a captive of prince Interval:a.t.b.2018.4 - 5/12

神聖ブリタニア帝国、帝都ペンドラゴン。皇宮の豪奢な作りの回廊を、金髪で長身の青年が従者を従えて歩いて行く。ギリシャ彫像のような容貌に常に微笑んでいるかのような穏やかな表情の彼は、この宮廷内で常に注目されている。
 神聖ブリタニア帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニア。国政を預かる彼は、この国の権力者と言えよう。
 28歳という若い宰相は、身分の上下無く独身女性の憧れの的だ。
 今も、すれ違う時に恭しく頭を下げた貴族の令嬢達が、彼の姿が見えなくなるのも我慢できずにはしゃぎだした。
「シュナイゼル殿下。相変わらず、素敵でいらっしゃるわ。」
「あの、エリア11での反乱も、僅か数時間で鎮圧なさったとか……」
「内政ばかりか外交にエリアの管理まで、本当にお忙しそうですわね。」
「シュナイゼル様と言えば、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのスザク殿下を引き取り、ご養育なさったのもあの方だそうですよ。」
「只のナンバーズの子供を、陛下のご寵愛を頂ける皇子にまで育てるなんて、並大抵の事ではないでしょうに。」
「それをなさってしまわれるのですから、本当にすごい方ですわ。」
 尊敬と憧れの視線で彼を見送る。
 そんな彼女らに、シュナイゼルの後ろを歩くカノンは肩をすくめる。
「本当に、宮廷の小雀達は姦しい事。殿下が素晴らしい事は、今更言う事でもないでしょうに……でも、少々気になりますわね。」
「何がだい?」
「殿下が、こうして高嶺の花になってしまわれている事ですわ。
 もう、適齢なのですから縁談の1つや1つあってもいいはずですのに、殿下に釣り合うお相手がいらっしゃらないというのは、仕えている者としては心配ですわ。」
「何を言っているんだ。私はまだ28だよ。妻を娶るなら、オデュッセウス兄上の方が先だろう。私の嫁の心配をするより、兄上のお相手を捜して差し上げたらどうだい?」
「まあ。オデュッセウス様なら、私が探さなくても選り取り見取だと思いますわよ。シュナイゼル様を諦めたご令嬢が、こぞって求愛していらっしゃいますもの。」
「ふむ。それも少々問題だね。変な女に捕まる前に、何かしらの手を打った方が良いかもしれない。」
「あら。噂をすれば………」
 2人の進行方向から歩いてくる人物がいる。オデュッセウスが、数人の貴婦人に囲まれている。
「ね。私の言った通りでしょ。」
 カノンが、面白そうに耳打ちする。シュナイゼルは苦笑した。
「本当に、引く手数多で羨ましい事だ。」
「また、そんな白々しい事を……」
 オデュッセウスは、彼らの姿を認めると、婦人達の囲いから抜け出し足早にやって来た。
「やあ、シュナイゼル。陛下に謁見かい?」
「はい。今済ませてきた所です。しかし、さすが兄上、若い娘達が放っておきませんね。」
「何を言っているんだ。彼女達は、みんな君狙いなのだよ。私に、君の事ばかりを尋ねてくるんだ。
 だから、そんなに弟の興味があるのなら紹介すると言ってきたのだが………」
 やって来た方を見れば、婦人達はクモの子を取らしたようにいなくなっていた。
「オデュッセウス様も、女心が分かっていらっしゃらないのですね。
 直接話す事が出来ないから、殿下に伺おうとしていたのですわ。」
「ああ……それは、悪い事をしてしまったかな。」
 頭を掻く兄に、シュナイゼルは微笑する。
「いいえ。私にとっては有り難い事です。」
「そうかい?」
 たわいもない会話を交わしながら、3人は回廊から庭園へと出てきた。
 春の柔らかい日差しの中、美しく咲き乱れる花々の芳しい香が鼻孔をくすぐる。
「あれから、もうすぐ5ヶ月か……スザクの様子はどうだい?」
 気遣わしげに尋ねてくるのに、シュナイゼルは眉尻を下げる。
「一頃に比べれば、ずいぶん落ち着きましたが……」
「が……?」
 言葉を濁す弟に、眉根を寄せる。
「いつも思い詰めた顔をするようになりました。」
「そうか……やはり、ゼロの処刑が……」
「ええ。ルルーシュと分かっていながら、助ける事が出来なかったと自分を責めているようで………」
「しかし、あれは仕方のない事だろう。ルルーシュの気性を考えれば、国に叛旗を翻した事は納得できる。いや、もしかするとナナリーの事を考えての事かもしれない。」
「自分が混乱を作れば、本国…陛下が動く……と?」
「自分は犯罪者として処刑されても、その時にナナリーが発見保護されれば良いと考えたのではないかな。……クロヴィスを殺した事は納得いかないが………」
「そう……ですね。ルルーシュにしても相当な覚悟だったのだろうと想像できます。スザクも、その事は納得しているのですが……」
「何も出来なかった自分が許せない……?」
「おそらく。」
 兄弟は揃ってため息をつく。
「切ないね……あのとき、何故、陛下を思い止まらせる事が出来なかったのか……あの子達を救うチャンスはいくらでもあったはずなのに。」
「ええ……」
「唯一の救いは、ナナリーが帰ってきた事くらいか……だが、あの子は知らないのだろう?実兄が罪を犯した事も、罪を裁かれ死んだ事も……」
「いつかは話さなくてはならないと考えていますが……そのタイミングが…難しいですね。」
「全く酷い話だ。あの子達が何をしたというのか……母親が殺された事で、こんなにも人生を狂わされて。
 シュナイゼル。私は、つくづく自分の無力を呪うよ。長兄でありながら、私は自分の兄弟誰ひとりとして守ってやる事も出来ない。
 ルルーシュも……スザクも………」
「兄上がお心を痛めていらっしゃる事はスザクもルルーシュもよく分かっていると思いますよ。そうやって想って下さっているだけでも、どんなにか彼らの救いになるでしょう。」
「まるで、神父か牧師のようなことを言う。」
 オデュッセウスが、くすりと笑う。
「最近教会に赴く事が多くなりましてね。以前は、生誕祭の夜だけだったのですが……神に救いを求めるなど、父上が知ったら……」
「鼻で笑われるだろうね。
 父上と言えば、スザクを養子として公表したのはいいが…少し構い過ぎではないかい?
 今回の白ロシア遠征も、前の中東遠征から戻って日が浅いだろう。」
「ええ。このところ遠征続きで、スザクとろくに顔も合わせていないのですよ。今回も、また入れ違いで、私がロシアに行く事になるので。」
「もう落としたのか。いやいや……まるで鬼神の如きだね。スザクは。」
「そう言う所が重宝がられているのでしょう。コーネリアがいませんから。」
 国を出て行方知れずとなっている妹の名に、オデュッセウスの顔が曇る。
「コウから何か連絡は?」
「いいえ。何も……」
「そうか……ユフィにかけられているという暗示を解く方法が見つかれば良いが……」
「ギアス……ルルーシュは、どうやってそんな技を会得したのか。
 それが分かれば、解く手だても見つかるでしょう。」
「そうだね。」
 兄弟は再び深いため息を吐いた。
 庭の茂みから顔を出したヒバリの仔が、キョトンと首を傾げ人間達を見ていた。

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