合衆国ブリタニア。首都、ネオウエルズにあるヴェリアル宮。
代表であるナナリー・ヴィ・ブリタニアの公邸である。
かつて、宰相シュナイゼルが敏腕をふるった政治の舞台は、彼女がまだ少女と呼べる年齢から引き継ぎ世界を言葉によってまとめる新たな政治の場となった。
主である彼女の私室から、楽しげな笑い声が漏れてくる。
その、無邪気な、コロコロと鈴を転がすような笑い声に、その部屋を警護する2人護衛官も思わず目尻を下げ、肩の力を抜くのだった。
どんなことにも動じない彼らの気を緩めさせているとは夢にも思わないナナリーは、国際通話の最中である。
相手は、同い年で日本の代表となった皇神楽耶だ。
「まあ。それで、お兄様とスザクさんは、ホテルにお泊まりなのですね。」
『はい。先ほど、ルルーシュ様からご連絡を頂いたところです。
今夜は、2人きりの夜を満喫なさるに違いませんわ。』
「素敵だわ。神楽耶さま。感謝致します。
今頃、盛り上がって、燃え上がって…きっと……っ!」
『ナナリーさま。きっとそうにちがいませんわ。だって……』
「神楽耶さま。それは……!?」
携帯端末を持つナナリーの手に、思わず力が入る。
そして…数刻前、彼女の声に心和ませた屈強の男たちを慌てさせるほどの声が、昼下がりの古城に響き渡るのだった。
「ブラーボーッ!!」
「ここか?訪問の目的地は……」
京都北部に連なる山々。その中の一つの中腹にそびえ立つ大鳥居を見上げ、ルルーシュは独り言のように尋ねる。
長い石段の上にある神社……それは、少年の頃、足が不自由となった妹を背負って上った、あの社を思い起こさせる。
いや、あれ以上に荘厳とした佇まいで、訪問者を待ち受けている。
その先に深淵と漂う霊気さえも、一段も上らぬうちから感じられるのだ。
圧倒されているルルーシュの隣で、彼を案内して来たスザクが、緊張した面持ちでうなずく。
「そうだよ。ここが、枢木神社の本社……
枢木本家だ……」
昨夜、訪問するところがあるのだと聞かされたとき、どこか思い詰めた表情の彼に嫌な予感がした。
一人でいくのだというスザクに無理矢理同行を了承させたのだが、予感は的中したというところか。
「なぜ。今、本家を尋ねることになるんだ?」
スザクの実家が分家であることは知っている。しかし、父の代からほとんど交流がないことも聞いている。
「皇の文献を調べているうちに、枢木もブリタニアと関わりがあることが分かったんだ。
それの裏付けのために、本家にある文献も必要で……」
神楽耶に口をきいてもらって、今日の訪問となったのだ。
「骨を折ってもらったお礼にごちそうしようとしたら、ホテルのケーキビュッフェを指定されて……」
「そこへ、俺も呼び出されたということか。」
ルルーシュは小さく息をつく。
図らずも、2人とも神楽耶を頼ったということか。
『2人から、別々に頼まれごとをしたときには、本当に驚きましたわ。
それぞれのお話を伺って、これはもう、私が一肌脱がなくてはならないと確信しました。』
「それはもう、英断に等しいですわ。神楽耶さま。
それで。お兄様の方は何をお願いしたのです?」
ナナリーの問いかけに、神楽耶は、ウフフと、さも楽しそうに笑う。
『京都で一番信頼の置ける宝石店を聞かれたのです。』
「まあっ。まあ。まあ……っ!」
もしも、足が自由に動いていれば、その場で小躍りしていたであろう。
車いすでくるくるとはしゃぐナナリーの姿があった。
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