ニッポンの皇子さま その7

 通信に出た父、枢木ゲンブは上機嫌だった。
「おう。スザク。良かったな、大歓迎してもらえているようじゃないか。」
「ええ。予想外すぎて、ついていけないんですが。」
「ブリタニアが日本を対等な交渉相手と見てくれているなら、喜ばしい事だ。」
「父さん。神楽耶との事は……」
「状況が変わったからな。皇の婚約者として、枢木の跡取りとして堂々と振る舞えよ。」
「はあ。それはそうと、父さん。」
「なんだ。」
「俺の事、海外でどんな風にいっているんだよ。」
「うん?」
「諸外国の首脳の間では、枢木ゲンブは親バカで有名らしいよ。」
 引きつった笑顔でそういえば、とたんに父の表情が変わる。
 視線をあさっての方角にやって、心無しか照れている様にも見える。
 ごほんと咳払いをして、ゲンブはぼそぼそと話しだした。
「その…なんだ……諸外国では、身内は褒めて当たり前のようだしな。それに、ブリタニアの宰相は若いくせに可愛げがないからな。
 あれに比べると、お前は素直で……」
「あ───」
 父の言いたい事が何となく解ったスザクは、思わず額に手をやった。
「父さん…シュナイゼル殿下の事……嫌いでしょ。」
 “嫌い”のところは声をひそめていう。
「あれを好意的に見れるのは、彼の身内ぐらいじゃないのか。
 能力は大変評価するがな。さすがブリタニアの宰相だよ。」
「………喧嘩友達か………」
 懇意にしているというのはそういう意味だったのかと、盛大にため息をつく。
「お前はどうなんだ?あの男と話をしたんだろ。」
「『自制』とか『忍耐』といった言葉の意味をいやという程知りましたよ。」
 スザクの後ろで控えているカノンが、かみ殺した笑い声を漏らすのが聞こえた。
「まあ。これからいろいろと大変だろうが、日本のため頑張ってくれ。『皇子様』」
「……父さん。」
 ゲンブの言葉に一瞬むっとしたスザクではあったが、すぐに真剣な顔を見せる。
「条約案の方はどうです?」
「衆院の方は押さえた。軍の方も、ほぼ支持を取り付けた。今月中には可決、参院に送られるだろう。」
「中華寄りの議員と、軍内の軍事独立派がどう出てくるか…ですね。」
「軍の方は、片瀬少将を中心に説得に当たってもらっているが…問題は、六家の中でも親中派の刑部とその取り巻きの議員だな……」
 まあ。なんとかするさと笑って通信を切った父に、スザクも笑顔を返したが、心の片隅に芽生えた不安に、表情を暗くするのだった。

「枢木卿には、アリエスの離宮で生活して頂きます。」 
「アリエスの離宮?」
「はい。皇妃マリアンヌ様と、そのお子様達の居城です。」
 アリエス宮へ向うリムジンの中、スザクは1冊のファイルを読んでいた。
 それは昨日シュナイゼルが見せてくれた、エリア6反乱制圧作戦案を元にした、実際の作戦報告書のコピーである。
 昨夜シュナイゼルに頼んで、用意してもらったものだ。
「ずいぶんとその戦いに興味が有るようだね。」
 同乗しているシュナイゼルが、面白そうに話しかけてくる。
「閣下が、この作戦を考えた弟君の友人になってくれと仰ったからです。作戦案を見て、気になった事がありましたから……
 シュナイゼル殿下。」
「うん?」
「殿下からご覧になって、ルルーシュ殿下はどのような方ですか。
 その……性格とか…性質というか……」
「そうだね。大人しい……口数の少ない子だよ。
 大変聡明でね。だからこそかな…他人の悪意とか思惑に敏感でね。自分や母妃に向けられる感情に耐えきれなかったんだろう。自ら、離宮に引き蘢ってしまった。しかし、決して軟弱なのではないのだよ。逃げた訳ではないと、私は思っている。」
「ええ……軟弱な人間が考えたとは思えない内容ですから。
 むしろ、苛烈ささせ感じます。」
「そうだね。怒らせると相当激しいよ。」
「シュナイゼル様は、このルルーシュ殿下とは親しいんですよね。」
「そうだね。数えきれないくらいいる兄弟の中では、親しい方だと思うよ。」
「コーネリア殿下も?」
「そうだね。コーネリアは、マリアンヌ様に憧れて軍属になったくらいだから、足しげくアリエスに通っているからね。」
「そうですか。」
「弟を知る上で、参考になったかな?」
「ええ、とても。」
 シュナイゼルの質問に笑顔で応える。
「案を殆ど採用しているようですが、実際の作戦のこの部分は宰相閣下が?」
「うん。非常に素晴らしい作戦だったが、足りないものが有ったからね。」
「幼さ故だと思いますわ。」
 シュナイゼルの言葉にカノンが付け足す
「僕もそう思います。最初これを見たときは、本当にこれを10歳の子供が考えたのかと恐ろしくなりましたが、殿下にお話を伺って安心しました。」
「ルルーシュと仲良くやっていけそうかな。」
「ええ。殿下が僕を受け入れて下されば……」
「おや。一人称が変わったね。」
「僕は『皇子』なんでしょう?皇子なら、少なくとも軍人のような口調にはしないでしょうから。」
「そうだね。」
 スザクの言葉に、シュナイゼルの口の端がつり上がる。
 そんな彼を見るスザクも、含みのある笑みを浮かべるのだ。

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