Honey moon - 10/19

 手の中で啼き続ける愛らしい小鳥。
 象牙色の上に散った花びらにルルーシュは目を細める。
 茎を伝う雫をすくい取り、淡く色づいたつぼみを撫でる。
「ひゃっ……ん。」
 びくりと震え小さく声を上げた。
 濡れそぼった指先で優しく、固く閉じた花弁を徐々に広げていく。
 つぼみに指が飲み込まれていく。
 1本……2本………
 その度に体を強ばらせて逃れようとする肩を押さえ、その耳元で囁く。
「スザク……スザク。俺だ、分かるか。」
「ル……ルルーシュ………!」
 視線を声のほうに向け、アメジストの瞳輝くその頬に手を寄せてくる。
 怯えから、安堵の笑みを浮かべる恋人に口づけた。
 ルルーシュの指がスザクの敏感な部分に触れる。
「はっ。あ……ん。」
 嬌声と共に体が跳ねた。
「あ……あ……ルル…シュ……ルルーシュッ………」
 体を震わせ名前の主を求めて彷徨う手を取り、自分の首に絡ませてやる。縋り付いてくる仕草が愛おしい。
 ルルーシュは満足げに微笑んだ。
「あ……あ、あ、ああっ………!」
 スザクの声がさらに甲高くなり、一気に果てた。
 瞳の端に浮かぶ涙をすくい取り唇を重ねる。
 啄むようなキスを繰り返し、笑顔を浮かべて見つめ合った。
「スザク……1つ聞いてもいいか?」
「うん……?」
 とろんとした表情で頷くのに一瞬躊躇しながらも、ルルーシュは胸に抱えている疑念を口にした。
「お前は何故そんなに一生懸命、古文書の解読を急いでいるんだ。
 あの膨大な書物の中から、必要な資料を見つける事が出来ているんだ。中身の解読はゆっくり時間をかけていても大丈夫だろう。
 例え今回の逗留でやりきれなくても、皇の家で管理されているのだから心配ないんだ。」
 問いかけに、スザクは目を彷徨わせる。
 少し頬を上気させたその様子に、ルルーシュは首を傾げる。
 何だ───?
 スザクのその有様は、初め心にやましい事があるのをごまかそうとしていると思っていたのだが、今こうして見てみるとまるで照れをごまかしているようにも見える。
 困惑するアメジストを見つめる翡翠から戸惑いの色が消えた。
「ごめん───。」
 ぽつんと出された言葉に、ルルーシュの肩が震えた。
「ぼ、僕…その……ああ、なんて言ったらいいのか……こ、古文書の事は口実なんだ。………ルルーシュの事を考えずにすむ様に……」
 おどおどと言葉を紡ぐスザクに、ルルーシュの目が鋭くなる。
「俺の事を……なんだって?」
 少しきつくなった声に、スザクは震える。
「その………」
 ルルーシュを見上げる瞳にまた別の色が現れ、スザクはもぞもぞと体を丸める。
「あまり見ないで欲しい……んだ。」
「なに?」
 聞き返す声には明らかな苛立ちがある。
「恥ずかしい。………ルルーシュに見られるとどうしていいのか分からない。
 あの日から…その…いつもルルーシュが気になって……目が合っただけでもどうしていいのか………」
「───だから、古文書解読を理由に俺を避けてきた……と?」
「ごめん。」
 潤んだ瞳で頬を赤らめて自分を見るスザクに、ルルーシュは呆れてしまう。
「俺達、何年の付き合いだ?今の関係になっても───」
「僕も、何故今更と思うんだけれど…でも、今もルルーシュを見ると心臓がドキドキしちゃって………」
 そう訴える彼の胸に手をやると、確かに鼓動が速い。
 ルルーシュは目を丸くしてスザクを見た。とうに20歳を超え、様々な経験を積んできた大人の男のはずが、初めての恋に戸惑う少女のようだ。
 本人も自分の感情に困惑し、救いを求めて見上げてきている。そんな姿を可愛いと思ってしまう自分に苦笑した。
「本当に、なんで今更…だな。さっきまであんなに淫らに悦んでいたくせに………」
 指先で突起を弄びながら呟く。
「きゃっ……ん。」
 先ほどまでの熱が冷めやらぬうちの愛撫に、たまらず声を上げるスザクに目を細める。
「どうしたらいいのか分からないというのなら───ずっとこうしていればいい。朝も夜もこうしていれば、俺を見て動悸を感じる暇もないだろう。」
