Lonely soul  - 14/22

ここは……どこだ……
不思議な空間だ。図書館のようだが、天上も床も無い。書架のようなものに大量に収められた書物もあれば、平積みにされたものもある。
巨大な本が空中に漂い、パラパラと勝手にページが繰られている。
そのページは、文字が次々と浮かび、挿絵の人物が自由に動いていた。
床らしき場所にも本のページがある。
それを見たスザクは息を呑んだ。 そこに自分がいる。
ナイトオブゼロの衣装を身に着け皇帝ルルーシュの側にいる自分。
C.C.と楽しそうに話しながら歩いている自分。
そして………
「これは……っ。」
あの男の記憶か?
スザクは、書架に走ると本を開く。スザクの知る男の過去がそこにあった。
そしてその中に見つけたのだ。“フランソワーズ”を。
「………確かに僕と同じ目と髪の色だけど……」
ここまで執着する程似ているだろうか………
気がつけば、周りにはスザク以外の人間も歩いている。
そこに、フランソワーズがいた。
「あっ……待って……待って下さい!」
呼び止めるが、彼女は気づく事無く進んで行く。
「待って!」
掴もうとした手がすり抜けた。
「なっ……?」
唖然とするスザクに、後ろから声がかけられる。
「ここはあの男の記憶……記憶の中の人物と会話する事も触れる事もできない。」
聞き覚えのある声に振り返る。
「C.C.!」
スザクの歓喜の声に、魔女は優しく笑った。
「しかし、こんなところによく来れたものだ。思考エレベーターもないというのに……」
「思考エレベーター?シャルル皇帝が“神”を殺すために作った……」
「ああ。ここはCの世界の一部……普通は記憶の番人がいるはずなのだが……」
「私のことか?」
書架の影から男が現れ、スザクは一瞬体を強ばらせた。
あの男に瓜二つのその人物は、本人より薄暗い印象がする。
「ずいぶんと怠惰な奴だな。異分子が入り込んだというのに。」
「ふん。ここに来れたという事は、私が自分を知って欲しい相手なのだろう。
しかし、久しぶりだな……以前は女だったが……」
C.C.の嫌みも気にした様子も無く、男はスザクの顔を覗き込むとフンと笑う。
「なるほど……彼女と同じ瞳だ。」
「あ…あの。以前来た女の人って……彼女ですか?」
そう言ってフランソワーズをさす。
「違う。彼女はフラソワーズだ。フランソワーズは私の特別だ。
時々彼女と同じ瞳の者がここに来る。が…大抵は恐れおののいて去って行くな。」
そう言ってクスリと笑う。
「だが、お前は違うようだ。」
「教えて下さい。フランソワーズとは一体……」
「私も知りたい事がある。あの男は何故、コードとギアスの両方を持っている。」
スザクとC.C.は、それぞれ記憶の番人に問いかけた。
「知ってどうする。お前達にはかかわり合いの無い事だ。」
「関わりならもうとっくに持っている。私は殺され、こいつは強姦された。」
C.C.の怒りに、男は眉根を寄せた。
「それは、申し訳ない事をした。
私は、私の記憶の一部を封印した。
そうしなければ生きて行けないと思ったからだ。
ある部分が抜け落ちた記憶が、私の精神をアンバランスにしている。だが、この記憶を私が取り戻すには、ある者の存在が必要だ。」
「………それが、フランソワーズですか。」
「そうだ。かつて私の唯一の理解者だった。
彼女もしくは、その存在を埋めるだけの存在が必要だ。
お前が、それになってくれるのか。」
男がスザクに問う。
「───無理です。僕は彼の気持ちに応えられない。彼の孤独を埋めてはやれない。」
「なら、何も聞かずに立ち去るがいい。」
「そう言う訳にも行かない。」
スザクはキッパリと断った。
「彼の孤独を埋める事はできないが、その孤独に寄り添う事はできるかもしれない。
教えて下さい。フランソワーズとはどんな人物なのですか。」
「寄り添う……?」
「彼の側で一緒に生きます。ルルーシュとC.C.と一緒に……」
「スザク?」
「お人好しって呆れられるかな……でも、彼の孤独を知ってしまった以上、そのままにしておけない……」
「ルルーシュ流に言えば、お前は馬鹿だ…な。」
「……かもね。」
スザクは小さく笑った。
「───私が封印した記憶を取り戻す時、側にいてくれるという事でいいのか?それを知った上で、私の側にいるという事なのか。」
「そうです。多分彼は、僕たちにとっても必要な存在のはずだから。」
「解った。」
記憶の番人は一冊の本を取り出した。
「これが、私の封印した記憶だ。力の事もフランソワーズの事も書かれている。」
「ありがとう。」
「礼を言うのは私の方だ。ずっと待っていたからな……お前のような奴を。」
微笑む男に頷くと、スザクは本を開いた。

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