 僕の立場を…どうして日本から国賓扱いで受け入れられたか、ブリタニアの方に分かりやすく説明すると……」
「“皇子”というのが1番しっくり来ると思ってね。」
 シュナイゼルが脇からは挟んだ言葉に、スザクはまた困惑の表情を深める。
「宰相閣下のお計らいで…便宜上と言うか…だから…」
 皇子殿下だなんて呼ばないで下さい。と、年下の少女にそれは恥ずかしそうに言うスザクは、その場のブリタニア人の笑みを誘った。

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