Lonely soul  - 9/22

それは、突然襲って来た。
ルルーシュの帰りを待ちながら、ワインとチーズで歓談している最中だった。
どちらとも無く顔をしかめ、頭に手をやる。
「うっ……」
「何だ……これは……」
「C.C.……君もか……?」
自分だけではなく、彼女も頭を抱えている事に、スザクは驚いた。
が、次の瞬間には頭を抱えて動けなくなった。
耳の奥で何かが反響するような、高い音がする。
「こ…これは……」
同じように頭を抱えながら、C.C.が唸る。
マオ……? V.V.……?いや。ちがう。誰だ……?
監視システムがアラート音を発し、遠隔操作で手元のPC画面に転送された画像に釘付けになる。
「まさか……こいつが……!?」
頭を抱えていたスザクが、はっとなって息を呑んだ。
「C.C.!!」
スザクの声に、C.C.は反射的にダイニングテーブルの下に潜り込んだ。
外に向って唸っていたアレキサンダーと、C.C.の膝の上にいたアーサーもそれに習う。
大きな音を立てて食器が床に落ちる。
スザクがテーブルを倒し盾にしたと同時に、激しい破壊音が室内に響き渡った。
ガラスを破って飛び込んで来た弾丸が、テーブルに壁に突き刺さる。
キンキンと耳障りな音を立てて、ルルーシュご自慢のキッチンを銃弾が飛び跳ねた。
数十秒後。辺りは再び静けさを取り戻したようになった。
「……終わったのか?」
C.C.の呼びかけにスザクは首を振って応え、床板の一部を持ち上げると入るように促す。
床板にカモフラージュされた出入り口には、地下に続く階段があった。
「ここは……」
「敵にここを発見されたときの、ゼロの緊急避難路兼武器庫。」
スザクがスイッチを入れると、照明に灯りがともり室内を照らし出す。
「スペースの都合上、管制システムは導入していないけど、ナイトメア数機とそれのメンテナンスシステム、銃火器を用意してある。」
「これもルルーシュが……?」
頷くスザクに、C.C.は呆然と声を上げる。
「至れり尽くせりだな。」
「おかげで、こうして対抗できる。」
そう言いながらスザクはライフベストを身につけ、銃に弾が装填されている事を確認してホルダーごと腰につけた。
「外に出るのか?敵の数も解らないのに。」
「敵は1人。あの男だけだ。
所持を確認したのは、機関銃と腰に長剣……機関銃の予備弾一式……」
「あの僅かな時間で……しかも酷い頭痛で……」
「今、頭痛はしない。……予備があったという事は、もう一度来るな……なら……!」
スザクはライフルを手に階段を駆け上ると、既に壊されている窓から外に向って発砲した。
スザクの思惑通り、第二波の攻撃が始まった。
「スザクッ!」
攻撃音が止みC.C.が顔を出す。
スザクは伏せていた顔を上げ、不敵な笑みを見せた。
破片でも当たったのだろう、頬に小さな切り傷ができていた。
そのまま転がり込むように、彼女の元へ戻ってくる。
その様子に、C.C.は笑みを浮かべた。
「お前のそんな顔。久しぶりに見たな。」
「え……?」
「やはり、お前も男だったんだな……と、思ってな。
ルルーシュの側では、いつも頼りなげな顔をしているからなお前は……
今は、とても凛々しく見える。」
「うーん。それ、一応褒め言葉……だよね?」
「とうぜんだ。」
キッパリ言い切る彼女に苦笑する。
「護るよ、君の事。ルルーシュの大事な共犯者だし、今の僕たちの“運命の女”だから……」
「ファム・ファタール?」
「僕にとっての運命の人はユフィだった……でも今は……」
言いかけたスザクを外からの声が遮る。
「出てこい!枢木スザクッ!!」
その声に、雷に撃たれたかのように硬直したかと思うと、外に向って歩き出す。
「スザク!?」
なにかおかしい。C.C.は彼の行動に強い不安を感じた。
スザクの様子は、自分の意志とは思えない。まるで、意に反して動かされているような……
まさか……ギアス!?
「ありえない。それに、いつ掛けたというのだ。」
彼を追うC.C.は、戸外に出る手前、壁にかけられている剣に手をかけるのを見た。
「スザク。」
ほっと安堵の声を漏らした次の瞬間、驚愕に目を見開く。
スザクの瞳に、赤い縁取りを見たのだ。
そこでC.C.は悟った。剣をとったのはスザクの必死の抵抗なのだ。
かつて、ルルーシュのギアスを利用して最強の騎士として闘った強い意志の力で、正体の解らぬ力に対抗しようとしているのだと。

自分の呼びかけに応じて外に出て来たスザクに、男は笑みを浮かべるが、その手に剣が握られている事に目を細める。
外に出ると同時にギアスは解除された。
スザクは、剣を構え男に飛びかかって行く。
男は薄く笑うと剣をすらりと抜き、スザクの剣を受け止めた。
弾き返され後ろに飛び跳ねると、体勢を立て直し対峙する。
「こいつ……っ。」
やはり素人ではない……スザクは表情を硬くする。
隙のない構えに、どう攻めるかあぐねていた。
「来ないなら、こちらから行くぞ。」
「ちっ……!」
剣と剣が激しくぶつかり合う。拮抗しているようにC.C.には見えた。
「駄目だよスザク。お前は、私には勝てない。」
男が薄く笑う。とたんにスザクの剣が鈍った。
「うっ!」
剣がスザクののど元に突きつけられる。
男の手がスザクの右手にかかり、手首をねじり上げる。
カラン……と音を立てて、スザクの持つ剣が落とされた。
腕をねじり上げたまま自分の方に引き寄せると、自らも手にした剣を捨て、スザクの頬に手を寄せた。
そして、うっとりとした表情でスザクを見る。
いや…正確にはスザクの翡翠の瞳を見つめていた。
「ああ…これだ。このメラルドグリーンの瞳……もう会えないのかと思った……また会えて嬉しいよ。」
「僕は嬉しくなんか無い。家をこんなにされて……」
「家……?あんなものはもう必要ない。
お前はもうここには戻らないのだから……」
「なん…だと?」
男の目に狂気を感じて身じろぐ。
抵抗を示したスザクの顎を捕らえて、強引に唇を塞いだ。
「うっ……く……」
逃れようと頭を動かすが、相手の方が上背がある分スザクの方が不利だ。
やっと口を離してもすぐに捕まり、さらに深くなる。
強引に侵入し蹂躙され、強く吸い上げられた。
「ぐっ……うぅ………」
自由の利く左手で押し戻そうと抵抗を続けるスザクの脳裏に、突然様々な映像が浮かんで来た。
何だ……これは?
それは、ルルーシュが第99代皇帝を名乗った時の自分達の姿……
ナイトオブゼロとして観閲式に臨んだ時……
ナイトオブゼロ…枢木スザクの墓……
自分の知る画の後から、まるで怒濤のように、見た事もない画が次々と溢れてくる。
これは……!
以前、これと同じ経験をした事がある。神根島の洞窟で…特区日本の会場で……そして、C.C.と体を重ねた時……
彼女の記憶の断片が、スザクに流れ込んで来ていた。その時に似ている。
まさか…………
息継ぎもままならない苦しい状態で、左手を彷徨わせる。
指が、男の巻いているスカーフにかかり、それにしがみつくように引き抜いた。
「スザクッ!」
C.C.が叫ぶ。黄金色の彼女の瞳が見開かれた。
スザクが奪い取ったスカーフの下から現れたのは、赤い羽を広げた鳥の紋章………

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