a captive of prince 第2章:ペンドラゴン - 1/7

神聖ブリタニア帝国。帝都ペドラゴン。
皇帝シャルル・ジ・ブリタニアが座する、帝国の中心地である。
その帝都の最奥、高き山々に背後を守られた皇宮の皇帝謁見の間にスザクは居た。
エリア11で起きた事件を、皇帝に報告するためである。
「そうか。クロヴィスは死んだか。」
「はい。犯人がどのようにして総督を殺害し逃走したのか、代理執政のジェレミア卿が全力で捜索していますが、侵入経路も未だ解らず……
不思議な事に、その時G-1に居たものが誰も犯人らしい人物を見ていないというのです。」
「ほう。誰も。」
「誰にも気づかれずに侵入し、また、逃走する事が出来るのでしょうか。」
「さてな……面白き輩が現れたものよ。」
「面白い…ですか。」
息子が殺された事を悲しむ様子も無く、むしろその犯人を容認するかのような発言をする皇帝に、スザクは伏せていた顔を上げ玉座の男を睨みつけた。
「クロヴィスが殺されたは、あれの慢心故であろう。自分を手にかけるものなど現れるはずがないというな。だから、ろくな抵抗も出来ぬまま銃弾を額に浴びる事になる。所詮弱かったのよ。
むしろ、クロヴィスの誇る護りを突破した彼奴が天晴というものではないか。」
「───殺されるような弱者は、ブリタニア皇族ではないと………?」
怒りも露なスザクの言葉に、近衛兵の槍を持つ手がぴくりと動く。
「いや。クロヴィスは名誉の戦死を遂げた。その労には報いてやらねばな。」
その言葉にスザクは再び顔を伏せ、詰めていた息を吐き出した。
「時にスザク。」
「はっ。」
「お前はクロヴィスと会ったのか。」
「いえ…エリアに着くとすぐ戦闘に参加しましたので、通信で話しただけでした。
直接会えたのは、亡くなられた後で……」
「もう少し話をしたかった…か。」
「はい。それだけが悔やまれます。」
「クロヴィスと話してみたいと思うか。」
「それは…できますれば。どんな人物に殺されたのか、教えてもらいたいくらいです。」
「よかろう。話させてやろう。ついて参れ。」
「陛下!?」
唖然とするスザクに向って玉座から下りてきた皇帝は、彼の脇をすり抜け1つの扉の前に立ち止まった。
「どうした。早く来るのだ。」
「はっはい。」
訳が分からぬまま、スザクは皇帝の後を追ってその扉をくぐった。

そこは、スザクがペンドラゴンに来て初めて足を踏み入れる場所だった。
薄暗い照明にぼんやりと映し出された長い回廊を渡ると、正面に大きな扉が現れる。
まるで門番の様に左右に立つ黒いフードをかぶった人物が扉を開けると、そこは、黄昏色に輝く不思議な空間だった。
「ここは…神殿?」
「違うな。ここは『アーカーシャの剣』だ。」
「アーカーシャの剣……?」
昔、寝物語に聞かされた神話の中にそんな言葉が無かっただろうか……
思案に耽るスザクの足下が光り、地図が浮かび出た。
「これは…ヨーロッパ大陸……?」
呆然と立ちすくむスザクであったが、ふと、何かに呼ばれたような気がした。
地図の西側、何やら酷く惹かれる部分がある。導かれる様に、その場所に足を踏み入れた。
「そう。そこにあるんだね。」
「えっ?」
突然、下の方からかけられた声に驚いて聞こえた方を見ると、どこから現れたのか、淡い金髪の少年が立っている。
「君は…一体。」
どこから来たのかと訪ねる彼に、少年はうっそりと笑みを浮かべる。
「ありがとうスザク。これで全ての遺跡の場所が分かったよ。」
「遺跡……?」
言葉の意味が分からず反復すろ。
自分を見つめるスザクの手を、その少年が取ったとたん。
スザクは、激しい衝撃を受けた。頭に…身体に流れ込んで来る様々な事象、感情、思考……
「あ…あ……。」
痺れるような衝撃に朦朧としているスザクの前に、皇帝が立つ。
すると、その目が怪しく赤く光りだした。
「よくやったスザク。これで、『ラグナレクの接続』に必要な駒が揃う。
だが、お前はまだ知る必要はない。」
皇帝の瞳より飛び立った赤い鳥は、見開かれたスザクのそれに飛び込む。
その刹那、優しかった兄の声を聞いたような気がした。
「クロヴィス兄さん……。」
そうつぶやくと、スザクは完全に意識を手放した。
崩れ落ちるスザクの体を、後ろから受け止めた男があった。
皇帝筆頭騎士、ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタイン。
いつの間に現れたのか、隻眼の騎士は軽々とスザクを抱き上げた。
「クロヴィスとつながったか。薄まっているとは言え、守護者の血は侮れん。
のう。ビスマルク。」
「御意。」
ビスマルクは、スザクを抱えたまま頭を下げる。
「では、陛下。スザク様を離宮まで送り届けて参ります。」
「うむ。誠に可愛い奴よ。」
皇帝は、騎士の腕の中でぐったりとしているスザクの髪に指を差し入れると、その柔らかい髪を掻き揚げるのだった。
されるがままのスザクの瞼から一筋の涙が溢れ、頬を濡らしていった。

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