 意地悪く笑うルルーシュに、スザクは目を丸くする。
「疲れたら眠って、目が覚めればまたこうして……余計な事を考えて悩む時間がないじゃないか。筋肉バカなお前にはぴったりだろう。」
「ぼっ僕の事をなんだと思って……!」
 非難の声も、ルルーシュから与えられる快楽に霧散してしまう。
「つまらない事に悩んでいるのがもったいないと言っているんだ。
 療養先で考え過ぎでノイローゼにでもなったら、本当にバカだろう。」
「まっまたバカって………!」
「バカをバカと言って何が悪い。ぐずぐずと考えるなんてお前らしくもない。そもそも答えなんてものは、気づいていないだけでもうでているものだ。」
「えっ。」
 ルルーシュの言葉にスザクは驚いて彼を見つめる。その表情があまりにも愛らしくて、思わず頬が緩んだ。
「素直に感じたまま声に出せばいい。それがお前の疑問の答えだ。」
 そう言ってルルーシュはスザクの両足を肩に担ぎ上げる。
 後蕾に熱を感じ、スザクは咄嗟に後ずさった。脳裏に忌まわしい記憶が蘇る。
「やっ……!」
 逃げる腰を捕まえ、ルルーシュはスザクと密着する。
 先ほどまでさんざん解されたそこは、難なくルルーシュを受け入れ飲み込んでいく。
「やっ……やぁっ………ル…ルルーシュッ……ルルーシュッ!」
 必死に名を呼ぶスザクの表情には明らかな恐怖があった。
 救いを求め抗おうとするのに、宥める様に囁く。
「スザク。スザク。大丈夫、俺だ。ルルーシュだ。
 今お前のなかにいるのは、誰でもない。この俺だ。」
 怯える翡翠がルルーシュを捕らえる。
 その瞬間、大粒の涙が瞳から溢れ、堰を切った様に流れ出した。
「あっああ……!ルルーシュッ。ルルーシュッ!」
 縋り付く体を抱え込み、ルルーシュは囁き続ける。
「………全部入った……分かるか?今、俺とスザクはひとつだ。」
「───うん…………」
「ああ……やはり気持ちいいな。スザクの中は温かい………」
「ルルーシュ……ルルーシュだ。」
「辛くないか?」
「ううん。気持ちいい。」
 嬉しそうに微笑むその顔にルルーシュは目尻を下げ、同時に先ほどまでの抵抗にスザクが受けた傷の深さを察し眉根を寄せる。
「スザク……すまなかった。もう絶対に誰にも触らせない。お前に辛い思いをさせないから。」
 スザクを支える腕に力が入る。
 労りながらゆっくりと動く。その度に漏らされるスザクの声には、もう恐れはなかった。
「ルルーシュ…ルルーシュ。好き………大好きだよ。」
 うわごとのように繰り返される言葉に頷く。
「久しぶりで歯止めがきかない。お前を壊してしまいそうだ。」
 吐き出しても吐き出してもすぐに高まる想いに苦笑しながら言えば、恍惚とした表情で首を振る。
「いいよ。壊しても……ううん。ルルーシュになら殺されてもいい。」
 朦朧としたスザクの口から出た言葉に、ルルーシュは息を呑む。
「死んでも、生まれ変わってまた君に会う。そしてきっと好きになる………何度でも何度でも………」
 それは、かつてルルーシュの腕の中で息を引き取った少女が残した言葉。
 それを今、再びスザクの口からきくとは思わなかった。
 力を込めてスザクを抱きしめる。
「ああ。俺もだ。お前に殺されても、俺は生き返ってきた。
 お前の側にいるために……もう二度とお前を話さないから……!」
「ルルーシュ……!僕も、君の側を離れたりしない。」
 2人一緒に昇り詰め、抱き合ったまま倒れる。
 深い眠りに落ちる前、ルルーシュはシャーリーに出会った。

────シャーリー。すまない。また出会えても、俺は君を選べそうにない………同じ言葉でも、こいつに言われるとこんなにも嬉しくてたまらない。俺には、スザクしかいないんだ。

────仕方ないな。でも、私はルルの事を好きになるよ。これだけは赦してね。
 スザク君と幸せにならないと、承知しないぞ!

────ああ。もちろんだ。

 少女の笑顔に力強く頷くルルーシュだった。

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