a captive of prince 第19章:革命 - 7/12

 このパーティーの主役であるオデュッセウスと麗華に挨拶をすませたシュナイゼルの前に、皇族に対する礼をとった姿勢で跪く人物がいた。
「これはこれは、ラウンズが2人も……」
 彼の前に膝をついているのは、エリア11に派遣されている皇帝の騎士達である。
「皇帝陛下より、この地ではシュナイゼル殿下の指揮下に入るよう勅命を受けております。」
 皇帝より差し向けられた騎士のうち、第三席であるジノ・ヴァインベルグがそう伝えると、宰相は鷹揚に頷く。
「頼もしいねぇ。だが、ここは祝いの席だ。堅苦しい挨拶は抜きで頼むよ。」
 シュナイゼルの言葉を受けて、ジノとアーニャは立ち上がる。
 皇帝の騎士であるが、2人ともまだ10代の少年少女、結婚披露宴に臨席する機会もまだ少ない。
 実のところ興味津々であったりする。
「2人とも食事は食べたの?」
「記録…取った。」
 スザクの問いかけに、アーニャは淡々と答える。
「スザクに教えてもらった料理が見つからないんだ。イモリの黒焼き。」
「えっ?」
「殿下。これ、すごく美味しいですよ。」
「セシルさん。何食べているんですか。」
 ニコニコとしているセシルがもっている皿の上には、祝いの席には欠かせない中華伝統の野菜細工。人参で出来た鳳凰が無惨にも喰い千切られている。
「それは、料理じゃなくて……」
「あら?そうなんですか。」
 彼らの天然ぶりに戸惑うスザクとそれを見て楽しむ帝国宰相に声をかける人物がいる。
「いーじゃないですかぁ。」
「そうよ。なんでも美味しく頂けるのは幸せな事よ。」
「ロイドさん。」
 先に会場入りしていたロイドとカノンである。
 どんな場所でも変わらない彼らに、惚けていたスザクも自然と笑みを零した、
 そんな時であった。
 スザクの耳に思いがけない、だが、決して忘れるはずも無い名が飛び込んできたのは。
「皇コンツェルン。皇神楽耶様。」
 息を呑んで先ほど自分が上がってきた階段を見る。
 何故、彼女がここに……?
 一年半前、あの会場での事故以来、会う事も連絡を取る事も無かった従妹と、よもやこのような場所で再会を果たすとは思わなかった。
 驚きを隠せずにいるスザクとその場に居合わせた全ての人間を驚かす事象が発生した。 
 会場の全ての視線が、艶やかな黒髪と鮮やかな緑の大きな瞳で、幼さが残る面立ちながら凛とした立ち姿でレッドカーペットを踏む少女に注がれる。
 正確には、その少女の側に立つ、黒衣の男に注目していたのだ。
 中華連邦の天子と神聖ブリタニア帝国第一皇子の結婚披露パーティーであるこの会場にはあまりにも相応しくない人物。
 黒いマントを纏い、黒いチューリップを象ったフルフェイスの仮面を被った誰もが知る人物。
 人道的見地からエリア11から脱出した100万人の日本人とともに難民として受け入れ、中華連邦が貸し与えた人工島「蓬莱島」に隔離しているテロリスト。
 黒の騎士団首領「ゼロ」が当然のように階段を上がってきたからだ。

 和やかな歓談の場であった披露宴会場は、その黒ずくめの男の登場に一瞬にして緊張と戦慄に包まれた。
 駆けつける衛兵、皇子を守るように立ち塞がる騎士、固唾を呑んで見守る招待客。
 その中に、若干名薄い笑みを浮かべる者がいたのだが、誰も気がつく事は無いだろう。
 ゼロを取り囲むように槍の先端を向ける衛兵を、シュナイゼルは宦官に働きかけ退かせる。
「皇さん。明日の結婚の儀には、彼の同伴はご遠慮願いたいですね。」
「それは……致し方ありませんね。」
 神楽耶は渋々了承すると、ブリタニア宰相の隣に立つ皇子に話しかける。
「お久しぶりです。スザク……あの日以来ですね。」
「ああ………」
 神楽耶は敢えて敬称を付けずに名を呼んだ。
 それは、ここがブリタニアではないからだ。
 他国の一部を借りたものではあるが、ブリタニアの支配を受けない『合衆国日本』の国民。日本人である事を公の場で主張することと、自分とスザクがいとこ同士であり対等の立場だと知らしめるためだ。
 スザクも彼女の意図に気づき、他のブリタニア貴族にいらぬ詮索を与えぬ程度に自然に受け答える。
「あの時は本当にありがとうございました。貴方が守って下さらなかったら、今日、こうしてお会いする事もありませんでしたわ。」
 スザクは黙って首を振る。
「………桐原さんの事は、申し訳なかった。
 力が及ばず、処刑を止める事は出来なかった……」
「いたし方のない事でしたわ。
 それより…私のせいで重傷を負わせてしまったというのに、桐原のために動いて下さっていたのですね。感謝します。
 お怪我の方は、もう……?」
「うん。もうすっかり。後遺症も無いよ。
 ブリタニアの医療技術は世界最高だからね。」 
 無意識に出た言葉だった。
 だが、それが神楽耶の顔を曇らせる。
「そうでした……貴方は、今はブリタニアの皇子でしたわね。
 皇帝が、今最も寵愛する第十二皇子…… とんだ茶番劇だこと!」
 そう言い放つと、鋭い視線でシュナイゼルを見る。
「ああ。言の葉で殺せたら宜しいのに。」
 冗談めかしてはいるが、物騒な言葉を言い放つ。
 一斉に、射殺さんばかりの視線が彼女に降り注ぐ。
 それから庇うかのように、今まで沈黙を守ってきていたゼロが前に進み出た。
 全員の意識が彼に移リ、その動向を見守る。
「シュナイゼル殿下。私とチェスで勝負して頂けませんか。」
「ほう?」
 シュナイゼルの目が細められた。
 雛壇の上では、オデュッセウスが小首を傾げながら彼らを見守っている。
「そう。勝負です。
 私が勝ったら、『枢木スザク』を頂きたい。」
「えっ!?」
 突然出てきた名前に、スザクが声を漏らす。
 何故、そんな事を言い出すのか……スザクはその名前に色めき立つ少女に眉尻を下げた。
「面白い趣向だとは思うけれどね……」
 そういいながらシュナイゼルがスザクの肩に手を置く。
「君が言う人物はここにいない。
 スザクというのは私の弟と同じ名前だがね。」
「───賭けは成立しないという事ですか。」
 ギリッ、と音がしそうなほど奥歯を噛み締め、神楽耶はシュナイゼルをにらみ付ける。
 スザクの言う通りなのか……
 ゼロ、ルルーシュは驚きをもってかつての兄を見つめた。
 スザクからは、シュナイゼルが実の弟として愛情をもって彼に接している事を聞いていたが、彼の言葉をそのまま信じる事は出来なかった。
 仲睦まじそうに並び立つ2人は確かに実の兄弟のように見える。
 だからこそ、神楽耶が苛立つのが分かるだけに敢えて勝負を挑みスザクを欲した。
 彼が知るシュナイゼルならば、何の躊躇も無く景品としただろう。
 スザクと過ごした年月が、彼を変えたという事なのか。
 言葉を失ったゼロに、今度はシュナイゼルの方から提案が出された。
「どうだろう。1局私とチェスをしてもらえないか。例え私が勝ったとしても、その仮面を外せとは言わないよ。」
 不敵な笑みで笑いかける帝国宰相に、ルルーシュはいい様も無い苛立ちを覚えるのだった。

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