a captive of prince 第15章:崩落のステージ - 2/7

 ユーフェミアとゼロの姿が見えなくなると、会場内には緊張感が漂いだす。
 誰もが、2人の話し合いの行方を気にしている。
 この特区か成功するか否か、全てゼロの動向にかかっている。
 そんな緊張の中、スザクは突然激しい頭痛に襲われた。
「ぐっ……!」
 あまりの痛さに耐えかね、頭を抱え腰を屈める。ズキズキといった痛みではない、頭を何かに掴まれギリギリと押しつぶされるような痛みだ。
「殿下っ。」
 スザクの異変は誰の目にも明らかで、会場内がざわめく。
 いち早く気がついたダールトンとSPが駆け寄り医者を呼ぶように指示を出す。
「大丈夫だ。……あまり騒ぎ立てると、皆が動揺する……」
 SPらに定位置に戻るよう指示するが、その声はかなり苦しそうだ。
 時間にして、ほんの1、2分の事だった。
 その激痛は襲って来たのと同様、唐突に消えた。
 あまりの事に、スザク本人はもとより、集まった関係者も呆然としてしまった。
「本当に、もう痛まないのですか?」
 慌ててステージに呼ばれた侍医も、唖然としている。
「ああ。すまなかった。本当にもう全く痛みはない。」
「左様でございますか?」
 釈然としない表情で、医師が看護士を伴って壇上を去った。
 スザクが視線を感じて振り返ると、心配そうな表情の神楽耶がいる。本当は側に来て確認したいのだろう。
 しかし、いくら特区では立場は対等とはいえ、皇族であるスザクにおいそれと近づく訳にもいかず、もどかしそうな顔をしている。
 スザクは、そんな彼女に微笑んでみせた。

 静けさを取り戻した会場に、その場を離れていたユーファミアが戻って来た。
 まるで、楽しい事を報告に来た子供のように、嬉しそうに微笑んで駆け込んで来る。
 ユーフェミアはステージ中央に立つと、会場の日本人に向って呼びかけた。
「日本人を名乗る皆さん!」
 ひどく明るいその声が、会場内に朗々と響き渡る。
「お願いがあります。死んで頂けないでしょうか。」
 少女の可憐な声が、ざわめきを一瞬に打ち消した。
 ユーフェミアのその言葉が会場内の全ての者の頭に浸透するのに、かなりの時間を必要とさせた。
 それはまるで、特区構想を公表したときのような、晴れ晴れとした純真な少女そのものだったから。

 スザクは、何が起きたのか解らなかった。
 突然の頭痛から解放され、まだ意識が明瞭にならないうちに、ゼロとともにこの会場を離れていたユーフェミアがかけ戻って来たかと思うと、まるで歌うように楽しげに、信じられない言葉を集まった人々に投げかけたのだ。
「お願いがあります。死んで頂けないでしょうか。」
 誰もが言葉を失った。誰もが耳を疑った。
 慈愛の皇女と評される少女は、自分の呼びかけに反応がない事に小首をかしげると、さらに言葉を続けた。
「自殺して欲しかったんですけど、駄目ですか?それじゃあ……」
 満面の笑みで少女が告げる。
「ブリタニア兵士の皆さん。皆殺しにして下さい。虐殺です!」
「なっ!」
 呆然と少女に注目していた会場全体が我に返った。
 スザクとユーフェミアの補佐としてこの特区に深く関わって来た将軍アンドレアス・ダールトンは、真っ先に立ち上がると叫んだ。
「マイクを切れっ。カメラもだっ!」
「ユフィっ!!」
 スザクは声をあげ、ステージ中央の妹に向って駆け出す。
 その白い手袋の中に、彼女がもつのに相応しくないものを見つけたからだ。
 ステージ奥では、ゼロが衛兵と小競り合いをしている。
「ええいっ。そこを通せっ!止めるんだ、ユーフェミアっ!」
 少女の手がゆっくりと上げられて行く。
 パァーッン
 乾いた銃声が、会場内を震わせた。
 悲鳴が上がる。
 ステージの中央では、この特区を立ち上げた2人の皇族が掴み合っている。
 ユーフェミアが会場内の日本人に向けた銃口は、スザクによって空中へ向けられ、そこから白い煙を吐き出している。
「はっ放しなさい!」
「ユフィ、君は一体何を。自分が何を言ったのか解っているのか!」
「ええ、解っています。日本人は殺さなくてはならないのです。」
 強い口調でキッパリ言い切る彼女に、スザクは驚きのあまり一瞬押さえていた手を緩めてしまった。
 スザクの手から逃れたユーフェミアが、その銃口をこれまで苦労を共にして来た兄に向ける。
「邪魔をしないで!」
「やめろっ。止めるんだ、ユフィっ!!」
 ゼロが絶叫する。
 再び銃声が轟いた。
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
 スザクに向って発射された銃弾は標的に当たる事無く、ステージ袖の壁に当たり火花を散らす。
 それを見た日本人が悲鳴を上げた。
 銃弾を避けたスザクは、ユーフェミアから銃を奪いステージ奥に投げ飛ばす。そのままの勢いで、彼女に手刀を振り下ろした。
「うっ……。」
 小さく呻いて、ユーフェミアの体が傾いた。
 崩れ落ちる皇女の体を、ダールトンが受け止める。そのまま抱え上げると、部下に道を開けろと怒鳴り会場を出て行った。

2

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です