「なん……だと……?」
ルルーシュとライ。両方から漏れた言葉にスザクは困った顔をしてみせる。
「私……私の名はライだ。」
「ライ…なんと言うの?ファミリーネームは?」
「それは………」
答えに窮する彼に、スザクはさらに質問を重ねる。
「フランソワーズとは、君にとっての何?」
「彼女は、私にとっての“特別”だ!」
「特別な…なに?友人?恋人?妻?姉?……それとも、妹……?」
畳み掛けるスザクに、困惑の色を深めて行く。
「おい、スザク。もしかして、奴は……」
ルルーシュの問いかけに、スザクは頷く。
「記憶の一部が欠落している。彼にとって大切な人物の記憶と、彼女が呼んでいた愛称だけを残して……
それだけが、彼の生きる寄拠だった。」
そう言って、座り込んでいるライの前に膝をつく。
「ライ……君は物心ついた時から、その、言葉だけで人を動かす力を持っていた。そして、その力故に周りの者から恐れられ、忌み嫌われていたが、味方はいた。君の母親と妹のフランソワーズだ。
そして、ブリタニア皇族であった君たちは否応も無く帝位を巡る争いに巻き込まれて行った。母親と妹を護るために父親と異母兄弟を殺した君を、時の皇帝が処刑している。
そのとき、コードが発動し……君は不老不死になったんだ……」
「……一体……なにを………」
「君が封印した“過去”だ。それは今、僕の中にある。
君が望めば返す事ができる。」
「私の過去……私の記憶……それを自ら封じたと言うのか……何故?」
「その答えも君の記憶の中にある。」
「どうする。過去を取り戻すのも、今までのようにフランソワーズという女の面影と彼女がお前に与えた名だけを抱えて孤独に生きるのもお前の自由だ。
だが、その時はもう私達に関わらないと誓約してもらうがな。」
ふてぶてしい笑みを浮かべる魔女を、ライは一瞥する。
「私と同じだと言ったな。」
「ああそうだ。私も死ねない体だ。そして、あいつはお前と同じ、言葉1つで他人に命令できる能力を持っている。」
そう言ってルルーシュを見る。
「ライ。君は何も知らず長い年月を生きて来た。でも、ここには君を理解できる人間がいる。」
「……私の側に……いてくれるのか……?」
スザクは黙って頷く。
「───返して欲しい……私の過去を……」
ライの言葉に、スザクはルルーシュを振り返った。
「ルルーシュ。助けに来てくれてありがとう。
捕われているうちに知ったんだ。彼の孤独と絶望を……だから。」
「……お前を怯えさせ、傷つけた相手だぞ。そんな男を助けるのか。」
「うん。……多分これは僕とC.C.にしかできない事なんだ。
許せるのかと聞かれれば……許せるかどうかまだ解らない。でも、許せない事なんかないって……昔、シャーリーに教えられたから……
彼は、きっと僕たちの力になってくれる……そう信じてる。」
「───お前のお人好しには呆れるな。……だが、それが俺の枢木スザクなのだから仕方ない。」
「ありがとう……」
ルルーシュに答えるスザクの顔に、ライは目を見張り、そして嘆息する。
───負けた………
いや…初めから勝負にもなっていないか…私は、彼を傷つける事しかできなかったのだから───
ルルーシュに向けるその笑顔があまりにも綺麗だったから………
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