a captive of prince Interval:a.t.b.2018.4 - 7/12

 スザクの胸に、皇帝手ずから新しい勲章がつけられる。
 跪いた体勢から立ち上がると、一斉に拍手が起こった。
 ブリタニア皇帝主催の戦勝祝賀会は、ペンドラゴン皇宮の小広間(といっても軽く300人は収容できる)で開かれた。
 集まっているのは、大貴族や、スザクが名前も知らない彼の兄弟姉妹達である。
 このパーティーに参加しているからといって、心からスザクの勝利を祝っている人物が果たしてどれだけいるのか………
 皇帝ご寵愛の養子殿に取り入り、皇帝や宰相シュナイゼルに好印象を与えたいという有象無象が群がってきている。
 スザクにはそのようにしか見えない。九分九厘その考えは間違っていないだろう。
 大勢の人間に取り囲まれてはいるが、スザクは孤独だった。
 この中にたった一人でも自分をよく知る人物がいてくれたら……
 兄シュナイゼルと幼なじみのラウンズ2人はロシアにいる。ユーフェミアは離宮から出る事は叶わず、ナナリーをこのような人々の前に連れ出すわけにはいかない。
 唯一頼りのオデュッセウスは、警備の問題から出席を見合わせてくれるように特務室長から頭を下げられたと苦笑していた。
「陛下ばかりか、多くの皇族が出席ところへ、第一皇子である私まで出席しては警備が追いつかなると泣きつかれてね。
 私の兵を貸そうかと提案したら、警備が物々しすぎてパーティーが台無しになるとまで言われてしまった。」
 心細い思いをさせてしまうと謝る兄に、
「もう、そんな子供ではありませんし、他の兄弟や大貴族に顔を覚えてもらうのも必要な事だと分かっています。」
と大見得を切ったが、心細く寂しいのはどうしようもない。
 華やかできらびやかなこの会場も、スザクの目には何の色もないモノクロの世界に映る。
 取り入ろうと話しかけてくる貴族の言葉を右から左に聞き流し、愛想笑いで適当に相槌を打っていたスザクの目に、突然鮮やかな真紅が飛び込んできた。
 パーティー会場の白い壁にぴったり添うように立つ一人の少女。
 身に着けているドレスと同じ紅い髪の彼女は、紺碧の瞳をスザクに向けていた。
 目が合った瞬間、彼女はニヤリと笑うと、その場から歩きだす。それは、彼に向ってくるのではなく、むしろその逆で、会場の外へ向っていた。
「あっ………!」
 思わず声が漏れる。
「殿下?」
 話しかけている貴族が訝る。
「侯爵。その話は、また別の機会にしましょう。ああ。勿論、ご令嬢のお茶会には喜んで出席させて頂きます。」
 同伴している娘に笑いかければ、彼女は頬を染めて喜ぶ。
「それは有り難い。心より歓迎します。」
「では、招待をお待ちしています。」
 そそくさとその場を離れ、人をかき分けて少女の後を追った。人の波をするりするりと縫うように去っていく彼女を、必死に追いかける。
「失礼。ちょっと、すみません。」
 声をかけてくる相手にいちいち断りを言うのももどかしい。
 会場から外の庭園へと出るテラス付近で、やっとその姿を手に届く距離に捕らえた。
「待ってっ!」
 スザクが少女の腕を掴んだ瞬間、人々の目は彼女に釘つけになった。
 周りの空気が変わった事は分かったが、スザクは構わず話しかける。
「失礼。間違っていたら許して下さい。カレン・シュタットフェルト嬢ではありませんか?」
 驚いたように自分を見上げる少女は、恭しく膝を折ると、か細い声で「はい。」と答えた。
「お久しぶりでございます。殿下。」
「やはり貴女でしたか。いつこちらへ帰っていらしたのですか。」
「ブラックリベリオンのすぐ後です。」
「そうでしたか。ご学友の皆さんも?」
「いいえ。皆はまだエリア11にいます。
 実は、私…正式にシュタットフェルト伯爵家の後継に指名されたのです。」
 その告白に、スザクは眉根を寄せる。
「今日は、父の名代で参りました。」
 彼女の告白に、周りの貴族からひそひそ声が漏れだす。
「伯爵が、このところ病に伏せっているというのは、ただの噂ではなさそうですな。」
「では、彼女が女伯爵となる日も近いと……」
「令夫人がそれを許すかどうか……妾腹の娘ですよ。しかも、ナンバーズの。」
「お家断絶よりは、庶子に後を継がせる方がマシという事でしょう。」
「シュタットフェルト家も、地に落ちたものだ。」
 好奇と同情、侮蔑といった様々な悪意に満ちた視線がカレンだけでなく、スザクにも注がれていた。
「ナンバーズ同士、気が合うのでしょう。宜しいのではありませんか。」
「そんなことを言っても宜しいの?陛下に聞かれたら……」
 それら雑音に、スザクは眉をしかめると、カレンの手を取った。
「レディ。もし宜しければ、夜の庭園の散策でも?」
 笑いかければ、カレンも微笑む。
「ええ。喜んで。」

 庭園には、気を利かせたのか皇帝に出歯亀と嘲られるのを恐れてか、誰もいなかった。
 ただし、全く人の目がないという訳ではなく、警備の衛兵やスザクのSPが着かず離れずの距離で見守っている。
 2人は、皇子と貴族令嬢というスタンスを守ったまま会話した。
「久しぶり。元気そうで何よりだ。」
「ありがとうございます。殿下も……怪我の具合はもう……」
「うん。幸い、障害が残るような大けがにはならなかったからね。
 ご友人にも、よろしくお伝え下さい。」
 友人という言葉に、彼の従妹の事が含まれている事を察し、カレンは頷く。
「はい。とても気にしていらしたから……きっと安心なさると思います。」
 その言葉に、スザクもほっと肩の荷が落ちたような、安心した顔をした。
「殿下。近々、私の後継指名を祝って友人達と小さなパーティーを開きますの。ご都合が宜しければ、是非ご出席頂きたいのですが。」
「貴女のご友人ですか?……なんだか怖いな。」
 肩をすくめるスザクに、カレンは微笑んで答える。
「ご心配には及びませんわ。誰も、殿下に危害を加えようと思っていませんから。
 むしろ、お助けしたいと思っています。この鳥かごから。」
「───私はもう、遠くへは飛んでいけませんよ。……羽根を、切られてしまいました。」
 遠い目をするスザクに、カレンは小さく息を吐く。
「それでも諦めないのが貴方だと思っていたけれど……買いかぶりだったかしら。」
 その言葉に、はっとして彼女を見る。深い海の色の瞳が、力強く光っていた。
「私達は、まだ諦めていないわ。」
「リーダー無しに、まだ続けるの?」
「リーダーは、生きている。必ず取り戻すわ。」
 不敵な笑みの彼女に目を見張る。
「いま……何と………」
「ゼロは…ルルーシュは生きている。あの発表は真っ赤な嘘だわ。」
「ル…ルルーシュが生きて………」
 声をつまらせるスザクの手に、封筒が押し付けられる。
「詳しい場所と時間はそこに……必ず来て。」
 茫然とする皇子を残し、伯爵令嬢は会場へと戻っていった。
 それを見計らって、取り入ろうと考える輩がこぞって庭園に来るまで、スザクは封筒を見つめていた。

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