「スザク……まだやっているのか?」
「───うん。あともう少しでこの文献が現代語に直せるから。」
蔵から持ち出した文献を、スザクはルルーシュにも読めるよう現代文に翻訳する作業をしていた。
決して少ないとは言えない量の資料をスザク一人では勿論作業しきれない。神楽耶や皇家の者の手を借りてルルーシュも手伝ってはいる。が、中心となっているのはどうしてもスザクになる。
食事や睡眠以外の時間の殆どを古い文献を辞書と首っ引きで読み解いていく。そんな生活をもう一週間も続けていた。
真剣に取り組んでいる姿に、ルルーシュは何とも言えない不安を感じていた。
文献に呼ばれたといい、それらをまるで取り付かれたように読みふけっているスザクが、ギアスとコードの秘密を探る意外の目的を持っているかのように思えて仕方ない。
そんなはずはないと信じているが、自分を陵辱した男を赦し彼にまつわる事実を一心不乱に探す姿は、スザクがあの男に対して何か別の感情があるのではないかと疑念を抱かずにはいられない。
────馬鹿な事を……………
と、自分でも思う。
あの塔の中で、ルルーシュに斬り掛かろうとするライの前に立ちふさがり銃を向けたスザク。
つい先日、こんな姿…ルルーシュ以外に見せたりしない。と言ったスザクの恍惚とした表情が嘘偽りであるはずがない。
分かっている。
でも────
そこまで必死に調べるのは
「あいつのためなのか────?」
ぼそりと呟いた言葉にスザクが反応した。
「えっ───?」
怪訝そうに首を傾げて自分を見つめる双眸に、ルルーシュはつい声を荒げる。
「スザク。いい加減で終わらせたらどうだ。
このところ寝る時間がどんどん遅くなっているだろう。」
「うん………でも、あと少しだから。」
そう言って再び文献に顔を戻す右手を掴んだ。
「今日はここまでにしておけ。そもそも、ここには療養に来ているんだ。」
「そ、それはそうだけれど………」
手つかずで積まれたままの資料をちらりと見る。その顎を捕らえて、ルルーシュはスザクを自分に向かせた。
「ルルーシュ。」
「コードとギアスの研究は勿論大事だが、そのために体を壊してしまっては元も子もないだろう。
お前がそんなに頑張らなくても、俺や神楽耶様だっているんだ。」
「う、うん。でも、神楽耶だってそんなに暇じゃないだろうし、ルルーシュは日本語が堪能だけれど古い文字までは………
だから、やっぱり僕が………」
言いかけた言葉をルルーシュは遮る。
「なら、尚更、休むときは休まなければ駄目だ。」
真剣に訴える彼を見つめていたスザクが、すっと視線をそらせた。
「スザク!」
ついに、ルルーシュの感情が爆発した。
あの日以来ルルーシュを見ると鼓動が早くなる。
まともに彼と目が合わせられない。
C.C.君のせいだ…………!
彼女の言葉で余計意識するようになってしまった。
────好きの形が変わってきたのだろう。
なんだろう。分からないよ。
今までの“好き”と今の“好き”がどう違うのか。
ただ、どうしようもなく、ルルーシュの側にいる事が嬉しくて苦しい。
触れられると息も出来なくなりそうな位、心臓が早鐘のようにドキドキする。
ルルーシュの事を考えると、体調がおかしくなる。
そんな時に始めた古い資料の翻訳作業。自分が中心にならなくてはならないこの状況は、今のスザクにとって好都合だった。
作業に取り組んでいる間は、ルルーシュの事を考えずにいられる。
彼が、自分の体調を気に掛けていてくれる事は分かっていたが、もう少し自分の中で整理がつくまでこうしていたかった。
だが────
ルルーシュを焦れさせる事になってしまっていた事に、今初めて気がついた。
「う……うんっ………」
無理矢理顔を向けさせられ唇を吸われ、口内を蹂躙される。
声を出そうとしても、くぐくもった音しか出ない。
強く舌を吸われると、頭が芯からぼうっとしてくる。
角度を変えて何度も繰り返される接吻に、スザクは次第に文献の事を忘れそれに酔っていた。
ルルーシュの体に腕を回し身を寄せると、目を合わせた時に感じた動悸は静まり、その温もりにまどろみさえ感じる。
やがて、ルルーシュの浴衣を掴んでいた手の力も抜け、スザクは完全にその身を彼に預けてしまっていた。
ルルーシュはやっとスザクの唇を解放すると、低く囁いた。
「言う事が聞けないなら、実力行使しかないだろう。」
「ごめ……ん。心配かけて………」
「今頃謝っても遅い。お仕置きだ。」
そう言ってスザクの首筋を強く吸い上げる。
「あっ……ん。」
スザクの口から漏れる甘い声に、ルルーシュの目が細められた。
浴衣のあわせに手を潜らせると、直に肌を滑らせる。
「ひゃっ。」
期待通りの反応に、ルルーシュの欲求は強くなっていく。
帯を緩め肩を抜き、露となった肌に唇を寄せる。
その度にスザクから切なげな声が漏れた。
気がつけばスザクの浴衣は肘まではだけられ、上半身を晒してしまっていた。
その背をルルーシュの手が撫で上げる。スザクが大きく震えた。
裾も乱され太ももまでめくり上げられた。内股に彼の指が這う度に、身をのけぞらせる。
膝の上であられもない姿で愛らしい声を上げるスザクに、ルルーシュは口の端をつり上げた。
「スザク。もう寝よう……」
耳元で囁かれる言葉に、スザクは震えながら頷く。
それを確認して、ルルーシュはスザクを抱き上げると寝室へ向った。
腕の中でくったりとしているスザクを見下ろす目は妖しい光を放っている。
「本当に眠れるか、保証はしないがな………」
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