chapter.3
スザクは見知らぬ場所で意識を取り戻した。
頭がガンガンする……体を起こそうとして、吐き気に襲われまた倒れ込んだ。
何とかやり過ごして辺りを見回す。
薄暗く、湿った空気が漂っている。
よく見れば、石造りの建物の室内のようである。
照明は、壁にかけられた蝋燭のみで、室内の全体を知る事は叶いそうも無い。
自分のいる場所を確認すれば、簡易的なベッドに寝かされていたようだ。
「一体ここは……」
もう一度体を起こし、ベッドから降りようと足を動かして、足首から伝わる違和感に眉をしかめる。
シャランと金属音がし、足首が重い。
かけられていた毛布を剥がし、確認したスザクは、顔を引きつらせた。
左足に足かせが嵌められており、それは壁から鎖でつながれている。
背筋に冷たいものが走った。
「───真性のストーカー……だったのか……」
昔見た映画のワンシーンを思いだす。
ある作家の熱狂的なファンが、その作品を愛するあまり作家を自宅に監禁すると言うものだった……いつ誰と見たのか憶えていないが、その作家もこうしてベッドにつながれていた。
彼はその後どんな目にあったのか……
あまりの事に目眩がして、再びベッドに寝転んだ。
「何とか逃げ出さないと……」
そんな事を考えていると頭に声が響く。
「C.C.……?」
『やっと気がついてくれたか。』
そのほっとした声にスザクも安堵すると同時に、意識を失う前に見た光景が目に浮かぶ。
「君……もう大丈夫なの……?」
彼女の体質(?)を知るスザクは、何と声をかけていいのか解らずそんな声を漏らした。
C.C.はクスリと笑った。
『いきなり額に一発喰らったが、一瞬だったから苦しむ間もなかったからな。』
“苦しまなかった”という言葉に、ほっと息を吐く。
「ごめん。護ると言っていたのに……」
『相手がギアス能力者では、分が悪かったんだ。
お前こそ、無事なのか?』
「今のところは……足を鎖に繋がれて動けないけど……」
『───穏やかじゃないな……
どんなところに繋がれているんだ。』
「それがよく……かなり古い建物だとは思うけど……灯りが蝋燭しかないから……」
『電気が通っていないのか。』
「うん。壁も…床も……石で作られているみたいだ。
湿っぽくて、ちょっと冷えるかな……」
そこまで話して息を呑む。
ベッドから見える位置にある木製の扉の向こうに、人の気配を感じたからだ。
「奴が来た───」
『解った。必ず助けに行くから、犯人を刺激するなよ。』
「うん。」
短く答えると、C.C.からの呼びかけは無くなった。
扉がきしんだ音を立て、スザクをここに監禁した男がランプとトレイを手に入ってくる。
起き上がって自分を見るスザクに、男は一瞬驚いた顔をしたが、それは薄い笑いに変わる。
「目が覚めたのか。」
「ああ……」
男は、スザクに近づくと手のトレイを差し出す。
「食事だ。」
トレイの上には、パンとスープの入った皿が乗っている。
スザクがじっとそれを見ていると、男は小さく笑った。
「どうした。毒なんか入れていないぞ。」
それには答えず、じろりと相手を睨むとトレイを受け取り、スープをすすった。
その様子に男は嬉しそうな顔で椅子をベッドの近くに引き寄せ、そこに座った。
「ずいぶん素直だな。」
「君が僕を殺すつもりが無い事は解っている。それに、こんな状態で抵抗しても無駄だし……」
そう言って鎖を鳴らしてみせる。
「賢明な判断だ。」
男は、食事を続けるスザクを飽きる事無く見つめている。
そのどこかうっとりとしたまなざしに、スザクは居心地悪そうに顔を伏せた。
すると、男が顎に手をかけ顔を上げさせてしまう。
「顔を伏せるな。……瞳が見えない。」
「瞳……?僕の目か……?」
「ああ。そのエメラルドの瞳だ……ずっと探していた…フランソワーズと同じ瞳を持つものを……」
「フラソワーズ……?」
「きっとお前は彼女の生まれ変わりだ。その瞳も……栗色の巻き毛も彼女のものだ。」
愛しげに頬を撫でる手を払う。
「やめろっ!」
目を細めて睨みつければ、男は椅子から立ち上がり、スザクの頬を激しく叩いた。
衝撃で、食べかけのトレイが床に大きな音を立てて転がり落ちる。
「そんな目で私を見るなっ!フランは…フランソワーズは決してそんな目で私を見たりは……!」
「僕は女性じゃない!第一こんな目に遭わせた相手を、好意的に見られるはずがないだろうっ!」
「性別などどうでもいい……その目も髪も彼女のものだ……
髪を伸ばせ……そうすればもっと似てくる………」
狂気を孕んだその紫紺の瞳に、戦慄する。
ルルーシュと同じ瞳なのに………
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