真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 12 - 2/4

中央司令部の1室では、将軍同士が険悪な態度でにらみ合っていた。
にらみ合うと言っては語弊がある。
正確に言えば、女将軍の中央軍を馬鹿にした発言が、奢った老害を怒らせている真っ最中である。
「ブリッグズ兵と貴様のつながりが強いのは知っている。
それゆえに、貴様がここにいる事が、ブリッグズ兵に反抗させないための、強力な枷となる。」
その言葉に、オリビエ・ミラ・アームストロングは、声を上げて笑うのだった。
「あなた方は、われわれの何もわかっちゃいない。
私が不在でも動揺せず、ひるまず動くことができる部隊だ。
上っツラで私が育てた兵を語るな。」
彼女の言葉が終わるか終わらないうちに、新たな警報音が響き渡る。
「ほら来たぞ。ブリッグズ山の巨大熊とタメを張れる猛者どもだ。」

弾薬も尽きかけたころ、アイスクリーム屋の大型トレーラーが、マスタング達の前に横付けされる。
グラマン中将配下、レベッカが陽気な笑顔で飛び出してきた。
トレーラー内は、シンで調達した武器弾薬が満載だ。
武器を調達し運んできてくれたのは、ヒューズ殺しの濡れ衣を着せられたのを、シンへ逃亡させたマリア・ロスだった。
マスタングから、働きかけてはいない。
一体だれの指示でと訝る彼に、いたずらっぽい顔で「話しますか?本人と。」とロスは言う。
ヒュリーが繋げた電話の先で、聞き覚えのある声が笑った。
人造人間ラストとの戦いで負傷し、実家の雑貨店を継いだジャン・ハボックだ。
以前と変わらぬ軽口だが、これほどの援助をしてくれた彼に、マスタングの表情にも新たな活力がみなぎる。
感謝を込めて礼を言った。
「出世払いだ。ツケとけ!」

マスタングの錬金術によって、ロゴを肉屋に変えたトレーラーは、彼らを探している兵士の目の前を、堂々と走っていく。
目的地は、軍中央司令部。
だが、すべての門が閉じられ、侵入することは難しそうだ。
マスタングは、思案にふける。
彼は、ブリッグズ兵警戒のために閉じられたのだと考えた。
それに間違いはないが、実は司令部内は彼の考えも及ばないほど混乱を極めていた。
軍上層部がひそかに製造していた「人形兵」が暴走し、司令部内の人間を襲っていたのだ。
イシュバールをはじめとする、様々な紛争で得た賢者の石を利用して作られたそれらには「理性」がなかった。
ただ本能のままに動き、食欲のまま捕食するために人間を襲う。
阿鼻叫喚たる状況だ。
そんなことは知る由もないマスタングは、かつてバリーを追って発見した、第三研究所のルートを使って司令部内に侵入することにした。
ここからは別行動と、車を降りることにしたマスタングは、荷台にいるルースに声をかける。
ルースは、ピクリと肩を震わせた。
傍らの少年から緊張した空気が漂っていることに、ブラッドレイ夫人は不安な面持ちで彼を見た。
今まで見たこともないひき締まった顔のルースに、息をのむ。
「我々は司令部に向かうが、君も来るかね。」
一瞬息をつめたルースではあったが、間髪なく声を上げた。
「はい。」
その迷いのない声に、夫人の顔が強張る。
「ル、ルース君何を言っているの?」
「───おばさん、ごめんなさい。
僕。行かなくちゃいけない。」
「どうして。子供のあなたが関わることではないでしょう。
大佐も、戦に子供を巻き込むなんてっ!」
「違うよ。これは僕が望んだこと。
約束したんだ。アルと。」
「アル……?」
「うん、僕の兄さん。アルフォンス・エルリック…
きっと、エドも中央司令部にいるはず。
僕の名前は、ルース・エルリックなんだ。
ずっと黙っていてごめんなさい。」
「エルリックって…鋼の錬金術師の?でも…」
「うん。突然こんなこと言って、びっくりするよね。
全部すんだら、ちゃんと説明するから・・・ただ、これだけは信じて。
僕は、僕のできることで、おばさんや、この国の人たちを守りたいんだ。」
迷いのない真っすぐな眼差しで語る彼に、ブラッドレイ夫人は、止めることなどできないのだと悟るしかない。
「すべて終わったら、あなたの事情を話してくれるのね。」
「うん。必ず。」
「───わかったわ…行ってらっしゃい。また、あとでね。」
「うん。行ってきます。」
微笑んで送り出してくれた夫人に、ルースも笑みで答えた。
大丈夫かな…ちゃんと笑えていたかな。
走り去るトレーラーの姿が、かすんで見える。
瞳から、大きな雫がいくつも零れ落ちた。
次に彼女がこの姿を見る時、中身は本来の持ち主であるアルフォンス・エルリックだ。
魂だけになった己が、次にどんな姿をしているのか、正直ルース自身もわかっていない。
その時、見慣れた姿ではない自分を、彼女が理解してくれるのだろうか。
失敗して、この世界からいなく可能性も高い。
「これでお別れかもしれない…でも、おばさんのことは大好きだよ。」
ルースは、涙をぬぐい踵を返す。
優しく微笑むホークアイと、涼しげな表情のマスタングが、そこにいた。

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