真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 12 - 3/4

暗闇の中に、金属をたたく「コーン」「コン」」という音だけが響く。
先ほどの会話以降、セリムはずっと鎧の頭たたきに興じている。
この中では、お互いに何もすることがない。
時間を持て余した彼の、暇つぶしだと思っていた。
ホーエンハイムが作ったこの「檻」が破られるまでは。

大音響とともに崩れる土の山。
ぽっかり空いた穴から差し込む光を背に立つのは、紅蓮の錬金術師ゾルフ・J・キンブリーだ。
アルフォンスのあがきが、また、崩された。

セリムの「遊び」をやめさせろと警告してきたハインケルを、両足を失いながらも助けようともがくアルフォンス。
彼に、ライオンの合成獣キメラは1つのものを提示する。
それは、かつて兄と探し求め、その真実を知ってからは、絶対に所有しないと心に決めた「賢者の石」だった。

「こんな石コロになってるのに、まだ『人の命』として認めてるお前だから頼むんだ。
どんな外見になったって、大事なものを守るために闘いたいんだよ。
こいつらにも、闘わせてやってくれ。」

どんな姿になっても…

ああ、そうだね。
その通りだ───

「…うん。わかった。
一緒に闘おう。」

賢者の石の威力は絶大だった。

人造人間ホムンクルスと国家錬金術師を相手に一歩も引けを取らず、再びプライドを封じることに成功した。
「なぜ、その石の力を自分の身体を戻すことに使わないのですか。」
キンブリーの疑問は、おそらくまっとうな意見なんだろうと、アルフォンスは思った。
しかし。
「…それだと皆を救えない。」
キンブリーは、何かを得るためには何かを切り捨てねばならないのだと言い切る。
どうして、選択肢が2つしかないんだ。
「なんで『元の身体を取り戻し、かつ、皆も救う』が選択肢にないだよ。」
「──等価交換の法則は?」
「原則に縛られずに可能性を求めるのも、人類の進歩には必要だと思うよ?」

そうだ、可能性はいくつもある。
だから…!
「『あなた方は元に戻れず、皆も救えない』という選択肢も用意しなさい。」
不敵な笑みでそういうキンブリーの口には、もう1つの賢者の石が!
アルフォンスは、とっさに防御する。
大きな力のぶつかり合いで、大地が震え、プライドを閉じ込めていた土山が崩れた。
もうもうと舞い上がる土煙。
その陰に潜んでいたアルフォンスであたが、たやすくキンブリーに発見されてしまう。
アルフォンスは再び大地に衝撃を与え、敵の視界から自分を隠すものの、
グラトニーの能力を得たプライドが、すぐに彼をとらえた。
「賢者の石があるといっても、たったひとりで我々に勝てるはずが・・・」
「ひとりじゃない!!」
あざ笑う人造人間に、そう言い切るアルフォンスの手には、あの赤い石はなかった。
人造人間ホムンクルスたちの表情が変わる。
プライドが、風下に何かあると気が付いた直後、ライオンの牙が人間の喉元に深く突き立てられた。
真っ白なコートとスーツが鮮血に染まる。
キンブリーは、土煙の向こうに、赤く光る石を持つ、ドクター・マルコーを見るのだった。
爆風の中、駆けつけたマルコーに賢者の石とハインケルを託した。
プライドに発見されやすいよう、風上に移動したのは、治療の時間を稼ぐためだ。
そうさ、初めからボクは独りきりで闘っちゃいない。
人間はしぶといんだ。

キンブリーごとハインケルを攻撃すると思われたプライドが、その直前で攻撃を止めた。
訝る人間たちに、人造人間は語る。
中央セントラルに自分たちの父親がいる限り、人間に勝ち目はないのだと。

それは慢心か、それともほかに意図することがあるのか…

彼の真意を知る間もなく、アルフォンスは件の人造人間とともに、何かに激しく弾き飛ばされた。

それは、黒塗りの軍用車。
キンブリーが村まで乗ってきたものだ。
彼が去った後、マルコーが奪ってここまで来たのだが、それを発進させ、最強の人造人間を跳ね飛ばした人物がいたのだ。
アルフォンスの知る中で一番「へなちょこ」な仲間。ヨキだ。
「お前らばっか、いいカッコさせてたまるかよォォォォォォォ。」
そう泣き叫ぶこの男も、あがき続ける人間の一人なのだ。
絶妙なタイミングの助け舟に、一同乗り込むと、全速力で逃走する。
車の屋根が破壊された。
しかし、それ以上の攻撃はなかった。
「最強」と言われる人造人間ホムンクルスから逃げきれたと喜ぶべきか…それとも……
この状況を深読みする余裕はない。
「お父様」を倒すのが一番なのだから。

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