「初めまして。枢木スザク様。」
「ブリタニアへようこそ。日本の皇子様。」
興奮と期待が入り交じった淡いすみれ色の瞳と、紅潮させた頬で出迎えてくれた2人の姫を前に、枢木スザクは戸惑っていた。
アリエスの離宮に到着したスザク一行を、ヴィ家の執事が出迎えた。
「皇妃様は、庭のテラスでお待ちです。
お荷物は部屋へ運びますので、まず、そちらへ……」
品のいい老紳士に頷き、彼の先導で歩き出そうとするが、当の執事はそこから動こうとしない。否、動けなかった。
「皇女殿下方……」
あからさまに困った声を上げ、スザクの前を塞ぐ形で立っていた執事が脇にどいた。すると、彼がいた場所に、同じような淡いすみれ色の瞳をキラキラさせた2人の少女が立っている。
執事が漏らした言葉と、ここが皇族の離宮である事、身に着けている衣装から、彼女らが皇女である事が分かる。
彼女らはキラキラした瞳そのままで、挨拶の言葉を口々に言う。
その勢いに、スザクは思わす後ずさりした。
スザクに救いの手を差し伸べたのは、共にやって来たシュナイゼルだ。
「こらこら。小さなお姫様達。そんな風にはしゃいでは、枢木卿も驚かれているよ。」
「あ、あら。申し訳ありません。」
2人の皇女のうち、年上と思われる桃色の髪の少女が口に手をやると、茶色がかったブロンドの少女が、注意された事に口を尖らせる。
「だって、この離宮に外国のお客様をお招きするのは初めてですもの。」
嬉しくて、仕方なかったのですわ。と、再び目を輝かせてスザクを見る。
「この離宮にお住まいなのは、皇子殿下と皇女殿下がお1人ずつと伺ったのですが……」
「ああ。ひとりはこの離宮の子じゃないね。2人とも、自己紹介は?」
シュナイゼルが促す。
「初めまして。私、帝国第三皇女のユーフェミア・リ・ブリタニアと申します。
枢木卿。遠路はるばる良くおいで下さいました。」
年長の少女がドレスの裾をつまんで優雅に挨拶すると、年少の少女もそれに習う。
「第六皇女のナナリー・ヴィ・ブリタニアですわ。枢木スザク様。
心より歓迎いたします。」
「ご丁寧な挨拶。痛み入ります。日本国より参りました枢木スザクです。しばらくの間、この離宮に滞在させて頂くご無礼をお許し下さい。」
と、ブリタニア式の挨拶をして見せると、皇女らは紅い頬をさらに紅くする。
「まあ。枢木様たら、無礼だなんて。これから兄とともにブリタニアと日本のためにお働き頂ける方と暮らせるなんて、光栄な事ですわ。」
「ありがとうございます。」
スザクが改めて礼を言うと、ナナリーは満足そうな笑みを浮かべる。
「ナナリー。大変立派な挨拶だったよ。もうすっかりレディだね。」
「はい。だって、私もう7歳ですもの。」
えっへんと聞こえてきそうな程胸をはるナナリーに、周りの大人から笑みがこぼれる。
「それでは、皇妃様お待ちです故。」
案内に戻ろうとした執事を、シュナイゼルの声が制した。
「君もそんなところで見ていないで、降りて来たどうだい。ルルーシュ?」
静かだが、凛とした声が玄関ホールに響く。
シュナイゼルの視線を追っていくと、二階へと続く豪奢な階段の最上段に、こちらを見下ろして佇む少年の姿があった。
先ほど挨拶したユーフェミアと同じ年頃と思われる。日本人であるスザクがうらやむような黒髪の少年は、その紫水晶を思わせる美しい瞳で、涼やかにスザクを見ていた。
その鮮やかな黒と紫のコントラストに、スザクは不覚にも見惚れてしまっていた。
「お客人に対して、失礼じゃないのかい?」
シュナイゼルが再び注意すれば、少年は少し肩をすくませて階段から降りてきた。
「失礼しました。本に夢中になっていて、到着の時間に間に合いませんでした。」
と、謝罪の言葉を言うものの、少しも悪びれた様子もない。シュナイゼルが苦笑する。
「また、書庫に籠っていたのかい?」
それには答えずにスザクの前に立つ。
「初めまして。第11皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです。」
「こちらこそ、初めまして。ルルーシュ殿下。枢木スザクです。」
求めに応じてスザクが差し出した手をぎゅっと握り
「これから、どうぞよろしく。」
と、それは流暢な日本語で話すのだった。
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