Honey moon - 19/19

 翌日、ふたりは、とある墓地にいた。
 一つの墓石に線香を手向け、手を合わせる。
 頭を垂れ黙祷するスザクの姿を、ルルーシュは静かに見守っていた。
「ルルーシュ……ありがとう。」
 ゆっくりと頭を上げ、目の前の墓を見つめる彼の口から出たのは謝辞だった。
「うん?」
 小首をかしげるルルーシュに、言葉を続ける。
「日本につれて来てくれて。 
 一緒に枢木家に来てくれて……君がいなかったら、僕は今日ここにはこれなったと思う。
 ここにあることは知っていたけれど、来る勇気が持てなかった。
───やっと、貴方のところへ来ることが出来ました。父さん………」
 彼らが訪れた場所。そこは、枢木ゲンブの墓だった。
 英雄とも売国奴とも呼ばれる日本最後の首相は、枢木本家によってここに埋葬されている。
 小さく震えるスザクの肩を、ルルーシュはそっと抱いてやる。
「白虎殿の言葉に救われたな。」
「うん………」
 白虎は、スザクという人間を理解してくれていた。それがどんなに嬉しかったか。
 感激で、涙があふれそうになるのを必死でこらえた。
 誰にも理解されなくて良い。
 そう思って戦い続けた年月が報われた。
 そう感じた───
「だから、ここに来れた……
───父さん……すみません。」
 自然と、謝罪の言葉が口を衝いて出る。
父を刺したあの日から、ずっと、自分の行為が齎した結果に対して悔いていた。
 誰かのために死ぬこと。エリア11を日本に戻すことが贖罪だと思い込み、殺めてしまった父への謝罪の念は薄かった。
 そんな自分が、素直に謝ることが出来ていることに、スザクは我ながら驚いていた。
 長年の重荷を下ろすことが出来た安堵を噛み締め、墓前を去ろうとした時、墓の横に新しく刻まれた墓誌が目に入った。
「ル、ルルーシュ……これ……!」
 墓石に刻まれた文字を指す。
 ルルーシュも、目を見張った。
「僕の……名前だ。」
 そこには、戦死したとされる日付と枢木スザク享年十八と記されている。
「ぼ…僕が、父さんと同じ墓に………」
「きっと、白虎殿の計らいだろう。」
「ルルーシュ……僕は……っ。」
 エメラルド色の瞳から、堰を切ったように涙が溢れ出した。
 そんな彼を、ルルーシュはぎゅっと抱きしめる。
「僕は……許されたんだろうか………」
「ああ。きっと……な。」
「ルルーシュ…っ。」
 後は、もう声にならない。
「スザク。良かったな。日本に帰って来れて……」
「うん。……うん……」
 木の葉のさざめきが嗚咽をかき消し、風が涙を運んでいった。

「では、お兄様とスザクさんは、明日そちらを発たれるのですね。」
 軽やかな声が、昼下がりのサンルームに響く。
『ええ。明後日にはブリタニアに到着されますわ。』
「神楽耶さま。長い間お世話になりまして、有り難うございます。」
『とんでもありませんわ。ナナリーさま。
 それよりも…お二人の新居の方はいかがです?』
 わくわくとした声にナナリーも声が弾む。
「はい。完成しました。
 お兄様の注文通りリフォームして、家具調度品もお二人の好みに合う物を調達してあります。万全ですわ。」
『まあっ。お二人が喜ぶ顔が目に浮かびます。』
「順番が入れ違っているようですけど、お兄様とスザクさんの新しい門出には宜しいかもしれませんわ。」
 そう言って、うふふと笑う。
『まだ済んでいないのは、お式だけですわね。』
「その段取りは、アーニャさんとカレンさんがつけて下さってますの。
ブリタニアで由緒ある教会を押さえて下さったそうですわ。」
『教会式ですのね。素敵ですわ!!』
「でしょう?今からワクワクしていますの。」
『あらっ。でも……』
 神楽耶の言葉に、ナナリーも眉根を寄せる。
「何か問題でもありましたか?」
『大ありですわ!
ナナリーさま。これは大問題ですわよ。』
「ええっ!?」
『ルルーシュ様とスザク。どちらがウエディングドレスを着るのです?』
「───確かに。重大な懸案事項ですわね。」
 真剣な様子で話を続けるナナリーを横目に見ながら、彼女のアフタヌーンティーに呼ばれたC.C.とライは、紅茶の香りとデザートをゆっくりと味わっている。
「どうした。ライ。」
神楽耶とマシンガントークを続けるナナリーを唖然として傍観している彼にC.C.が尋ねる。
「──いや。俺が知らない間に、世の中はずいぶん変わったものだと思ってな。」
「そうか?本質的なものは変わっていないと思うがな。」
「本質……?」
「いつの世でも、皆が笑顔でいられるのは良いことだろう。」
「確かに。」
 楽しげなナナリーの姿に、微笑む年長者達なのであった。

END

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