容赦なく責め立てられ追い上げられて声を上げる。
そんなスザクを、男は獲物をいたぶる獣の目で見下ろした。
「ひ…卑怯者……!」
涙目で悪態をつけば、冷笑が返ってくる。
「ふん………それにしても驚いたな。お前の情人はあの女だと思ったのだが……
相手は、悪逆皇帝か……?自分の騎士を情婦代わりに使うとは……」
侮蔑を込めて笑う男に反論する。
「ルルーシュは、僕の事を……そんな風には……」
「では、何だというのだ。まさか、恋人というつもりか?」
「僕たちは……2人でひとりなんだ……お互いの…足りないところを補い合って……どちらが欠けても…生きて行けない……」
「半身だと言うのか。……では、お前は死んでいるのだな。
皇帝はもうこの世にいないのだから……!」
男が、スザクの足に手をかけた。
「ひっ……」
震えるスザクに、男の笑みがさらに冷酷さを増す。
「死者を抱くのも……悪くない。」
「あっ…ああぁぁぁっ!」
むき出しの感情が、容赦なくスザクを襲った。
同じコード保持者であるC.C.と繋がった時にはこんな酷い思いはしなかった。
お互いの孤独と寂しさを分け与えるような、切なさの上に優しさも感じられた。
だが、この男の行為は違う。一方的な暴力だ。
とてつもない孤独と絶望が怒濤のように流れ込んでくる。
受け止めきれない。感情の渦に押しつぶされそうだ。
「や……いやぁ……あ…ああ……ル…ルルーシュッ……」
助けて……!
救いを求めて空を彷徨う手が、ぱたりと落ちた。
「あ…ああ……もっ……お願……もう…寝かせて………」
スザクの懇願を無視し、容赦なくなぶる。
「や…やぁっ……ル…ルルーシュ……ルルーシュ……!」
救いを求める声を奪い、体に歯をたてる。
スザクの声がさらに高くなった。
「許しを請うなら私に請え。名を教えたろう。」
頭を抱え視線を合わす。涙に潤んだ瞳は、まさにエメラルドの輝きを見せるが、そこに映っているのは抱いている自分ではない事を男は知っていた。
自分の紫紺の瞳を見つめるスザクの口から出る名前は、英雄に誅殺された皇帝のものばかり……
ギアスで命じようとも、自分の名がその唇から紡がれる事は無かった。
何度意識を飛ばしたのか解らない。その度に、奥から突き上げてくる刺激に起こされ、揺さぶられてまた果てる……
もう、何も考えられない……出来る事と言えば、恋しい人の名を呼ぶ事だけ……
「あ……ああ……ルルーシュ……」
ついにスザクの意識は完全に沈んだ。
全く反応の無くなった体から、自分を離す。
ぐったりとしたスザクの頬を撫でる。汗で額に張り付いた前髪を払い、唇を押し当てた。
「そんなに、あの男がいいのか………」
ナイトオブゼロ……前皇帝から帝位を奪った男の傍らに立つ“裏切りの騎士”……その瞳に一瞬で心を奪われた。
昔愛してやまなかった少女と同じ瞳。
もっと側に…もっと近くに行きたい。直接その瞳を見たい。
ただそれだけの想いで、ブリタニア軍に入隊した。
新参者が皇帝の騎士に近づく事など叶わなかったが、遠くからでもその姿を見られる事が嬉しかった。
そのうち気がついてしまった……この感情がなんなのか。
フランソワーズと同じ瞳を持つ彼に抱いている感情を……
そして、自分と同じ想いで彼を見ている人物にも気がついた。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア……彼のまなざしは、騎士に対するものじゃない。
だが、彼はルルーシュの想いには気づいていないようだった。
ある日から、騎士の主を見る目が違っていた。きっと、皇帝が本懐を遂げたのだろう。切なそうに苦しそうに主を見る騎士を見たのは、それが最後だった。
騎士は主より先に死に、その主も、公開処刑とも言うべき最後を迎え散って行った。
自分の恋は、誰にも知られる事無く終わったのだと思った。
だが、死んだと思っていた人物が、ある日突然自分の手の届く場所にやって来た。幸福そうな夫婦の姿で……
それを見た時に湧いた新たな感情……怒り……憎しみ……嫉妬。
そう…これは嫉妬だ。彼の愛情を一身で受けている女への!
だから、ずっと機会を狙っていた。彼を奪い取り、邪魔な女を抹殺するときを……
「だが、お前の心はまだ、あの皇帝の側にあるのだな……」
もういないあの男に……!
視界がにじむ。
男は、自分が泣いている事に気がついた。
「フ…フフ……まだ、こんな感情が残っていたんだな。」
もうこんなものは出ないと思っていた……切なさに涙するとは……
こぼれた雫が、眠っているスザクの頬に落ちた。
「ん………」
閉じられていた翡翠がうっすらと開く。スザクは、朦朧とした表情で男を見た。
「……泣いているの……?……大丈夫……泣かないで…側にいるから……」
「───お前………」
スザクの手が、頬を伝う涙を拭った。
「側にいるから………ライ……」
初めて彼の口から出た名前に息を呑む。
頬にあった手がするりと落ちる。咄嗟に掴むが、スザクはまた寝息を立てていた。
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