a captive of prince Interval:a.t.b.2018.4 - 3/12

 黒の騎士団が引き起こした反乱、『ブラックリベリオン』。
その最中、突然スザクの前に現れた不気味な少年、V.V.………
 常に、人を見下したような笑みを浮かべて話す彼が告げる、ルルーシュの持つ力“ギアス”。
 他人の意志をねじ曲げ、どんな命令も実行させる絶対遵守の力。
 その命令は、予想通りユーフェミアばかりか、クロヴィスやジェレミア、バトレー将軍にもかけられていた。
 そして………
「スザク。ルルーシュは君にもギアスを使っている。」
 薄笑いで知らせる子供に、スザクは眉をしかめた。
「ああ……薄々気がついていた。あの時……式根島で?」
「そうだよ。」
「僕が、神根島に流れ着いたのは、そのせいだったのか……」
 呟いた言葉に、V.V.は目を剥いて声を張り上げた。
「君が、あの砲撃から助かったのがあいつの力だって!?冗談じゃない!!」 
 驚いて見つめるスザクに、得意の嘲笑を浮かべる。
「ルルーシュのギアスで助かるものか。君達をハドロン砲から救ったのはこの僕だよ。それに……ルルーシュがかけた命令は………」
 暗い笑みを浮かべ、懐から出したものをスザクに突きつける。
 スザクは息を呑んだ。子供の手に、サイレンサー付きの拳銃が握られている。
「言葉で説明するより……体験した方が解りやすい………」
 薄笑いを浮かべると躊躇無く引き金を引いた。
 殺される!そう思った瞬間意識が飛んだ。そして、再び生き取り戻した時、スザクは愕然とした。
 手には、細く白い煙を吐き出した銃が握られ、目の前に急所を撃ち抜かれた子供の死体が転がっている。
「あ……ま、まさか……僕が…撃ったのか………?」
 そんな馬鹿なと、倒れているV.V.を抱え起こす。
「おっおいっ!しっかりしろっ!」
 既に呼吸も脈拍も止まっている。スザクは蒼白となり、子供の遺体をそっと床に下ろすと、助けを呼ぼうとドアに足を向けた。
「これが、君にかけられたギアスだよ。」
 後ろからかけられた声に硬直する。おそるおそる振り向けば、死んだはずの子供が薄ら笑いを浮かべて立っていた。
「ひっ………!」
 悲鳴を上げそうになり、咄嗟に口を塞ぐ。
 何故、そうしたのかは解らない。スザクの矜持と自尊心がそれを許さなかったのだろう。
「ルルーシュの命令は『生きろ』。生命の危機を感じると、君は何としても生き残ろうとする。
 こんな風に、明らかに体力差がある僕から拳銃を奪うだけでなく、それを使って殺すなんて事も平気でやるんだ。」
「あ……あ……あ………」
 あまりの事に腰を抜かし、声にならない音を漏らすスザクに、V.V.はにじり寄る。
「驚いた?僕は死なないんだ。いや…正確には、死んでもすぐに生き返る。」
 にたりと笑う子供に後ずさる。
「ば…化け物っ。」
 スザクが吐き捨てた言葉に、V.V.の眉間に皺が寄る。
「ずいぶんと失礼な言い方だな。でも、他ならぬスザクだから、許してあげるよ。
 そう……確かに化け物かもしれないな。僕はね、自分の望みを叶えるために力を得た。その対価に、人としての生を捨てたんだ。」
「生を……捨てた?」
「僕は、人生をなげうってでも叶えたい夢がある。
 僕はね……誰も、他人を騙したり傷つけたりする事のない嘘のない世界を創りたいんだ。」
「……嘘のない世界……」
「そう。誰もが互いを解り合える優しい世界を……
 スザク、君なら分かるだろう。この世界にどれほどの嘘が蔓延しているか。騙し、傷つけ、奪い合い……君がそんな腐った世界にどれほど傷つけられてきたか僕は知っている。
 一緒に世界を作り替えよう。君にはその資格がある。」
 怯えるスザクの手をV.V.が握った途端、世界は暗転した。 

 以来、その不気味な子供は度々スザクの前に現れた。 
 そして、自らの夢とギアスについて、彼の協賛者にシャルル・ジ・ブリタニアがいる事を教えた。
「これはね。僕とシャルルが子供の頃からの夢なんだ。
 シャルルの今の地位も、これを叶えるためだ。」
「───優しい世界を創るために、皇帝になった……?
 でも、今の治世のどこにそんなものが……陛下がやっている事は、その夢とは真逆の事じゃないか。」
「分かってないな……スザクは。このブリタニアの中から少しずつ?そんな事をやっていては、いつまでたっても世界は変わらない。
 変えるなら、一気にやらなくては意味がない。その間、少し世界が乱れても、それが成されればすぐに取り戻せる。
 スザク。僕らがやろうとしている事は、今ある世界を良くする事じゃない。全く新しい世界を創造する事なんだよ。」
「新しい世界の創造?」
「そうさ!そのためには、既存のシステムを壊さなくてはならない。
 今の“神”を殺さなくては、新しい世界は生まれない。
 スザク。君はそのための切り札なんだ。だから、シャルルも君の事は大切にしている。自分の子供として迎え入れ、皇位継承権も与えた。そんな“父親”を君は裏切るのかい?」
 スザクは、ねめつけてくる視線に声を失う。
 V.V.の前では、まるで蛇の前の蛙だ。自分よりも遥かに小柄なこの少年の迫力にいつも呑まれてしまう。
 あの、皇帝シャルルに匹敵する圧力を感じるのだ。
「忠告しておくよ。シャルルを怒らせない事だ。
 でないと、この僕でも庇いきれないかもよ……あの、ルルーシュと同じ末路をたどるかもしれない。」
 楽しそうに笑うV.V.を睨みつける。
「そんな怖い顔しないでよ。ルルーシュは、自業自得なんだからさ。
 折角シャルルが、暗殺者から逃がすために日本に送ったというのに、手違いで助け出す前に戦争になった事を根に持って反乱なんかするから、仕方なく処刑するしかなかったんだ。
 皇帝なんだから、自分の息子とは言え特別扱いは出来ないだろう。
 君にとって特別な存在なのは知っているけれど、こればっかりは……さ。」
 宥めるように話す彼から目をそらす。そんなスザクの態度に、V.V.はつまらなそうに口を尖らせた。
「だだっ子のご機嫌取りなんかやっている暇なんてないんだ。
 君も、過去の古傷を舐めるような真似はやめて、前向きに生きてよ。」
「過去の古傷……?」
 V.V.を見る目に剣呑さが増す。だが、当の本人は気にする様子も無く暗く笑うのだった。
「古傷さ……ルルーシュもマリアンヌも………感傷は何も生み出さない…………」

「ルルーシュ……すまない。君の無念を晴らす事も出来ない、ふがいない僕を許してくれ………」
 吐き出した言葉は、涙と共に静寂に解けて行く。
 スザクは、罠にかかった小鳥のように霞網に絡めとられ、身動きが取れないまま息絶えるのを待っている……そんな日々を過ごしていた。

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