chapter.1
合集国ブリタニア。
首都ネオウエルズにある、かつての皇帝離宮の1つであるヴェリアル宮。
現国家元首ナナリー・ヴィ・ブリタニアの公邸に、極秘の来客が来訪していた。
若い女性の住まいらしく、白を基調とした柔らかな色調の居室は、窓から射し込む日差しで温かくその来訪者を包んだ。
その意心地の良さに穏やかに微笑む人物に、ナナリーの表情も明るい。
「これが、アラン・スペイサー氏と、ヴァーミリオン・スパロウ氏の戸籍登録証明書です。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの皇籍は既に抹消、パーソナルデータはアラン・スペイサーとして新たに登録しました。枢木スザクのものも同様。
だから、これは正規に作られた正真正銘のIDです。」
書類と共に渡されたIDカードに、ルルーシュは満足そうに笑う。
「ありがとう。これで、堂々と生活できる。」
「これまでのように隠れ住むのではなく、一般人として社会生活が送れますね。
でも…生まれた時の名前は使えませんが……
私は、それが1番悔しいです。人前で、もうお兄様をお兄様と呼べないなんて……」
「すまない。ナナリー。でも、これは俺とスザクのけじめだから……」
「わかっています。だから、せめて今は一杯呼ばせて下さい。ルルーシュお兄様。」
兄妹は幸せそうに笑った。
「おふたりが住民登録する気になって頂いて、本当に良かった。
今は、私達の力で不自由無くできますが、将来にわたってとなると難しいですから。」
「ああ。スザクがゼロの仮面を取った時から考えてはいたんだ。
このまま亡霊として生きるのか……人として新たな生を得るのか……
だが、亡霊のままでいる訳にいかなくなった。」
「何かあったのですか……?」
「スザクがいつも買い出しに行っている町で、ナイトオブゼロではないかと言い出す奴が現れた。
別人だとごまかしたが、周りからも疑いの目を向けられたそうだ。」
「その町の住民の方ですか?」
「旅行者のようだったと、スザクは言っている。
雰囲気のいい町だったが、行けなくなったとこぼしていた。」
「そうでしたか……だからIDを……」
「ああ。これがあれば説得力も出るしな。それに………」
「それに?」
ナナリーの問いかけに一瞬眉間に皺を寄せるが、すぐに穏やかな顔を見せる。
「──いや。この際、あのログハウスを引き払って、市内に部屋を探そうと思っているんだ。」
「え……でも……」
「木の葉を隠すなら森の中…というだろ。
人々の記憶も薄れて来ている。印象を変えれば問題ないさ。」
「だから最近髪を伸ばし始めたのですか。」
「……似合わないか?」
「いいえ。お兄様はどんなヘアスタイルでも素敵です。」
実妹の賛辞に頬を赤らめるルルーシュに、また、笑みがこぼれる。
「新しい家をお探しでしたら……離宮にお住まいになりませんか?」
「離宮?」
「皇族の資産売却対象になっていて、これまでかなりの離宮が企業の保養施設やホテル、美術館などになったのですが……なかなか買い手のつかないものもあって……」
「それを、俺に勧めるのか?」
「お兄様にとっては思い出のある建物だと思います。
私にとってもそうですが……」
「───アリエスの離宮か。」
「ええ。一般の方には、皇妃が暗殺されたり、悪逆皇帝が幼少期を過ごした城だという事で敬遠されてしまって………
私が住めばいいのでしょうが、公邸であるこの離宮で生活していますから……」
「それで俺たちにか……しかし、2人で住むには広すぎるしな。」
「お兄様達のところにはお客様が多くいらっしゃるでしょう?
お部屋が多ければ、お客様ももっと来やすいでしょうし、私も側にいて下されば心強いです。」
「ナナリー……」
「お兄様でしたら、お安くお譲り致しますわよ?」
にっこり笑う妹に、ルルーシュは顔を引きつらせる。
「ナナリー……とても逞しくなって……」
「お兄様の妹ですもの。」
愛らしく笑う彼女もまた、世界を牛耳って来たブリタニア皇族の片鱗を見せていた。
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