a captive of prince 第15章:崩落のステージ - 1/7

 12月……日本の古い暦では師走と言う。「師」とは牧師や教師の事を指し、彼らが走り回るほど忙しいという意味だと、自分の1つ席を挟んだ隣に座る兄に教わった。
 12月は1年の締めくくりであるため、日本に限らずブリタニアも忙しい月である事には変わらない。年内に決済が必要な案件は山のようにある。それらを差し置いても、この施策は年内に動かしたかった。
 時間がかかればそれだけ人心も離れて行く。そもそも行政特区などという政策も、副総督を名乗る世間知らずの世迷い言だと笑われかねない。
 何よりも……ルルーシュとナナリーをこのままにしてはいられない。
 焦りと使命感が、今日この日を迎えさせたのだ。
 そんな彼女の想いとは裏腹に、今1番この場にいて欲しい人物はいない。
 自分とスザクの間に置かれ、空席のままの貴賓席……ユーフェミアがゼロのために用意させた豪奢な椅子は、そこに収まるべき人物を待ちわびて、ぽつんと寂しそうにしている。
 やはり来てはくれないのだろうか───
 落胆から小さく息を漏らす。が、胸の中で「いいえ。」と思い直した。
 いい。1度で分かってもらえなければ、何度でも呼びかけるだけだ。もとより、そう簡単に進むとは思っていない。茨の道である事は覚悟の上だ。
 チラリとスザクに視線を送れば、彼も目だけで笑みを返してくれる。身近に、助けてくれる人がいる。これほど心強い事はない。
 ユーフェミアは、視線を正面に戻し、しっかりと顔を上げた。

「ユーフェミア様。そろそろ………」
 ダールトンが、時計を見て促して来る。式典開始の時間になった。
「分かりました。」
 ユーフェミアはゆっくりと立ち上がると、ステージ中央に用意されたマイクに向う。
 すると、唐突に会場がざわめいた。
「ゼロだっ。」
 誰かが声をあげ、会場内の人々は空を仰ぎ指を指す。
 晴天の空に浮かぶ黒い影。
 黒いナイトメアが、この会場に近づいて来る。その肩に、人が掴まっているのも、肉眼で見えた。
 陽の光を反射する黒い仮面……ゼロ。
 警備のブリタニア軍が緊張する中、ユーフェミアが歓喜の声を上げる。
「来てくれたのですね。ゼロ!」
 ユーフェミアの弾んだ声が、会場内を震わせた。

「警備は厳重だな。見えないところからも、狙撃兵が狙っているぞ。」
 ガウエンのコクピットから、C.C.が話しかけて来る。
「当然だろう。俺が不審な動きを見せれば、ユーフェミアが口にした約束など紙くずのように捨てられる。それがブリタニアという国のやり方だ。」
「───1つの事実として言うが……あの皇女の指示とも思えないがな。」
「知っている。恐らくスザクの指示だろう。」
「それもどうかな………」
「どういう意味だ。」
 問いかけに応えず沈黙するC.C.に舌打ちする。
 眼下のステージ中央に立つ半分血の繋がった妹の姿が大きくなってきた。

『ユーフェミア・リ・ブリタニア。貴女に折り入ってお話があります。』
「はい?」
『ただし。2人きりで。』
 もう来ないと思っていた人物の突然の申し出に、ユーフェミアは一瞬戸惑った。
 だが、思えばルルーシュの意思を確認せずにいたのだ。
「解りました。」
 副総督のその言葉に、スザクを除くブリタニア軍、そして、壇上のキョウトに動揺が走る。
「スザク様。本当に宜しいので?」
 ダールトンが、スザクに耳打ちする。
 「副総督はゼロを信じている。それに、この警備の中単身でやってきた彼の申し出を無碍にする訳にもいかないだろう。」
「本当に、ゼロが1人でやって来たと……?」
「……彼の事だ。周辺に部下を潜ませていても不思議はないが……」
 一人言のように呟けば「周辺の森を探索させます。」と、ダールトンが離れようとする。
「発見しても手出し無用でお願いします。ゼロの意思が確認されるまでは……」
「イエス ユア ハイネス。」
 会場を離れるダールトンを見送り、スザクは神楽耶の側に立つ。
 あたかも、ダールトンの代わりに副総督に近づくテロリストを警戒するかのような素振りで。
「ゼロがここに現れる事を聞いていましたか。」 
 スザクの問いかけに、神楽耶は視線を合わす事無く答える。
「いいえ。NACはそもそも黒の騎士団とは何の関わりもないと申し上げて来ております。もしも繋がりがあったとしても、特区への参加を表明している私どもとは連絡を取り合う事もないのでは?」
「そうですか。」
 スザクもまた、彼女の顔を見る事無くそう言うと、ユーフェミアの元へ行く。
「僕も立ち会おうか?」
「いいえ。スザクは会場に残って下さい。
私達が2人とも席を外しては、皆さん不安がるでしょうから。」
「大丈夫?」
 身体検査を受けているゼロをちらりと見やり、ユーフェミアに再度確認する。
「ええ。何の心配もありませんわ。」
 自信ありげな笑顔に、スザクも微笑む。
「───そうだね。」
 身体検査が終わったのを確認し、ユーフェミアが会場奥に配備されている地上空母G-1ベースに誘導する。
 会場へ戻るスザクとゼロがすれ違う。
 お互い視線を合わせる事はなかったが、スザクは小声で囁いた。
「君を信用しているよ。」
 その言葉にゼロの返事はなかったが、微かに肩が震えたように見えた。

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